秘密で準備しよう②
「そうか。もうすぐミーリアの誕生日なのね」
「そうなのか?」
「えぇ。ちょっと待ってて」
そういってアリアは一度部屋から出て行く。
そして、何かの書類を持って戻ってくる。
アリアが持っていたのはこの村の名簿みたいなものだ。
村人の紹介を受けたときの情報などを納税用の書類の最初の方にまとめてあるらしい。
意外と几帳面だなと思った記憶がある。
理由を聞いたら、納税官に勧められたからとの返答が帰ってきた。
記憶しておいても良いのだが、字が読めてかけるものがあるのなら書き留めておいた方がいいと言われたらしい。
納税用の書類はタダでもらえるしな。
紙を作る魔道具が遺跡からよく発見されるので、紙は比較的安価に手に入る。
そのため、納税用の書類に別の情報を記載しても怒られることはないらしい。
ほとんどの村で納税用の書類の前半分は住民の情報が記載されているそうだ。
役に立ったのは村を逃げ出した若者を指名手配した時だけだったと言っていたが。
それに、多分、目的は納税官が村の状況を知るためだろう。
納税用の書類のため、この書類は納税官が毎年確認する。
その際に、この村の情報のメモも確認しているのだろう。
なかなかうまいやり方だと思う。
それを俺が話すと、アリアはいやそうな顔をして記載をやめようかと相談してきた。
でも、いきなりやめたら不審に思われるし、結局、外に知られても大丈夫なような最低限の情報だけを記載しておくことになった。
反乱を企てているわけではないが村の情報を盗み見られるのは気持ちよくないからな。
「ほらこれ。ちょうど来週がミーリアの誕生日だわ」
「ほんとだ」
その書類が今回役に立った。
アリアが持ってきた書類にはミーリアの誕生日が書かれていた。
「でも、誕生日? が近くなったらどうして落ち込むの?」
「貴族はね。誕生日を祝う風習があるの」
この国では平民は一年に一度春に年を取る。
その時にお祝いをすることになっている。
だが、貴族はちゃんと生まれた日に誕生日パーティーを催したりする。
おそらく、ミーリアにとって、誕生日は貴族で無くなったことを実感するイベントなのだろう。
だから、いま落ち込んでいる。
……なんか、微妙に違うような気がする。
ミーリアがそんなことであそこまで気落ちするだろうか?
「じゃあさ! 俺たちで、その誕生日パーティ? やろうぜ!」
「え?」
「リノ。パーティなくて落ち込んでるわけじゃないのよ?」
「わかってる! でも、つらい思い出なら楽しい思い出で上書きすればいいだろ!」
リノは元気にそういう。
俺が悩んでいる間にも話は進んでいく。
違う気がするがほかに何か思い当たることがあるわけでもない。
「……私も、いい案だと、思う。レインが、来る前は、つらいこと、いっぱいあったけど、最近は、楽しいことばっかで、あの時のこと、思い出すことも、あんまりない」
「リノ。スイ」
「そうね。昔のことを忘れるくらい。いえ。誕生日といえば今年の誕生日しか思い出せなくなるくらいすごい誕生日パーティにしましょう!」
「キーリ……そうね。それがいいわ」
なんか、あれよあれよという間に誕生日パーティをすることになってしまった。
キーリとアリアも乗り気のようだ。
今更違うんじゃないかとは言いだしづらい。
……でも、パーティでパーッと騒ぐのはありかもしれないな。
もし全然関係なくても気分転換くらいにはなるだろう。
「ねぇ! せっかくならサプライズパーティにしない?」
「サプライズパーティ?」
「ミーリアのおすすめの本に出てきたの。当日まで主賓には何も伝えないようにしておいて、あっと驚かせるの! その本。今もミーリアが読んでるからきっとミーリアも喜んでくれるわ!」
あのさかさまの本か。
絶対読んでないと思うけど、無意識に手に取るなら好きな本なのかもしれない。
「なんだそれ! 面白そうだな! 俺もそれがいい!」
「私も、サプライズパーティ、やってみたい」
スイとリノも乗り気みたいだ。
別にサプライズにする必要はないと思うが、楽しんで準備できるならそれに越したことはないか。
ミーリアがあの様子だとブラックウルフへの挑戦は延期せざるを得ないし、やることができてちょうどいいだろ。
「じゃあ、ミーリアには内緒だな」
「おー!」
俺たちはミーリアの誕生日に向けてパーティの準備を始めた。
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