辺境伯邸で話し合い①
「アリア様はこちらへ」
「失礼します」
門番さんが屋敷に走っていってしばらくすると、執事風の男性がやってきた。
どうやら、この屋敷を取りまとめている執事さんの中で一番偉い人らしい。
俺たちはその執事さんに屋敷の中に案内された。
俺たちが通されたところは客間で、アリアの部屋になる場所だった。
大きめのベッドが一つ置かれていほかには机などの小物があるだけの部屋だ。
おそらくアリアの意識がなかったから、とりあえずアリアを寝かせる部屋に案内してくれたんだろう。
俺はそのベッドに寝かせる。
「いい顔で眠ってるわね」
「そうだな」
ベッドに眠るアリアは安らかな顔をしている。
さっきまで死にそうだったとは思えない。
ほんとに間に合ってよかった。
「ではお二人はこちらへ。辺境伯様のところに案内する前に着替えをしていただきます」
「あ、はい」
俺とミーリアが寝ているアリアの様子を眺めていると、執事さんに声をかけられる。
もともとこの屋敷にいる辺境伯様に会いに来たのだ。
だが、俺たちは旅衣装のまま来てしまったので、身繕いをする必要がある。
別室で衣装を整えさせてもらえるのだろう。
「あれ?」
俺がベッドから離れようとすると、服が引っ張られるような感覚がした。
振り返ってみると、アリアが俺の服をしっかりと掴んでいる。
全然気づかなかった。
でも、このままでは辺境伯様に会いに行けない。
さすがにアリアを引きずっていくわけにはいかないだろう。
俺はゆっくりとその手を外そうとする。
「いや……」
服を引っ張るとアリア不安そうな顔をする。
「……アリア」
さっき死にそうな目にあったのだ。
不安に思って当然か。
しかし、どうしたものか。
このままではアリアのそばから離れられない。
服だけうまく脱いで置いていくか?
「……レイン様はこちらでお待ち下さい」
俺が困っていると、執事さんが優しく声をかけてくれる。
執事さんもなんとなく何があったのか察しているのだろう。
もともと辺境伯様がアリアを探していてくれたみたいだし。
「いいんですか?」
「おそらく問題ないでしょう。レイン様のことについては大体のことは当主様も存じ上げております。ミーリア様お一人での報告でも問題ないでしょう。アリア様の件に関してはアリア様が目覚めた後で報告となりますので。ミーリア様はそれでよろしいですか?」
ミーリアは俺たちの方をチラリと見てうなづく。
たしかに、ミーリアと俺の二人で来たし、ある程度ここに来るまでにミーリアとは意見のすり合わせをしている。
王都に来るまでは特に大きな問題もなかったし、ミーリア一人の報告でも問題ないだろう。
「私は問題ありません」
「それでは行きましょう」
ミーリアは執事さんに続いて部屋を出て行こうとする。
出て行こうとするミーリアの後姿を見て、一つ思い出したことがあった。
「あ、ちょっと待って、ミーリア」
「? どうかしましたか? レイン」
さっき作ったあれもミーリアに渡してしまおう。
俺はポケットから緑色の宝玉を出してミーリアに投げ渡す。
これがあればアリアの状況の説明もできるはずだから一石二鳥だろう。
「これ、辺境伯様に渡して」
「これはなんですか?」
俺の投げた緑色の宝玉をミーリアは受け取って繁々と眺める。
あの宝玉はミーリアには初めて見せるから、何かわからなくても仕方ない。
「録画の魔道具。って言ってもわからないか。情景や音声を保存しておく魔道具だよ。ここ2、3日のアリアの心が大きく揺れ動いた時にアリアが見ていたことや聞いていたことが録画されてる」
「!?」
「魔力を流せば再生されるようになってるから、その魔道具はそのまま持っていってくれ」
アリアに渡したネックレスには、所持者が危険に陥れば周りの状況を動画で撮影する機能がついていた。
対魔貴族時代は危険な状況におちいったら、その状況を確認して次に同じ状況になったらどう動くべきか師匠に確認するために使われていたようだが、今回は事件の証拠として使えるだう。
「いいんですか? こんなすごい魔道具。辺境伯様に見せれば帰ってこないかもしれませんよ?」
「予備がいくつかあるからそのまま辺境伯様に渡してしまって大丈夫だよ」
本当はネックレスの方に動画は保存されているんだが、あの魔道具は貴重なものだ。
それに、俺が母さんからもらった数少ないものだから取り上げられると困る。
そう思って、動画を保存するだけの機能がある魔道具に映像を移しておいたのだ。
録画するだけの魔道具はまだいくつかストックがあるしな。
俺が受け継いだ時点で半分くらいには三代前のご先祖さまの自撮りが入っていた。
録画用も魔道具が必要になればそれを消せばいいだろ。
今回使ったのもその一つだし。
「……そうですか。ではいただいていきますね」
「任せちゃって悪いな」
「それくらい問題ありませんよ」
ミーリアは執事の男性に連れられて部屋から出ていく。
部屋の中は俺とアリアだけになった。
近くの椅子をベッドのそばに引き寄せて腰をかける。
「……頑張ったんだな」
俺がアリアの頭を優しく撫でると、アリアの寝顔が少しだけ安らかになった気がする。
俺は優しくアリアの頭を撫で続けた。
記録用の宝玉にコピーする前にネックレスが保存されていた映像をざっと確認した。
王都でアリアが目にした光景は結構きついものだった。
あんなことになると知っていれば俺はアリアを王都にやらなかっただろう。
やっぱり貴族ってのはロクなもんじゃないな。
だが、アリアは頑張った。
ちゃんと逃げずにエントリーして、初戦に出場し、勝利を得た。
その後、罠にはめられたりはしたようだけど、貴族という権利を勝ち取ったのは間違いなくアリアの功績だ。
辺境伯様と合流したことだし、次の試合で敗北ということにして貰えばいいだろう。
アリアを探していたということは辺境伯様もそのつもりだと思う。
「お疲れ様」
俺はそんなふうに考えながらアリアの寝顔を眺め続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます