秘密で準備しよう①
「なあ、最近ミーリアの様子がおかしくないか?」
「あ、レイン兄ちゃんもそう思うのか!? 俺もそう思ってた!」
「今も、ぼーっと、本を、読んでる」
ジーゲさんが来た次の日、俺はミーリア以外の四人を集めて話し合いをしていた。
俺がミーリアの様子が変だと言うとリノとスイが同意してくれ、アリアとキーリもうなずいている。
どうやら、みんなミーリアの様子はおかしいと思っていたらしい。
「誰か理由を聞いた?」
みんなが首を横に振る。
理由を聞いたものはいないらしい。
それもそうか。
ちょっと尋常じゃないくらい様子がおかしかったからな。
声を掛ければ張り付けた笑顔で対応してくるので何があったのか聞きにくい。
もし聞いたとしてもミーリアは「何でもないですよ」といわれてはぐらかされるだろう。
最近ミーリアはずっと上の空だ。
今も、部屋で本を持って何か考え事をしている。
本を読んでいないとわかるのは持っている本が上下さかさまだからだ。
本を上下さかさまに持つとか実物を初めてみた気がする。
それに、普段であれば、自分以外の四人がいなくなれば理由くらいは聞かれるのに、今は何も言ってこない。
小さなミスは増えているし。
大きなミスはしないので実害は出ていない。
ミス自体は問題ないのだが、このままでは怪我とかをしてしまわないか少しだけ心配だ。
できることなら理由を知って解消してあげたい。
「おかしくなったのはジーゲさんが来た辺りからか?」
「そうね。私が初めておかしいなと思ったのはジーゲさんが帰った後にスタングレネードを売り忘れたって言ってた時よ」
ジーゲさんが帰った後、ミーリアと一緒に話していた時に、スタングレネードを売り忘れたという話をしていた。
ミーリアは結構しっかり者だし、ことお金がかかわると必要以上に執念を燃やすので、スタングレネードを売り忘れるのは妙だ。
もし、売り忘れたと気づいたらもっと悔しがるはずだ。
なのに、あの時のミーリアは失敗したとは思っていても悔しがっている様子はなかった。
「相当な利益が出てたのに喜んでなかったしね」
「それは絶対に変だな」
ミーリアはお金が大好きだ。
昔いろいろあってお金を使いすぎて家を傾けてしまったらしく、それ以来お金のありがたみがわかったといっていた。
だけど、俺が見る感じ、もともとその気質はあったように思える。
売上金を数えるときの目が明らかに常軌を逸してるからな。
お金を数えながら「ふひひ」とか言ってたし。
たぶん、家のことがきっかけで本性が表に出てきただけだろう。
それはさておき。
そんなミーリアがかなりの利益が出たのに対して喜んでいないというのは異常事態だ。
「ミーリア。ジーゲのおじさんに何か言われたのか?」
「それは、ないと、思う」
「俺もそう思う。ジーゲさんの方は普通だったし」
ジーゲさんは普通に商品を受け取って普通に帰っていった。
おかしな様子は見て取れなかった。
それに、ジーゲさんは辺境伯様お抱えの商人だ。
おかしなことはしてこないだろう。
「じゃあ、どうしてかしら?」
「うーん」
五人で頭をひねる。
なにかミーリアが気に病むようなことがあるだろうか?
「買った商品に何かあったとか?」
「でも、今回買ったのって、春物の衣類が少しと、後は依頼されたポーション瓶くらいのものだろ?」
「……あ!」
突然、キーリが大きな声を出す。
どうやら、何か思い当たることがあるらしい。
「そういえば、去年も春物の衣類を買ったころ、ミーリアの様子がおかしくなってたかも」
「そうなのか?」
「えぇ。村ができて少ししたくらいの頃ね。王都から大工さんが来てくれてたんだけど、一緒に商人さんも少し来てくれてたの。そこで春物の衣類を譲ってもらったんだけど、そのころも、落ち込んだ感じだった気がする」
「そういえば」
キーリの発言にアリアも心当たりがあるように言う。
どうやら、去年も同じようなことがあったらしい。
「じゃあ、時期の問題か……」
「……そうだ! おれ、それで気になってミーリアにどうして落ち込んでるのか質問したんだ」
「ほんとか? なんて言ってた?」
リノは真剣な顔で首をひねる。
必死に去年のことを思い出しているようだ。
「えーっと。……そうだ! たしか、ミーリアの生まれた日が近いって言ってたんだ! だけど、俺はそれでなんで落ち込むのかわかんなかったんだ。俺に話して元気出たって言って、次の日くらいからは元気そうだったからすっかり忘れてた」
「あぁ!」
アリアは合点がいったような顔をする。
どうやら、アリアはミーリアの不調の理由に見当がついたようだ。
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