新しいエリアに行ってみよう!③

「どうしてブラックウルフは火属性だと思うんだ?」

「さっき、火炎草を見つけたの。これは火の魔術属性成分を取り出すための材料になって、火属性の強い場所じゃないと取れないっていうのを本で読んだ気がするから」


 キーリは不安そうに俺のほうを見てくる。

 そうはいってみたものの自信はそれほどないんだろう。


「……正解。俺もブラックウルフは火属性だと思う」

「よかった」


 キーリは胸をなでおろす。


「よくわかったな。属性が違う植物も見た目は似てるものばかりなのに」

「見分け方がレインの持ってた本に書いてあったから」


 確かに書いてあったが、文章の中に登場するので、しっかり読み込んでおかないと見落としてしまう。

 当時の本は採集用ではなく図鑑的な役割だったので採集に役立つ知識はそこまでしっかり書かれていない。

 今すぐ見つかるものではないんだし、そこまでしっかり読んでいるとは思わなかった。


「とりあえず、出てくるのは火属性の魔物ってことよね?」

「村の外に出てきた奴は変異種っぽかったから火は吐かなかったけど、魔の森の中では使ってくるかもしれないから気を付けたほうがいい。もし、火を使ってきたら魔術でちゃんと防御すること」

「「「「「わかった」」」」」


 属性持ちの魔物の一番怖いところは相手が魔法を使ってくるところだ。

 魔術と違って純粋な魔法なので、見た目だけで対処したら痛い目にあうことがある。

 だから、魔術で少し大げさなぐらいに防御しないといけない。


「特にミーリアの補助とリノの索敵は今まで以上に重要になってくるから」

「わかりました」「わかった!」


 魔法で一番怖いのは奇襲を受けることだ。

 魔術で防御しておけばその防御で大部分の魔法を減衰できる。


 これはミーリアの『祝福』の魔術が張ってあるだけでもかなりの効果が得られる。


 まあ、なれてくれば自分の体内から溢れてる魔力を体の表面にとどめておいて同じことができるようになる。

 いまの五人には荷が重いだろう。


「今度からは戦闘前に祝福をかけ直してもらう。後、攻撃を受けた時も『祝福』の状態を見て順次かけ直してくれ」

「わかりました」


 今までより考えることは増えるが、ミーリアなら大丈夫だろう。


「レイン兄ちゃん。俺は? 俺は!?」

「リノは今まで以上に注意して索敵してくれ。リノ自身も魔物に襲われないように注意するんだぞ?」

「わかった!」


 リノも今までは逃げ回ればなんとかなっていたが、これからは相手が遠距離攻撃をしてくる可能性がある。

 なんかリノなら攻撃されても余裕でよけそうな気がするが、注意はしておこう。


 最近は俺の索敵範囲もわかっているっぽくて、ほんとやりにくい。

 今は魔力量のごり押しで何とか俺の方が上回ってるけど、近いうちに追い抜かれるかもしれない。

 自分より優秀な弟子を持つってのもなかなか大変なもんだ。

 それとも、一極特化で成長させる方がいいのだろうか?


 まあ、今更か。

 俺は龍脈の上で急激に強くなったから、その辺の影響もあるかもしれないし、今更過去は変えられないんだし考えても仕方ないな。


「じゃあ、みんな明日の探索に向けて準備しておいてくれ」

「「「「「了解」」」」」


***


「キーリ。こっちにもそれっぽいのがあるわ」

「あ、それは火薬草。小さな黒い実がなってるでしょ? コレがなるのは火薬草よ。もう十分取ってるから大丈夫。ありがとう、アリア」

「キーリ。これも、火薬草?」

「それは炎熱草ね。葉っぱだけじゃなくて茎まで赤いでしょ? これも生えてるのね。少し取っていきましょう『採集』」


 翌日、俺たちは新エリアに来ていた。

 キーリは昨日、夜更かしして本を読み返したらしく、かなり色々な素材を集めている。


 というか、火薬草や炎熱草ってそういう風に見分けるのか。

 俺は結局全部成分を取り出して魔術の触媒にしてたからそれっぽいのは全部収集してた。


 そうか。

 そういう大雑把な感じだったから錬成がうまくいかなかったのかもしれないな。


 練成の場合、どの素材を使うかは指定されている。

 その素材の魔力濃度や魔術成分以外の物質も色々作用してくるからな。


「これで『火石』も作ることができそうね」

「へー。『火石』も作れるようになったのか」

「あれ? 昨日隣で見てなかったっけ?」

「テンション高く喜んでるなー。とは思ってたけど、何ができたかは聞く隙がなかったから」


 『火石』や『水石』みたいな魔道具は宝石型の魔道具なので、見た目ではわからない。


 『火石』は『着火』の魔術と同じような役割をする魔道具だ。

 『火石』は『水石』と違って、失敗した場合爆発する。

 俺は三度目のチャレンジで諦めた。

 魔術で練成鍋が直せるといっても完全に壊れてしまえば直せないのだ。


 怪我もするし。


「すごいって何度も言ってくれたからわかってるものだとばかり思ってたわ」

「いや、何を作ったとしてもすごいと思うぞ? もはや俺には手の届かないレベルのものを作ってるからな」


 練成の苦手な俺としてはキーリはすでに雲の上の人だ。


「……レインも呪いが無くなれば作れるようになるわよ」

「いやー。どうだろ……」


 キーリはそう言ってくれるが、俺としては練成は性格的に向いてないんじゃないかと思う。

 まあ、挑戦はしてみるが、難しいんじゃないかと思う。


「まず呪いを解けるかどうかもわからないしなー」

「きっと、解ける」


 スイが俺の方をじっと見つめてはっきりとそう言う。

 アリアたちも何度も頷いている。


 俺の呪いのことを知って以来、彼女たちの魔術に対するやる気は上がった。

 本気で俺の呪いを解くつもりらしい。


「そうだな。解かないとな!」


 彼女たちが頑張ってくれてるのに当事者の俺が諦めるわけにはいかないだろう。


 俺は気を引き締めなおす。


「あれ?」

「? どうかした?」

「いや、大したことじゃないんだけど」


 今まで衛星のように俺たちの周りをくるくると回っていたリノが止まっている。

 もしかしたら何か見つけたのかもしれない。


 しばらくして、リノは俺たちの方へ向かって移動しだす。

 本当、リノはすごいな。


「リノが戻ってくるみたいだから少しここで待とう」


 俺たちは戻ってくるのをその場所で待った。

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