下水道での戦い⑤
「おーい。ミーリアー」
「あ! レイン。アリアは大丈夫でしたか?」
俺はアリアを背負って下水道を後にして、ミーリアとの待ち合わせの場所まできていた。
待ち合わせ場所は辺境伯様のお屋敷の前だ。
王都ではこの場所くらいしかわかる場所がなかった。
その場所にはすでにミーリアが待っていた。
ミーリアは俺が声をかけると、駆け寄ってくる。
そして、俺が背負っているのがアリアだと気づくと、心配そうにアリアの顔を覗き込んでくる。
「アリアは大丈夫そうですね」
「あぁ。気を失ってるだけみたいだ」
安らかな寝顔の彼女を見て、安心したようだ。
回復魔術もかけて、外傷は全部直してある。
なぜこの場所を知っているかは、執事長様に王都につけばこの場所にくるように言われたからだ。
執事長さんはあくまで代理なので移動許可を出せるとはいえ、できるだけ早く辺境伯様にお会いして正式に許可を得る必要があるらしい。
予定では辺境伯様も今日王都に着いているそうだ。
出発前に今日この場所にくれば会えると言われていた。
俺たちは王都に来て最初にこの場所に来ることにしていたのだ。
場所もちゃんと確認してあった。
「レインが一緒なので、もう大丈夫ですね」
「過大評価されても困るんだけどな」
俺は真っ直ぐな瞳でそう言われてバツが悪くなって頬をかく。
俺にはできることしかしてやれない。
「しかし、ちょっと騒動に巻き込まれちゃったな」
「仕方ないですよ」
すぐにくるようにと言われていたのに、一悶着あってからくることになってしまった。
何か言われるかもしれないな。
まあ、そうしなければアリアが死んでいたかもしれないし、後悔はしていない。
そういえば、下水道に大穴を開けてしまった。
あの下水道が古代魔術師文明のもので助かった。
とりあえず、魔術で直せる部分は直しておいたが、完全には直せたかわからない。
上に何か乗ってたかとか確認せずに壊したし。
それに人気はなかったとはいえ、かなり大きな音を立ててしまった。
目撃者がいてもおかしくない。
……だ、大丈夫だよな?
「とりあえず、屋敷に入りましょう」
「そ、そうだな」
過ぎてしまったことは仕方ない。
俺はミーリアを追うように辺境伯様の屋敷に向かう。
「お前たち何者だ?」
門の前までくると、門番の男性に不審者を見るような目で睨まれる。
さっき話をしていたときから睨み付けられていたので、こんな風に言われるのは予想の範囲内だ。
俺だって門番だったら屋敷の近くで騒いでるやつを注視する。
「私たち、辺境伯様の領民です。執事長様に移動許可をもらったのですが、王都につけば真っ先にここにくるようにと」
「ん? そういえば、そんな話も聞いたな」
ミーリアの発言を聞いて門番さんの態度が軟化する。
どうやら、執事長さんはちゃんと根回ししておいてくれたらしい。
「紹介状はあるか?」
「こちらです」
ミーリアは懐から紹介状を取り出して渡す。
「うむ。少し待て」
門番は封印とサインを見て、それをミーリアに返す。
本物だと判断したようだ。
門番さんは俺たちを門の外に待たせたまま門の内側にある小屋に入っていった。
あの中に帳簿的なものがあるんだろう。
門番はすぐに俺たちの前に戻ってきた。
「うむ。確認した。二人のはずだが、どうして三人いるんだ?」
「彼女は武闘会に出るために王都に来ていたアリアです。事件に巻き込まれていたので、連れてきました。匿っていただけないでしょうか?」
「何? その子がアリアなのか? とりあえず中へ」
「?」
俺たちは門番さんに促されるまま門の中に入る。
どうも、門番さんの様子がおかしい。
アリアが大変な目にあってることは誰も知らないはずなんだが。
門に入ってすぐにある小屋の前で門番さんは立ち止まる。
「彼女を探していたんだ。いま、何人か屋敷のものが捜索に行っている」
「? 何かあったんですか?」
「明日が初戦の予定だったのに急遽今日の一試合目になっていたりしたので、誰かが何かをしたのは確かだろう。初戦はなんとか勝利したらしいが……。詳しくは辺境伯様に聞いてくれ」
「……そうですか」
門番の男性は言葉を濁す。
どうやら、この門番さんもアリアが大変な目にあってることはおぼろげに聞かされているらしい。
ミーリアは優しくアリアの頭を撫でる。
ミーリアもただならぬことが起こったことは察したようだ。
「まあ、ここにくればとりあえずは安全だ。少しここで待っていてくれ」
「? 何かあるんですか?」
「使用人を呼んでくる。そんな薄汚れた姿のまま辺境伯様の前に出すわけにはいかないだろ?」
「「あ!」」
そういえば、旅をしてきたその足で屋敷に来てしまった。
そういえば、こういうのはすぐにこいと言われても、宿で身なりを整えてからくるのが常識だったか。
ミーリアも少し恥ずかしそうに顔を伏せる。
おそらく、アリアのことが心配でそのあたりがすっぽり抜け落ちていたのだろう。
王都について速攻で俺が「アリアが危ない」と言って駆け出したから仕方ないか。
「まあ、そのあたりもこちらで何とかできると思うから、君たちは少しここで待っていてくれ。上のものに報告してくる」
門番さんは優しく微笑むと、屋敷へと向かっていった。
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