秘密で準備しよう③
「レイン兄ちゃん! 早く早く!」
「おー。すぐに行く」
俺はウキウキとした様子でかけるリノの背中を追う。
俺たちは誕生日パーティの準備を始めた。
準備期間が一週間しかないから、結構急ぎで準備をする必要がある。
そのうえ、ミーリアに気づかれないようにいつもの鍛錬をやりながらの準備だ。
スケジュールはかなりタイトになる。
そんなわけで、今日はアリアとリノと一緒に魔の森に素材採集に来ていた。
キーリとスイはミーリアの気を引いてもらっている。
さすがにみんないなくなるとミーリアも気が付くかもしれないからな。
それはいいんだが。
「……ここまでする必要はあるか?」
「え? でも、貴族のパーティにケーキは必要不可欠よ?」
「……そうか」
せっかくなので、貴族のパーティの要素も取り入れようということになった。
アリアにいろいろと話を聞いたところ、貴族のパーティには年齢の数だけのケーキを用意する必要があるらしい。
そして、そのケーキがちょうど食べきれるだけのお客さんを呼ぶそうだ。
実際はお客さんの数に合わせてケーキを小さくして数をそろえるらしいが。
場所によっては一口サイズのケーキを作ることもあるそうだ。
まあ、それはさておき、貴族の誕生日パーティを再現するためには年齢と同じ数だけのケーキが必要なわけだ。
ミーリアは俺より一つ上でもうすぐ十七歳になるから十七個か。
今はそのケーキの材料を取りに来ていた。
「普段はこの辺までは来ないからね」
「この辺はちょっと遠いからな」
今はケーキの材料として一番重要だといわれた甘い果物を取りに来ている。
ケーキは甘くないといけないらしい。
……ほんとか?
まあいいか。
魔の森の中にも甘い果物がなる場所はちゃんと見つけてあった。
だが、その場所は村から少し離れすぎているので、鍛錬で来るのは無理なのだ。
それに、そこから少し先に行くと、魔物がグレイウルフから別の魔物に変わってしまう。
二種類の魔物を警戒しないといけないので、戦闘がしにくいのだ。
そう言っても出てくるのは一体だけだ。
アリア一人でも十分の対処できるだろう。
そこまで気を張る必要もない。
やっぱり問題は遠さだな。
遠いとは言っても、アリアたちも魔術がうまくなったので、全力で身体強化して走り抜ければいけない距離じゃない。
索敵とかを俺が遣れば往復で一日はかからないはずだ。
俺一人で行ってもいいのだが、俺ではどの果物がおいしいか判断できない。
そういうわけで、今は三人で果物のなる場所を目指していた。
「あ。グレイウルフ。『風刃』」
俺は索敵に引っかかったグレイウルフを魔術で仕留める。
グレイウルフは視界に入る前に魔石へと変わった。
存在したことも倒したことも俺の索敵魔術上でしかわかっていない。
動きを見る感じ、リノも見つけてたみたいだけど。
どうもリノは魔術以外の方法も使って索敵してるみたいなんだよな。
説明を受けても良くわかんなかったんだけど。
今日は急いでいるので戦闘も全部俺がやっている。
当然、魔石も放置だ。
進路上で倒すようにして、魔石を回収してもいいのだが、そこまでするのはさすがにめんどくさい。
この前大量にグレイウルフを倒したので魔石は腐るほどあるのだ。
「相変わらずすごいわね」
「もうスイならグレイウルフは一発で倒せるだろ。索敵ならリノが俺以上にやれそうだし」
アリアは感嘆の息を漏らす。
だが、さっきの俺と同じようなことをスイとリノでもやることができる。
スイの魔術は相当な練度になっているので、グレイウルフ程度であれば遠くからでも一撃で仕留められる。
リノの索敵は下手したら俺よりも上かもしれない。
「でも、レインは一人でやってるわ」
「一人でやる必要はないだろ?」
「……そう、よね」
アリアは一人でできる俺がうらやましいようだ。
みんなでやろうと一人でやろうと結果が同じなら大して変わらない。
これまでのみんなの成長を見て、何かに特化させた方が能力は高くなるのは間違いない。
それなら、それぞれが何かに特化させた方がいい。
それに、俺とアリアたちの実力差ははっきり言って百倍じゃ効かないくらいにある。
それだけの実力差がある俺と比べられても困るんだけど。
「それに、一人で全部できるようになるのも時間の問題だと思うぞ?」
「そうよね!」
アリアも特化させた方がいいというのはわかっているのだろう。
それでも、一人でやれるようになりたいのだと思う。
一人でも全部できるようになると聞いて明らかに弾んだ声を出す。
アリアが直接的に言って来るだけで、おそらくみんな同じようなことは思っているのだろう。
キーリも直接戦闘できるようにゴーレムの制作にずっとチャレンジしているし。
(特化させたチーム戦闘をするのが一番なのはわかっているが、少し個人戦闘もできるようにしてあげたほうがいいかもしれないな)
俺は今後の彼女たちの教育方針を考えながら魔の森の中を駆け抜けた。
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