特産品を作ろう!パートⅡ②
「護身用に強い光を発する魔道具を作ろうと思うんです」
「強い光を発する魔道具?」
ミーリアはポケットの中から小さな瓶を取り出す。
その瓶の中には黒い粉のようなものが入っていた。
「それは?」
「真黒ゴケです。さっき採集しました」
真黒ゴケは見た目が真っ黒な苔で、結構いろいろな所に生えている。
少しおかしな性質を持っていて、この苔は原理はわからないが周囲の光を吸収して溜め込んでいる。
そして、その苔を燃やすと、溜め込んだ光を放出する。
赤い光をため込んだ真黒ゴケを燃やすと赤く光り、青い光をため込んだ真黒ゴケを燃やすと青く光る。
光をため込んだ状態で乾燥させるとかなり長い間光をため込むので、この性質を利用してお祭りのとき花火みたいにして使われるそうだ。
王都で花火が上がっているのを見た時、ミーリアに教えてもらった。
ありていに言ってしまえば光なんてものをため込む不思議植物だ。
「この真黒ゴケに大量の光を溜め込ませておいて、これを魔狂キノコの液体と混ぜて発光させて悪漢を追っ払おうと思っています」
「なるほど」
前世であったスタングレネードの音無バージョンのようなものだろう。
いや、どちらかと言うとケミカルライトのほうが近いか。
「どうして光なの? もっと炎とかで追っ払えばいいんじゃないの?」
「王都で聞いたんですが、王都で出る変質者は貴族の場合もあって、そういう輩に怪我をさせると逆に襲われた女性の方が罰せられることもあるそうです」
「えぇ! なにそれ!」
階級社会というのは理不尽なものだ。
「目には目を」が適用されるのは同じ階級のものだけ。
階級が変われば、「目には一族郎党皆殺し」何てのもざらにある。
この国は身分間の格差がかなりあるようだからそういうことがあってもおかしくないのか。
王都みたいに貴族と平民が近くで暮らしている場所以外では気にすることのないことかもしれないが。
「そこで、使われるのが光の魔道具です。相手の目を一瞬くらませてその隙に逃げるんだそうです。でも、今使われている魔道具は光が弱くて、ほとんどの場合相手がひるまずに逃げることに失敗するそうです」
「なるほどね。でも、真黒ゴケで相手の目を眩ませることなんてできるの?」
真黒ゴケは光を蓄えるがそれにも限度がある。
ふつうは花火などに使われているようだから、そこまでの光はため込まないと思うのだが、どうなのだろうか?
「大丈夫です。真黒ゴケは魔力量の高いところで育ったものほど蓄える光が多いとレインから借りた図鑑に書いてありました。魔の森で育ったものであれば、相当な量の光を蓄えられるはずです」
「へー」
ミーリアは最近図鑑を真剣に読んでいたが、そんなことが書かれていたのか。
俺もさっと目を通したはずだが、そんなことが書いてあるのは気が付かなかった。
真黒ゴケの記載があるのさえ気が付かなかった。
興味のない本だと目が滑るんだよな。
「でも、真黒ゴケは燃やしたら光を発散するんでしょ? 魔狂キノコはなんに使うの?」
「魔狂キノコは真黒ゴケの光を蓄える性質を狂わせるんです。こんなふうに」
ミーリアは瓶の中に入った真黒ゴケを魔狂キノコに振りかける。
すると、真黒ゴケはカッと強い光を放った。
「眩し!」
「ね? これなら悪漢を撃退できそうでしょ? 火をつけてもいいのですが、予想外の時に燃えると大変ですからね」
「……」
確かに、高魔力濃度下で育った真黒ゴケが必要だからこの国ではこの村でしか作れないし、一個一個も結構な値段しそうだから特産品にはなるかもしれない。
しかし、魔狂キノコはこの国でも毒キノコとして扱われている。
そんなものを王都に持ち込んでも大丈夫なのだろうか?
それに、これだけ眩しければ悪漢の方にも後遺症が残るかもしれない。
そうなれば、貴族を傷つけないという当初の目的が果たせなくなってしまうのだが、大丈夫なのか?
それに、貴族の令嬢は護衛をつけているだろうからこの道具を使うのは平民の女性になるだろう。
暴漢に貴族が混じっているのなら撃退が成功しだすと、何かと理由をつけられて防犯グッズが使えなくされる気がする。
権力者っていうのは理不尽な存在だからな。
……うまくミーリアを説得できる気がしないし、とりあえず完成させてから考えたほうがいいか。
前回の知力上昇のブレスレッドの時も結局作ることになったし。
結果的に大丈夫かもしれないしな。
たまにミーリアは権力者側の思考になることがある。
権力が上のものから理不尽を受ける考えが抜け落ちることがあるのだ。
もしかしたら、彼女の家は結構良い家柄だったのかもしれない。
彼女のこの村にくる前のことは誰も知らないから、正確にはわからないが。
「でも、これなら私の出番は少なそうね」
キーリはそう言ってほっと胸を撫で下ろす。
どうやらミーリアには聞こえなかったらしく、ミーリアは真黒ゴケや魔狂キノコを収穫している。
……なんか見た目やばい魔女みたいだ。
前回一番被害を受けたのはキーリだ。
今回は被害が少なそうだと思って安心しているのだろう。
すでに暴走の片鱗が見えているし。
だけど、それはすこし甘いと思うぞ。
「キーリ、多分、複雑な容器が必要だからその辺はキーリが作ることになると思うぞ」
「あ」
俺はキーリのそばに寄って行ってミーリアに聞こえないくらいの小声で耳打ちする。
おそらく、二つの液体を混ぜるような形になると思うから、ケミカルライトと同じ様な外側が柔らかくて、内側に割れやすいガラスの管が入った容器が必要になると思う。
ケミカルライトは酸化液の中にガラスアンプルに入った蛍光液を入れておき、ライトを「ポキッ」ッとしたときに中のアンプルが割れて二つの液体が混ざり合い、発光する。
二重構造の容器なんて今の時代にはあるのかわからない。
それ以前に、プラスチックのように透明で割れにくい素材は今の時代たぶん錬金術で作るほかないだろう。
「キーリ」
「アリア~」
アリアがキーリの肩にポンと優しく手を置く。
「その。頑張って」
「……」
アリアもお手上げらしい。
キーリはガックリと肩を落とした。
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