新しいエリアに行ってみよう!⑤

「今日はいったん帰ろう」

「えぇ!? どうしてだよ」


 俺が帰ろうと言い出すと、リノが抗議の声を上げる。

 リノの気持ちもわからなくはない。

 せっかく遺跡を見つけたのだ。

 すぐに中を探してみたいのだろう。

 もしかしたら、スイの魔導書を使いこなす方法が見つかるかもしれないと思うと俺も少し中が気になる。


 俺一人で探索してもいいが、前みたいに隠し通路とかがあっても俺では多分見つけられない。

 リノと一緒に入る必要がある。


 だが、そう簡単にはいかなさそうだ。


「今回の遺跡は前みたいに完全に中と外が隔離されてない。中に魔物が隠れている可能性がある以上、そう簡単に挑戦はできないよ」


 この遺跡は扉が閉まっていない。

 前回の遺跡は扉だけが外に出ていてその扉は閉まっていた。

 そういった遺跡の場合、中に魔物がいることはまずない。

 まあ、別の出入口があることもあるので、絶対とは言えないが。


 だが、今回の遺跡は扉が開いている。

 こういった遺跡の場合、中で魔物が発生している場合もあるし、外で発生した魔物が中に入ってしまっている場合もある。

 そうなるとかなり危険だ。


 遺跡の中での戦闘は勝手が違う。

 遺跡の中は狭い。

 だから、今までのようにコンビネーションがうまく取れないかもしれない。

 そんな練習もしてないしな。


 狭いところでの戦闘で不利になるのは間違いなく数の多いこちらだ。


 もし俺がリノを守りながら探索するにしても、狭いところではうまく守れる気がしない。

 護衛とかやったことないし。


 それに、まだこのエリアに来て魔物を倒していない。

 索敵に失敗する恐れがあることも考えると、できればブラックウルフを全員が難なく倒せるようになってからこの場所に挑戦したい。

 前回の遺跡の挑戦だって失敗したかもしれないと思ってたくらいだ。


「まあ、大丈夫かもしれないけど、みんなが十分強くなってからでも遅くないだろ」

「でも〜」

「リノ。レインがダメって言ってるんだからちゃんと聞き分けなさい」

「……はい」


 俺はキーリに怒られてシュンとしたリノの頭を優しく撫でる。


「リノは優しいな。必死で探してくれたのはみんなわかってる。でもさ。それで誰かが怪我しちゃったら、リノも嫌だろ?」


 リノはコクリとうなづく。


「じゃあ、怪我をしないように鍛錬をがんばろ? 狭いところでの戦闘もこれからちゃんと教えていくからさ」

「……わかった」


 リノはちゃんと納得してくれたらしい。

 顔を上げたリノの瞳には強い意志が宿っていた。


「じゃあ、今日はもう帰るか? 今から帰ればちょうど夕食どきくらいに帰れるだろ」

「そうね。採集もかなりできてるし、もう帰ってもいいと思うわ」


 キーリが自分の採集袋の中を確認しながらいう。

 採集袋は明らかに膨らんでいた。


「じゃあ、戻るか」


 俺たちは帰路についた。


***


「じゃあ、後のことは頼むよ?」

「承知しました」

「そのまま王都の社交会に出席することになるから、かなり長いこと空けることになるよ」

「存じております」


 屋敷の玄関。

 執事長が出発の準備を整えた私に深々と頭を下げている。


 私はこれから北部の貴族を回るつもりでいる。


 北部貴族は私と同じ第三王子派だ。

 南部貴族が第二王子派になっている。

 まあ、第二王子の母親の生家が南部にあって第三王子の生家が北部にあるから当然と言えば当然だ。


「あぁ。そういえば、アリアに手紙はちゃんと送ってくれたかい?」

「はい。一週間ほど前にジーゲ様が出発したと報告を受けているので、今日か明日には開拓村に着くかと」

「そうかい。じゃあ、欠席の連絡は間に合いそうだね」


 春には王都で社交が開かれる。

 社交の催しは色々とあるが、一つに貴族一年目のものの武闘会がある。

 これは貴族として一年研鑽した成果を発表する場所でもあり、貴族にふさわしい勇敢な心を持っていることを証明する場所でもある。

 その招待状がアリアにも来ていた。


 アリアは追放状態ではあるが、正式に追放はされていない。

 才能がないからという理由で追放するのは外聞が悪いからだ。

 貴族はメンツを気にする物だ。


 そういった貴族はこの一年目の大会に出場させないことで追放の理由を作る。

 「大会に参加しなかった臆病者に貴族の資格なし」として正式に追放をする。


「……まさか、アリアのやつ参加するとか言い出さないだろうね?」

「それこそまさかでしょう」


 この大会は対戦相手を殺してはいけないという規定がない。

 まあ、勇気を試す大会ということになっているからそこは仕方ない部分ではある。

 普通は相手も貴族なので、殺しまではしない。

 殺してしまえば親の貴族やその関係者が殺した者に相応の報復をするからだ。


 だが、アリアのように追放状態のものなら殺しても誰も文句は言えない。

 アリアを殺されれば私が文句を言いたくなるが、正式に家族でないアリアのために私が動けば今度は私の立場が悪くなる。


「まあ、ミーリアって子も元貴族のようだし、彼女が止めるか。彼女は去年参加しなかったんだろ?」

「はい。そのように伺っています」


 アリアの開拓村にはミーリアという元貴族の女がいた。

 彼女は去年、この大会に欠席し、正式に家から追放されている。

 この大会の危険性は知っているだろう。

 何年かに一度、追放が受け入れられずに参加して殺されてしまう元貴族がいる大会なのだ。


 だが、何度考えても嫌な予感を拭いされなかった。


「……まあ、注意しておいてちょうだい」

「……承知しました」


 執事長は私を心配性だなと言う顔で見ている。

 まあ、私も心配のしすぎだとは思っている。


「辺境伯様。そろそろ」

「おっとすまないね」


 御者に声をかけられて私は足早に馬車へと向かう。


 到着の時間は決まっている。

 出発の時間が遅れれば、それだけ馬車や御者に迷惑をかけることになるのだ。


 私は嫌な予感を拭いされないまま自領を出発した。

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