なんか、呪われてるんだ。

商人さんがやってきた!①

 キーリが農具づくりを始めてから数日。

 農具の作成はあまりうまくいっていなかった。


 と、いうのも俺が持っている古代魔導師文明の本に錬成するための手順は書かれていたのだが、「材料をひたひたにひたす」とか「ひとつかみいれる」とか抽象的な表現が結構あったからだ。

 直訳してみたが、その辺がネックになって失敗が続いている。


 一方、魔の森での魔物の狩は順調に進んでおり、そろそろ複数体との戦闘をこなせるかもしれないという状況になっている。


 今日もいつも通り魔物を倒して村に戻っていた。


「魔の森の中に雪が降らなくて助かるわね」

「まあ、魔の森は別次元みたいなもんだからな」


 村には雪が積もっているが、魔の森の中には全く雪が積もっていない。

 それどころか、森の中に入ると春とまではいかないが森の外より暖かい。


 森の上には雪が降っているのに降った雪はどこに行ったのか全く以て謎だ。


 一般的には魔の森の中は亜空間となっていて、外とは別の空間になっているといわれているが、その割には木々の間から見る空は雪が降っている。

 まあ、分からないことを考えても仕方ない。

 俺に言えることは雪が積もっていないからこれまで通りに戦えるということだけだ。


「今日も予定通りの量が手に入ってよかったな」

「みんなごめんね。私がなかなか成功しないから……」


 キーリが申し訳なさそうにそういう。

 ここ数日は魔物との戦闘は1回しかできていない。

 今日などは魔物との戦闘は一度もできなかった。


 最近はキーリが農具を作るための材料となる魔の森の木を取ってきている。

 木はその辺に生えているのだが、生えている木を切ると魔物がわんさか寄ってくる。

 魔の森が魔物に自分を傷つける存在を教えているせいだといわれているが、実際は定かではない。


 まあ、そのため、倒木や太めの枝が落ちているのを探して持って帰っている。

 正直、作業効率は一気に下がってしまった。


「キーリが気にすることないわよ。全部農具を盗んでいった馬鹿どもが悪いんだから」

「そうそう。キーリねぇは気にすることないぜ!」

「一日一体でも今までよりずっとたくさんの魔物を倒せてますしね」

「魔石、たくさん」

「……みんな。ありがとう」


 4人がキーリを励ます。

 実際、今までは森から外に偵察に来ていたグレイウルフを週に一度くらいのペースで倒していたのが今は一日に少なくとも一体だ。

 アリアが貧乏性を発揮してすべての魔石を持って帰っているから、すでに俺が来るまでの間に手に入れた量を大幅に超える魔石を手に入れている。

 それに、魔の森の中で魔物を倒すと魔石の中の魔力の量が多いから同じ魔石でも高く売れる。

 それも計算に入れると相当な利益になるんじゃないだろうか?


「この調子なら農業なんてしないでずっと魔の森に入って魔物を狩っていてもいいかもね」

「いや、開拓村で農業そっちのけにしてたら村を取り上げられるだろ」


 確かに農業はあまり実入りは良くないかもしれないが、農業生産力の向上を期待されて開拓村を任されているのだ。

 いくら良質の魔石をたくさん手に入れても本業の農業をやらなければ追い出されるだろう。


 開拓村から追い出されれば今までのように魔の森にも潜れなくなるだろうしな。


「ちょ、ちょっとした冗談よ!」

「アリア、半分、本気だった」

「う~」


 スイの発言にアリアは反論できないようで低くうなる。

 まあ、アリアの気持ちもわからないわけじゃないけどさ。


(あれ? 村の外に誰かいる?)


 話をしているうちに村が見える位置までたどりついた。

 そして、俺は村の外をうろうろしている人影を見つけた。


「? レイン、どうかした?」


 俺が立ち止まったのでアリアたちも立ち止まる。

 そして、みんなを代表するようにアリアが俺に声をかける。


「いや、村の外に誰かいるように見えてな」

「え? 嘘? こんな時期に?」


 そうなのだ。

 魔の森の中は雪は積もっていないが外には膝より高い位置まで雪が積もっている。

 こんな時期にわざわざ辺境の開拓村を訪ねてくるものなど普通はいない。


 俺がじっと村のほうをにらんでいたので冗談ではないとわかったようで、アリアたちも警戒態勢をとる。


「とりあえず、俺とアリアであいつに声をかけるか?」

「そうね。4人はこの辺でいつでも戦闘に入れるように準備をしておいてくれる?」

「「「「了解」」」」


 やることさえ決まれば後の行動は速い。

 スイは杖を構えていつでも魔術を打てる状態を取り、ミーリアは全員に支援魔術を唱える。

 リノは短剣を抜き、キーリはボウガンを構えた。


「じゃあ、ちょっと声をかけてくるか」

「そうね」


 俺はアリアと二人で村の周囲をうろうろしている不審者のほうへと歩いていった。

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