秘密で準備しよう⑦
「うっぷ」
俺は家の外に出て涼んでいた。
正直、食べすぎた。
ケーキ十七個は流石に多かった気がする。
一個一個のサイズは小さめにはしたが女の子では一人一個食べるのがやっとだった。
結局、ほとんど俺が食べる羽目になった。
十個分以上は俺が食べた気がする。
やっぱりもっと小さくしておくべきだったな。
ケーキだけなら何とかなったかもしれないが、それに加えてかなりの量の食事もあったのだ。
無謀だったとしか言いようがない。
でも、残すわけにはいかない。
誕生日の食事を残すのは縁起が悪いからな。
今、食堂では料理を食べ終わってみんなでゲームをしているところだ。
これも貴族の誕生日では良くあることで、景品もちゃんと用意してある。
景品と言っても、リノの傑作であったり、キーリが作った簡単な魔道具であったり、頼んだら手に入りそうなものだ。
それでも、景品があることに意味があるので、大丈夫だろう。
「レイン、大丈夫ですか?」
「ミーリア?」
俺が涼んでいると、ミーリアが話しかけてくる。
ミーリアは俺を心配するような顔をしていた。
おそらく、俺のことを心配して様子を見に来てくれたのだろう。
ゲームが始まる前にちょっと食べすぎて気分が悪いからといって抜け出してきたからな。
アリアたちがホントに心配そうにしていたから顔色も悪かったのだと思う。
原因はアリアたちが料理を作りすぎたせいだから声もかけにくかっただろうし。
料理をたくさん作ったのはミーリアのためにしたことだから気にする必要はないのにな。
……今思えば、残った料理は俺の収納魔術で仕舞ってしまえばよかったのかもしれない。
残しちゃいけないとは言われた覚えがなかった。
食事を残しちゃいけないっていうのは前世の日本の考え方で、外国では残さずに食べると逆に足りなかったという意味になって失礼になるっていう話も聞いたことがある。
後で確認しよう。
それはともかく。
「主賓が抜けだしても良かったのか?」
「えぇ。主賓はゲームには参加できませんから。景品は基本的に参加者がもらうものということになっています。キーリに少しレインの様子を見てきますといったら送り出してくれました」
「そっか」
俺はゲームを棄権したけど、ミーリアは主賓だからゲームに参加できないのか。
景品を用意した側が景品をもらうのはまずいよな。
ん?
今回景品を用意したのってアリアたちだよな?
……まあ、細かいことは気にしなくていいか。
「これ、お腹にいいというお茶です。よかったら」
「ありがとう」
ミーリアが手に持ったお茶を差し出してくる。
どうやら、わざわざこれを持ってきてくれたらしい。
飲むと、温かいお茶が喉からお腹へと浸透していく。
しばらくすると、お腹が少しだけ落ち着いた。
「ありがとう。少し楽になったよ」
「そうですか。それは良かったです」
ミーリアはほっと胸をなでおろす。
見るからに食べすぎだったから心配してくれたのだろう。
「少し隣失礼しますね」
「あぁ」
ミーリアは俺の横に座る。
「今日は本当にありがとうございました。今までの誕生日で一番の思い出になりました」
「……そっか」
ミーリアは楽しそうにそういう。
昨日より随分元気になったみたいだ。
元気が出たならパーティを開催した意味もあったというものだ。
でも、楽しそうにしながらも、その表情からは少し後ろめたいような、辛いようなそんな印象を受ける。
やっぱり誕生日が落ち込んでいた原因ではなさそうだな。
このまま見なかったふりをするのは簡単だ。
今日の様子を見ても、しばらくすれば普段通りに戻るだろう。
まさに時間が解決してくれるというやつだ。
でも、それではいけないように思う。
ミーリアは原因を聞いてほしくはないだろう。
自分が落ち込んでいる原因を聞かれるのは自分の弱みを見せるようなものだ。
不快に思うのは当然だ。
嫌われてしまうかもしれない。
でも、逃げていてはその間ずっとミーリアにつらい思いを強いることになる。
(自分が嫌われるのが怖くて相手のためにならないことをするのは、仲間として間違っているよな)
俺は決意を固めた。
「ミーリア」
「なんですか?」
「本当は何が気になってたんだ?」
俺がそう聞くと、ミーリアの表情が凍りついた。
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