閑話 愚王たちのその後パートⅡ⑤
「何? 辺境軍が勝手に徴兵をしている?」
「はい。特権を行使して地域の市民を徴兵しているそうです。辺境の貴族からはこれはどういったことかと質問が来ています」
国王は副軍務大臣の報告に目を丸くした。
緊急の謁見依頼を受けた時にはいったいどんな悪い知らせを聞かされるのかと思ったが、副軍務大臣が報告してきた内容は国王の予想とは大きく違っていた。
どうやら、辺境軍が魔の森付近で徴兵を行っているらしい。
軍の将軍には緊急事態に陥った際のために、独自裁量で徴兵を行う権利が与えられている。
わざわざ中央の決定を待っていたら間に合わないかもしれないからだ。
辺境軍の将軍にもほかの軍同様にその権利は与えられている。
今まで使われたことがないので、半分忘れかけていた。
魔の森から出てくる魔物はある程度こちらで操作できるので緊急事態に陥ることがないのだ。
大方、我々が中央軍を引っ込めた腹いせか何かだろう。
謁見依頼も忙しくて対応できていなかったしな。
いやはや、悪い情報でなくてよかった。
……この徴兵で軍の信頼が落ちる恐れがあるのだから十分悪い情報か。
いかんな、最近感覚がマヒしている。
「春は魔の森が活発になるため、それに備えた徴兵と言っています」
「ふむ」
どうせ、春は作付けもあるので大して人手も集まらないだろう。
それに、これは軍派閥の力をそぐいい口実になりそうだ。
辺境軍も軍務大臣の部下だ。
部下の失敗は上司の責任にしても問題ないだろう。
辺境軍の将軍を軍務大臣が生贄にするかもしれないが、それならそれで軍派閥の内部分裂を誘える。
何にせよ、今は軍派閥が勢いがあるから、それをそげるのは助かる。
「勝手なことをして国民の軍に対する信頼を下げさせる行為は看過できない。軍務大臣に責任を取らせろ」
「は――」
「申し上げます!」
その時、伝令の兵が入ってきた。
私は嫌な予感がした。
大体、こういう時に入ってくる伝令は悪い知らせを運んでくるのだ。
……副軍務大臣ほどの高位の役職の者との謁見に割り込んでくるなんて緊急かつ悪い情報に決まっているか。
良い情報だったら割り込む必要はないからな。
「なんだ?」
「第二王女からの伝令です。辺境に配置していた中央軍三中隊、壊滅。辺境軍がなんとか持ち堪えているが、このままでは破られるのも時間の問題と」
「「なに!?」」
国王が息も絶え絶えな伝令に続きを話すように促すと、伝令は最悪の事態を報告してくる。
伝令の兵はそれだけ告げるとその場で崩れ落ちる。
その情報は予想外だった。
しかも、先ほどまで話していたことだ。
中央軍が壊滅?
徴兵はうまくいっているのか?
春になると魔の森が活発になるというのは本当だったのか!?
質問をしたいが、伝令の兵は完全に意識を失っているらしく、衛兵が運び出していってしまう。
「できるだけ早くの救援を求めています」
「情報はあとでいい。副軍務大臣。辺境から戻ってきている部隊は今どこだ?」
国王は部屋から出て行こうとする副軍務大臣を呼び止める。
伝令の兵の様子を見ればわかるように今は一刻を争う状態だ。
情報を集める前に対応する必要があるだろう。
今魔の森の一番近くにいる軍は魔の森から呼び戻している途中の中央軍だ。
「おそらく、辺境まで二週間ほどのところかと」
思ったより遠い。
移動命令を出したのは二週間前なのに、すでに二週間移動しているということは命令を出した日に動いたということか?
何にせよ、その軍をできるだけ早く辺境に送る必要があるだろう。
「すぐに反転させろ! 大至急だ!」
「は!」
辺境軍の将軍の対処は正しかった。
今ギリギリ持ちこたえているということは徴兵がなければすでに破られていてもおかしくないということだ。
いや、今この時にも突破されているかもしれない。
今できることは可能な限り早く中央軍が少しでも早く魔の森に到着するのを祈ることだ。
どうしてこんなことになったんだ。
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