特産品を作ろう!パートⅡ⑩

「キーリ。どうだ?」

「あ。レイン」


 俺が工房に入ると、キーリは本を広げていた。

 キーリは本を並べて何か悩んでいるようだ。

 ポーションの作り方が載っている本はたくさんあるから、どれを作るのか悩んでいるのかもしれない。


「どのポーションを兵士さんに渡したの?」


 どうやら、キーリは俺が兵士さんに渡したポーションと同じものを作るつもりらしい。


 回復用のポーションと一口に言っても作り方や必要な材料などいろいろとある。

 だが、その効能はそのポーションに含まれる魔力量できまる。

 魔力量の多いポーションを作って薄めることもできる。


 どの作り方をしようと完成品の魔力量が一緒なら効能は一緒なのだ。


 この魔の森からはかなりいろいろな素材が取れるから大体どれでも作ることができる。

 だから適当に作ればいいと思うのだが。


 いや、もともとの依頼が俺の渡したものと一緒のものをご所望だったから同じものを作るのは当然か。


「『アウトドア用錬金術』って言う本なかったっけ? それに書かれてる常備薬のポーションだよ」

「え!? あれ?」


 キーリは驚いた顔をする。

 どうやら、彼女としてはもっと効果の高いポーションを作るつもりだったらしい。


 驚いた様子で部屋の隅に積まれた本をあさりだす。

 予想外だったため手元にすら持ってきていなかったらしい。


 俺もキーリの手伝いをする。


「あれってかなり効果の低いやつじゃなかったっけ?」

「そうだぞ。すり傷や虫刺され用のポーションだな。お。これこれ」


 目的の本はすぐに見付った。


 俺は本の山から『アウトドア用錬金術』の本を取り出す。

 最後の方のページにいくつかのポーションの作り方が載っている。

 その中で一番最初に載っているポーションの作り方のページを開く。

 ページの見出しには『簡単! 安全! 誰でもできる!!』と大きな文字で書いてある。


 ……俺はこれを作るために相当な量の材料を無駄にしたんだけどな。


「……レインのことを疑うわけじゃないけど、こんなの本当に効くの?」

「ポーションとかは魔力量が低い人ほど効くからな」

「あ。そっか」


 実はこの世界の傷と回復の関係はHPのようなものだと考えると理解しやすい。

 腕が取れたり足がもげたりすると大体HPの半分が削れた状態になるって感じだ。


 修行して総魔力量が増えると総HPが増えることになる。

 そのため、HPが十の人間は五のダメージを与える攻撃で腕が切り落とされるが、HPが百の人間だと五十のダメージの攻撃をしないと腕が切り落とされることはない。


 そして、それは回復にも当てはまる。

 HPが十の人間は五回復することで腕をはやすことができるが、HPが百ある人間は五十回復しないと腕をはやすことができない。


 その考え方で言うとポーションは固定値回復アイテムに当たる。

 ポーションは魔力濃度に比例してHPを回復する。


 つまり、同じポーションでももともとのHPが低い人ほどその効力は大きくなる。


「じゃあ、これを作ってみましょうか」

「そうだな」


 キーリも納得してくれたらしい。

 素材的にも技量的にも簡単に作れるものだし、とりあえず作ることにしたようだ。


 俺たちはポーション作りを始めた。


***


「簡単にできたわね」

「そりゃそうだろ」


 キーリはあっけなくポーションの生成に成功した。

 いつもこれよりも魔力量の多いポーションを作ってるんだから当然だ。


 基本的に魔力量が大きいものほど作るのが難しい。

 だから、こんなポーションを作るのはキーリにとっては朝飯前だ。


 本に簡単だって書いてあったしな。


 最近難しい錬成ばかりしていたから感覚が狂っているのかもしれないな。


「もっといいポーションを作った方がいいんじゃない?」

「効力の低いポーションにも利点はあるぞ?」

「どんな?」

「効力が下がりにくい」

「……なるほど」


 魔力量が大きいほど効果は大きいが、その分魔力が発散しやすい。

 やってみたことはないが、周囲の魔力濃度と同じ濃度に近づいていってるんじゃないかと思う。

 部屋の中に置いたお湯も温度が高いほど冷めやすいっていうのと似ている気がするから。


 魔力量の高いポーションでも長期保管用のポーション瓶とかを錬成できれば数年は持つものができるかもしれないが、いまのキーリはポーション瓶を錬成できない。

 魔力量の低いポーションを納品する方がいいだろう。


「じゃあ、ミーリアにこれをサンプルとして渡してもらいましょう! ……あれ? このポーション、お子様でも飲みやすい味って書いてあるわよ? 本当にこれであってる?」

「……間違いない。品質が悪ければ味も悪くなるらしいからな」

「そうなの?」


 キーリは錬成鍋の機能を使って出来上がったポーションの品質を確認する。

 錬成鍋が鑑定した結果、出来上がったポーションの品質は『最高品質』と表示されている。

 魔力の豊富な魔の森の素材を使ったのだからそうなるのは当然だろう。


 キーリはほっと胸をなでおろす。

 作るのは簡単でも品質が上がらないものっていうのもあるからな。


「……レインのポーションの品質は何だったの?」

「……『ギリギリ』」

「……」


 そんなかわいそうな子を見るような目で見ないで欲しい。

 一番下の品質が『最低』ではないことを初めて知ったよ。


 ここより素材はよかったはずなのに最低品質以下のものしか作れなかった俺って……。


 いや、もうそのことは忘れよう。

 今はポーションがちゃんとできたことを喜ぶべきだ。


「こ、これでサンプルはできたわね!」

「そうだな。とりあえずは成功だ」


 俺たちはポーションの完成を喜びあった。

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