商人さんがやってきた!②

「なんか、冒険者みたいに見えるな」

「そうね」


 俺とアリアが村の近くまで来ている。

 ここまでくると、村の周りをうろうろしている人の容姿もハッキリとしてきた。


 年齢は俺たちよりかなり上の男性に見える。

 腰には剣を帯びていて、歴戦の風格が漂っている。

 そこまで清潔ではないが、野盗というほど粗野ではなく、総合的に見るとおそらく冒険者だろうって感じだ。


「こんな時期に冒険者が私たちの村に何の用かしら?」

「さぁ? とりあえず、話しかけてみたら何かわかるんじゃないか?」


 俺たちはそんな話をしながら村に近づいていく。


 話しながら歩いていたせいか、冒険者風の男は俺たちに気づき、こちらに手を振ってくる。

 俺たちもとりあえず手を振り返してみた。


 俺たちが手を振り返したのをみて男は俺たちに向かって全力で走ってくる。

 俺はアリアを隠すように一歩前に出た。


「なんかこっちにくるわね」

「そうだな。俺たちが手を振り返したから、とりあえず敵ではないと判断したんじゃないか? どうする?」

「……向こうが危害を加える気がないならそれでいいわ」

「了解」


 俺たちは警戒しながらもゆっくりと冒険者の方に歩いていった。


***


「ジーゲさん。その辺境の村にそんなにすごい錬金術師がいるんですか?」

「おそらく間違いないだろう。領主様が売却した『土液』は相当な濃度だった。あれほどの『土液』を作れるのはかなりの実力を持った錬金術師だけだ。そして、領主様が最近査察なさったのがこれからいく開拓村。いやー、ラケルさんたちが護衛の依頼を受けてくれて助かったよ」


 俺たちは商人のジーゲさんの依頼でジーゲさんの馬車を護衛しながら最近できたという噂の開拓村へと向かっていた。


 正直、この依頼は受けたくなかった。

 だが、秋口に俺が怪我をして冬越しのために十分な蓄えを準備できなかった。


 冬の依頼は危険なものが多いのでどの冒険者もほとんど受けないのだが、背に腹は代えられない。

 パーティメンバーと一緒に少し危険な依頼をこなしながら日銭を稼いでいたときに舞い込んできたのがジーゲさんからの依頼だった。


 護衛依頼は他の依頼に比べればだいぶマシだ。

 冬の夜営という危険がつきまとうが、野営のための道具は全てジーゲさんの方で用意してくれるとのことだったので依頼を受けたのだ。

 こちらとしてはかなりいい条件を提示してもらったが、ジーゲさんとしてもなんとしても早く開拓村に行きたかったらしい。


 なんでも、相当上質な『土液』なるものが出回ったらしい。

 この『土液』というのはいろいろな素材を錬金術で調合して出来上がるもので、錬金術に不可欠なものらしい。


「でも、普通錬金術師ってもっと大きな街にいるものなんじゃないの? 色々と仕事もあるでしょ」

「高名な錬金術師の中には辺境に居を構える人もいるらしい」


 俺とジーゲさんの会話にリリファが加わってくる。

 リリファはエルフでうちの魔術師だ。


 エルフは種族柄、好奇心が強い者が多く、彼女もその例に漏れず、何にでも首を突っ込みたがる。

 今回の依頼もリリファが反射的に受けると言い出したのだ。


「おーい」


 斥候として先行してもらっていたゼールが戻ってくる。


「この先に人が住んでそうなところがあったんだけどさ」

「おぉ! きっとそこが件の開拓村ですな!」


 ゼールの発言を聞いてジーゲさんは嬉しそうに声を上げるが、俺はゼールの発言が少し引っ掛かった。


「村に何かあったのか?」

「……村にしては立派な堀と塀で囲まれてるようだったから気になっただけだ」

「? 開拓村なんだから強固な守りを持っているのは普通じゃないのか?」

「それにしても強固すぎる気がするんだよなー」


 ゼールの発言が少し気になったが、今更引き返すわけにもいかない。

 ジーゲさんも少し気になったのか、馬車を止めて俺の方に寄ってくる。


「どう思います?」

「……みてみないことにはなんとも言えませんね」

「それもそうですな」


 こういう時のゼールの勘は結構当たる。

 用心に越したことはないだろう。


***


「なんだありゃ?」


 しばらく進むと村?らしき物が見えてきた。

 たしかにゼールの言うとおり塀に囲まれているし、堀もある。


 だが、その規模がおかしい。


 塀は俺の背丈の倍はありそうだし、堀はゼールでも飛び越えられないくらいの幅がある。

 これだけの防御力を持った村が開拓村なんて、ゼールじゃなくても信じられないだろう。


「ジーゲさん。これはちょっと様子を見たほうがいいかもしれない」

「そうですね。私も流石にここまでとは思っていませんでした」

「ねぇ! ラケル! もう行ってもいい?」

「「……」」


 暗い顔で話し合う俺たちをよそに、リリファは興味津々だ。

 好奇心旺盛なエルフの彼女にとってはこの村は興味をひくものがいっぱいのようだ。

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