閑話 帰還した兵

「……報告は以上です」

「そうかい。下がっていいよ。わざわざ王都まで来てもらってご苦労だったね」

「はっ!」


 兵士四人が下がっていく。

 あの四人はレインの代わりとして開拓村に派遣していたものたちだ。

 村の様子を報告してもらうために王都まで来てもらった。


「村に魔道具がたくさんある様ですね。やはり、レイン様は相当な腕前の錬金術師だったと言うことですか」

「そうだね」


 執事長はあまりレインを刺激しないため、住民とは接触しないように言いつけていたらしい。

 残念ながら、大した情報は得られなかった。

 執事長の判断は妥当だが、少し残念ではある。

 もう少し情報が欲しかった。


 だが、わかったこともある。

 どうやら、生活のいろいろなところで魔道具が使われているらしい。

 実物は見ていないが井戸は古くなっていて使われた形跡がなかったそうだ。

 アリアたちは普段、水を生み出す魔道具などを使って水を得ているのだろう。

 その程度であれば王都の下町でも見かけるので、レインが持っていても不思議はない。


 他にも、魔道具で賄っていそうな部分が報告から窺い取れた。


「レイン様が持ち込んだもの……。と言うことは考えられないでしょうか」

「……多分違うね。木のクワの魔道具を使っていたそうじゃないか」


 一番の情報は魔道具のクワの存在だ。


 兵士たちは偶然、開墾作業を目撃した。

 開墾は魔道具のクワでやっていたらしい。


 そのクワは一日に何本も壊れていたらしい。

 しかも、壊れたクワはまるで死んだ魔物のように消えたそうだ。

 そのような消え方をするのは高位の魔道具くらいのものだ。


「毎日何本も魔道具のクワを使い潰していたんだ。自分で作ってるって考えるのが妥当だろ? 錬成鍋をジーゲに注文していたらしいしね」

「そうですね」


 錬成鍋の使い道なんて魔道具を作ることくらいしかない。

 まさか道楽貴族のようにインテリアにするわけではないだろう。


「それに、あのレイン。私が思っていた以上に戦闘もできるようだしね」

「そういえば、地下のスライム二匹から逃げ延びたのでしたか」


 ミーリアから受け取った映像はアリアがレインと出会ったところで映像が終わっていたからどうやって逃げ切ったかはわからない。

 おそらく、レインと合流したことでアリアが気を抜いてしまって記録が停止したのだろう。


 だが、レインがくる前に二匹のスライムが現れたところまでは写っていた。

 あの映像が嘘でなければあの二匹のスライムから逃げ切ったのだろう。


 それに、あの硬い下水道の天井を打ち破ったのだ。

 それだけで相当な戦闘力だ。


 あの下水道は古代魔術師文明時代の産物だ。

 人間にそんなことができるわけない。

 おそらく魔道具を使ったのだと思う。

 だが、その魔道具が使い捨てなのか、繰り返し利用できるものかもわからない。

 たとえ使い捨ての魔道具だったとしても、レインが作れるかもしれない。

 力がないと見るのは無謀だろう。


(あの場所はおそらくスラム街のどこかでやったんだろうけど、後で調べたが場所はわからなかったんだよね。場所がわかれば壊れ方なんかからどうやって壊したかわかったかもしれないのに、残念だよ)


 聞けば教えてくれたかもしれないが、あの時はすぐに見つかると思っていたから聞かなかった。

 今更聞くのも変だろう。


 何かわかるかもと思って呼んだ兵士もレインが村についてすぐに帰ってきてしまっていた。

 何日かいれば、レインの戦闘を見られたかもしれないけど、すぐに帰ってくる様にとの指示だったので仕方ない。

 唯一わかったのは付与魔法でただのナマクラをかなり切れる様にできると言うくらい。


 結局、レインの手の内は分からずじまいだ。


(……すぐに敵対するわけではないし、今はこれでいいか)


 レインはアリアのことをかなり気に入っているらしい。

 アリアを養女にして守った私も良い印象を残せただろう。


 今はそれで我慢するしかない。


「それで、開拓村を調査しようってやつはきてるのかい?」

「はい。少なくとも五組ほど。確実なのは一組ですが」

「ん? なんかあったのかい?」


 含みのある言い方に私が質問すると、執事は苦笑いをする。


「堂々と正面から開拓村に行きたいと言っている怪しい奴がいたそうです。身なりなどの報告を受けましたが、ほぼ間違いなく間者かと」

「……そうかい」


 馬鹿な間者もいたもんだ。


 この執事が思わず苦笑してしまうほどの馬鹿さ加減だ。

 おそらくおとりだろう。

 もともと開拓村へのルートが閉鎖されていることを何者かが調べていることはわかっていた。

 おそらく、フレミア家だろう。

 ほかの家が動いたのであれば早すぎる。


「いかがしましょうか」

「どうすることもできないよ」


 おそらく、王都の犯罪組織辺りに調べさせているんだろう。

 組織をつぶすのはそう難しくないが、つぶしたところで別の組織に頼むなんてことはわかりきっている。

 今は守勢に回るしかない。


「……いや、手はあるか。第二王子派が何か暗躍してるって話が回って来ていたね」

「はい。詳しい情報はつかめていませんが」

「やられっぱなしもしゃくだ。こちらはその情報を調べさせよう。フレミア家の周りを重点的に、ね」

「……なるほど。承知しました」


 攻めているときは守りが薄くなるものだ。

 こちらもある程度の情報は取られるかもしれないが、向こうがこちらの情報を得るのに躍起になっているうちにこちらも相手の情報を手に入れてやろう。


(完全に防ぐことはまずできないんだ。こっちが相手が手に入れた情報以上の情報を手に入れれば勝ちだろ)


 私は人をやって第二王子派から情報を得るために動き出した。

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