魔道具を作ろう!①
今日は結局、三回の狩りを行った。
三回とも、危なげなく討伐は成功した。
三回目に関しては帰りもかなり余裕をもって撤退することができたくらいだ。
夕食も終えて、今はそれぞれ自由時間だ。
アリアとリノとスイは早々に魔力を使い切ってベッドに行ってしまうが、ミーリアとキーリは大体夜遅くまで食堂で勉強をしている。
だが、今日はミーリアも初めての狩りでかなりの魔術を使ってしまったらしく、早々に眠ってしまった。
今日はキーリと二人、食堂で本を読んでいた。
俺が依頼した古代魔導士文明の言葉の解読はうまく進んでいないようだが、あれは現代語訳版があるので、本は大体読み切ったらしい。
「ねえ、レイン。少し相談があるんだけど」
「何かあったか?」
いつもは三人で黙々と本を読んでいる。
だが、今日は二人だけだったためか、キーリが話しかけてきた。
俺が本から顔を上げてキーリのほうを見ると、彼女は真剣な顔で俺のほうを見ている。
「私、魔道具が作ってみたいんだけど……」
魔道具か。
いつか聞かれるんじゃないかとは思っていた。
キーリは錬金術がメインになりそうだったので、いつかは教えるつもりでいたんだが。
「俺は細かい作業が苦手だから魔道具を作るのは得意じゃないんだけど、まあ、簡単なのなら教えられるぞ」
「うん。レインは料理とかも苦手だもんね。この本に載ってるみたいな作業ならレインは教えられないだろうなと思ってた」
「うっ! 痛いところを」
俺は料理や工作なんかは苦手なのだ。
この村に来て最初の方は料理を手伝おうとしていたのだが、みんなに仕事が増えるだけだからじっとしておいてといわれてしまった。
実は魔道具の作成は錬成鍋を使って魔術素材を混ぜ合わせて造る。
料理と似たような感じなのだ。
俺は料理と同じように魔道具の作成も苦手としている。
「まあ、俺が不器用なのはこの際どうでもいいよ。それで? 教えてほしいんじゃないなら、何か手伝いでも必要なのか?」
「うん。材料がね。聞いたことのないものばっかりだったから図鑑とかないかなと思って」
「あぁ」
キーリ達に貸している本は古代魔導士文明の中期に書かれたものだ。
当時はなんでもお金で買えたので、材料はどこかで買ってくる前提で名前だけが書かれている。
だが、今の時代にそんなものを売っている場所はない。
たとえあったとしても高すぎて買えないだろう。
じゃあ、森で採集しようという結論に至るのはあながち間違いではないと思う。
「図鑑はあるけど、古代魔導士文明の言葉で書かれているからなー。何を作るつもりなんだ?」
「この『水石』っていうのを作りたいと思うの。名前から見た感じ材料は全部植物みたいだし、これなら私でも作れるかなーって」
「『水石』か……」
「これがあれば井戸に水を汲みにいかなくてよくなるでしょ?」
『水石』は魔力を注ぐと水を作り出す初歩的な魔道具だ。
『水生成』の魔術に似た効果で、魔道具なので誰でも使うことができる。
「確かに、素材はこの辺で全部手に入るな。でも、錬成鍋はどうするつもりなんだ?」
「え? ふつうのお鍋じゃダメなの?」
「いや、ダメに決まってるだろ。普通の鍋で煮ても魔石や素材が解けたり混ざったりするわけないだろ」
錬成鍋というのは調合の際に使う鍋のことで、魔術的な効果で素材を魔祖物質とかいう謎の液体に変換する効果がある。
この鍋で素材を煮ているとなぜか石も金属も植物もドロドロの液体になるのだ。
その状態で混ぜ合わせ、決まった操作をすれば魔道具が出来上がる。
錬成鍋は古代魔導士文明よりさらに前の時代からあるものなので原理は謎だ。
古代魔導士文明の前期以前の書籍には書かれているのかもしれないが、俺は中期以降の本しか持っていないのだ。
「まあ、錬成鍋は俺が小さいのを持ってるからそれをキーリにあげるよ。そのうち町に行って発掘品の錬成鍋を買ってきて『修復』の魔術で直せばいいだろ。春までにはキーリも『修復』の魔術くらいなら使えるようになってると思うし」
「ありがとう。レイン」
錬成鍋はよく遺跡から発掘される。
ほとんどの場合が壊れて使い物にならない状態で発掘されるのだ。
だが、古代魔導士文明の製品だから当然初期状態が鍋に記憶されている。
それなら『修復』の魔術で直すことができる。
『修復』の魔術は『装備修復』よりも難しい。
『装備修復』が『修復』を効果を限定することで使いやすくしたものなので当然ではある。
だがまあ、買い物に行くのはおそらく春になるだろうからそれまでには十分習得できるだろ。
「じゃあ、とりあえず、明日出発する前に図鑑を見せながら説明するよ。その時に錬成鍋も持ってくる」
「ありがとう。レイン」
俺はキーリのほうを見る。
キーリが思い詰めているような顔をしているのが気になった。
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