特産品を作ろう!パートⅡ⑨

「ポーション瓶が手に入ったのはラッキーだったな」

「そうね」


 夕飯後、俺たちは話をしていた。


 もう夕食時だし、今から村を出ると今日中に野宿できる広場までたどり着けない。

 そのため、ジーゲさんは今日は泊まってもらうことになった。

 だから、俺たちも話し合いより先に夕食をとることにした。


 いつものことだが、夕飯はジーゲさんたちは別々にとった。

 村では村のものはあまり食べないそうだ。

 毒を盛られるかもしれないかららしい。


 もう結構な付き合いになる。

 それに、向こうも辺境伯様のお墨付きがある。

 だから、俺たちがひどいことをしないとはわかっているだろうに。


 どうも、行商人というのはそういうものらしい。

 ほんとに律義な人だ。

 そうでないと辺境伯様お墨付きの商人なんかにはなれないのかもしれないな。


 それよりも、今回運よくポーション瓶が手に入ったらしい。

 どうやら、領主様からポーションの依頼が入ってそれのために持ってきたポーション瓶の一部を譲ってもらえるそうだ。


 なんでも、俺が兵士さんに帰り際に渡したポーションがかなり効いたらしい。


「それでなんだけど、レイン。ポーションを作ってもらえませんか?」

「うーん。別にできるとは思うけど、キーリが作った方がいいんじゃないか?」

「え? 私?」


 キーリは驚いた声を出す。

 何を驚いているんだ?

 この村の錬金術師はキーリじゃないか。


「俺は錬成鍋を持ってないからな。それに、キーリが作れば味が少しはマシになるかも」


 俺の作ったポーションはまずくて飲めたものじゃなかった。

 だけど、古代魔術師文明時代の本にそんなことは書いていなかった。


 古代魔術師文明の中期にはポーションは子供でも飲むような常備薬に近い存在だったらしい。

 だから、そんなに味の悪いポーションが残ってるなんてことはまずない。


 となると、考えられるのは俺が作ったせいでひどい味になったということだ。

 錬成関係はちゃんとした手順じゃなくても完成はするけど品質は低いなんてことはよくあるらしいしな。


 せっかくゼロから作るんだったら、キーリに作ってもらった方がいいだろう。

 俺が作れたポーションなんて一種類だけだからレシピも大体わかってるし。


「……そうね。あのドブみたいな味のポーションを渡すのも悪いしね」

「ドブって」


 自分で言う分にはいいが、他人に言われると少し堪えるな。


 キーリは俺がポーションを捨てているのを見て何度ももったいないといっていた。

 味がひどいというと、試しに一度だけ味見をしてみたのだ。

 それ以来、ポーションを捨てることを何とも言わなくなった。

 ポーション自体も小指の先につけて舐めた後容器に残ってる分は全部捨ててたし。


 ちなみに、その時スイも一緒にいて、隣で味見をしていた。

 スイは「おいしくない」といいながら小瓶一本分を飲み干していた。

 青汁ではないからまずくても体にいいとかはないぞとは言ったのだが、まず、青汁が通じず、飲み干すまで止めることはできなかった。


「じゃあ、ポーションの作成はキーリにお願いします。明日までに一本作って見てもらっていいですか? できるかどうかとそれでいいかの確認をする必要があるので」

「わかった。今から作ってくるわ」


 キーリはそう言うと、部屋を出て行く。

 今日は魔物との戦闘もちゃんとしていないし、魔力も有り余っているから余裕だろう。


「ポーション瓶は手に入りましたけど、他に何か必要なものはありますか? あぁ。レインのために古代魔術師文明の本はお願いしています」

「そうね。何が必要かしら」


 アリアはそういいながらチラッチラッと俺の方を見てくる。


 あ、これは俺がいちゃダメなやつかな?

 下着とかそういうあまり俺に聞かれたくないことを話したいという合図だ。


 アリア以外はそういう話を平気でしてくる。

 おそらく、そういうものが必要になりそうだとアリアは知っているのだろう。

 男の俺は居心地が悪いからこれは本当に助かっている。


「俺はキーリを手伝ってくるよ。どのポーションを兵士さんに渡したかも言ってないし。同じものを作ったほうがいいだろ?」

「そうですね。お願いします」


 回復系ポーションのレシピはいっぱいある。


 俺が兵士さんに渡したものより高性能なポーションをすでにキーリは作っている。

 それを作って渡してもいいのだが、わざわざ効能が違うのを渡せば、どうして違うのを渡したのか聞かれることになるかもしれない。

 詳しく話すことになれば、俺のポーションが失敗作だったというのも話さなければいけなくなるかもしれない。

 それはカッコ悪いから言いたくない。


 いや、味が違う時点で理由は聞かれるか?


 よし、俺のポーションは劣化していたことにしよう。

 失敗作を渡されたというより、廃棄になるちょっと前の劣化品を渡されたというほうがまだましだろう。


 ……いや、一緒か。


 俺はポーションがまずかったいい言い訳を考えながらキーリの後を追った。

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