新しいエリアに行ってみよう!④

「レイン兄ちゃーん」

「おぉ。リノおかえりー」


 リノは元気に声を出して戻ってくる。

 みんなも戻ってくることがわかっていたので前のように身構えてはいない。


「遺跡が見つかったか?」

「うーん。わかんない。でも、向こうになんか変なのがあった」

「変なの?」

「変なものというか、変な場所というか」


 リノの説明は要領を得ない。


 すでに家を見つけたのかと思ったが、そういうわけではないらしい。

 もしかしたらおかしな遺跡でもあったんだろうか?


「危なそうな感じだったか?」

「うーん。どっちかっていうと安全そうだった」

「安全? 魔の森の中で?」


 アリアは驚いた顔をしている。

 彼女もだいぶ魔の森に慣れてきたみたいだな。

 普通魔の森で安全とかありえない。


 まあ、魔の森で「絶対」はないので、安全な場所もなくはないのだが……。

 今回もその一つかもしれないな。


「まあ、とりあえず行ってみよう。何があったのか気になるし」

「レインがそういうならそうしましょう」


 俺たちは全員で連れ立ってリノの見つけた場所まで向かった。


***


「確かに変な場所ですね」

「そうね」


 リノに案内されてたどり着いたところはその周りと少し違っていた。

 その場所だけ木がまばらにしか生えておらず、人が通れるような舗装された道もある。

 道の周りには花畑が広がっている。


 まあ、一言で言うと、公園だ。


「これはセーフエリアだな」

「セーフエリア?」


 森の中に公園があると言うのは不気味だが、俺は前にもこんな場所を見たことがある。


 古代魔術師文明時代、災害が起きたり、大きな魔物が現れたら逃げ込む場所があった。

 その場所はもしもの時のために自動で張られる結界に守られている。

 公園や学校のような公共施設だった場所が選ばれていたらしい。

 目の前にあるのは公園型だな。


 結界が張られ、魔物を阻むように作られたその場所は魔の森に飲み込まれずこうして残っている場合がある。

 いまでは魔の森の中のセーフエリアになっている。

 まあ、ここをセーフエリアとして使ってるのなんてオレたち対魔貴族くらいのものかもしれないが。


「まあ、そんな感じでこの中は魔物の来ない安全な場所なんだよ」

「「「「「へー」」」」」


 俺が説明すると五人は感心したように息を漏らす。


 俺たちはセーフエリアの中に入っている。

 俺が入って見て問題なさそうだったし、まだこのエリアに来たばかりでみんな気を張って疲れているように見えたので休憩するのも悪くないと思ったのだ。


「そっか。ここが遺跡かと思ったんだけど、残念だな」

「そこまで残念がることはないぞ?」


 探していた遺跡ではなく、肩を落とすリノの頭を優しく撫でる。


「レイン兄ちゃん、どう言うことだ?」

「地図を見てくれ」


 俺はこの前遺跡で見つけた地図を取り出す。


「こういう避難所はだいたい地図に分かるように記載されてるんだ」


 大体の市販されている地図には避難所が記載されている。

 この地図は市販されている地図の数カ所に印をつけただけのものだから、当然、避難所も記載されている。


「この避難所は結構な広さがある。それで、公園だから多分これだろ」


 俺は目的の遺跡から大通り二つほど挟んだ場所にある公園を指差す。

 その公園には避難所のマークも描かれている。


「レイン兄ちゃん!」

「前の遺跡の位置とこのセーフエリアの位置から目的の遺跡はすぐに見つけられそうだろ?」

「うん!」


 リノはキラキラした瞳で俺を見上げてくる。

 この様子だと、今日中に遺跡は見つけられそうだな。


 俺はいまにも遺跡を探しにいきそうなリノを捕まえながらそんなことを考えた。


***


「いやー、こんなに早く見つけられるとはな」

「そうね」


 セーフエリアで少し休憩した後、リノを先頭に遺跡を探したが、すぐに遺跡を見つけることができた。

 遺跡は前と同じ民家のようだ。

 今回は前回と違って家全体があらわになっている。

 前回は崖に埋まっていて確認できなかったが、今回は家の外観もしっかり確認できる。


 どうやら、一階建ての平屋だったらしい。

 サイズから言って前回と同じ2LDKくらいの家だろう。

 朽ちかけてはいるが、赤い三角屋根には煙突が一つあり、中世ヨーロッパのレンガ造りの家みたいだ。

 当時はこんな家が流行っていたんだろうか?


 まあ、周りの家は跡形も残っていない中、この家だけは遺跡として残っているところを見ると、ここも魔女教の隠れ家だった可能性が高いだろう。

 まあ、ハズレならハズレで、遺跡を一つ見つけられてラッキーだったってだけだしな。


 しかし、初日に見つけてしまうとは。

 恐るべきはリノの方向感覚と感知能力だな。


「レイン兄ちゃん! 俺、すごい? すごい!?」

「おぉ! すごいぞ~」


 俺は褒めてほしそうに近くに立っているリノの頭をわしゃわしゃ撫でる。

 気持ちよさそうにしている彼女にはあるはずのないしっぽが全力で振られている幻覚が見える。


「で、どうするの? 中も確認していく?」

「そうだな~」


 俺は腕を組んで今後のことを考える。

 今回の遺跡では前回とは大きく違う部分がある。

 扉があきっぱなしなのだ。

 つまり、中に魔物が潜んでいる可能性があるということだ。

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