魔道具を作ろう!②
「もしかして、キーリ。今日自分は役に立たなかったと思ってる?」
「っ! そんなことないわよ」
キーリは俺の質問に苦虫を嚙み潰したような顔をする。
「……レインには隠し事できないわね。私はいなくても何とかなったんじゃないかとは思っているわ」
「派手な働きはなかったけど、道具を最善の状況に保つのは重要なことだし、採集でいろいろな素材も手に入れてるからいるといないでは大違いだと思うけど」
「……私一人では魔物は倒せないわ」
「あぁ。そういうことか」
ようやくキーリが何を求めていたかに気づいた。
キーリ達に渡した本の魔道具の中にゴーレムがある。
錬金術が戦闘をするならゴーレムが一番メジャーだ。
そしてそのゴーレムのコアは錬成鍋による錬成で作る。
おそらく、キーリはそれを使って戦闘に参加したいのだろう。
「役割を分けたんだから一人でわざわざ魔物を倒す必要はないと思うぞ」
「……それはわかってるけど」
味方を支援したり相手を妨害したりするキーリのポジションはかなり重要なポジションだ。
今はグレイウルフが一体だけだから気にならないが、これが複数体になってくるとその重要性はもっと増してくる。
それに、強くなっていけばどのポジションでもやれることが増えて結局オールラウンダーに近づいてくる。
ゴーレムもわざわざ今から作ろうとしなくてもそのうち自然と作れるようになるだろうし、もっとほかの攻撃手段も取れるようになってくる。
そのことはキーリにも話している。
だが、今現在命の危険もあるところに住んでいる以上、直接的な力が魅力的に見えるというのもわかる。
「いいよ。キーリがやりたいんだったら魔道具の作成を先に習得するのも悪くないと思う。結局いずれは覚える必要があることなんだし遠回りというわけでもないだろ」
「ありがとう。レイン」
「お礼を言われるようなことじゃないよ。俺は道具を準備することしかできないからね」
キーリは申し訳なさそうにしているが、むしろ申し訳ないのはこちらの方だ。
ちゃんと教えられないかもしれないから魔道具作成は後回しにしていたのだから。
錬金術を中心に教えるなら、先に教えておくべきだったのだ。
明日までにできるだけのものを準備しようと心に決めた。
***
「すごいですね。キーリ。この水石はとても便利です」
「役に立ってよかったわ」
キーリの魔道具作成は俺が驚くくらいうまくいった。
俺は初歩の初歩である『水石』の作成に三年もかかったのにキーリは三日で完成させてしまったのだ。
今でこそ落ち着いているが、できた直後は「やったー! できたー!!」と叫びながら工房中を飛び回っていた。
そういうところを見ると、リノの姉なんだなと思う。
それはさておき、これで俺に魔道具作成の才能がないことが証明されてしまった。
「でも、私の知ってる魔道具と全然違うわね」
アリアは石に魔力を流せば水が出てくる様子を不思議そうに眺めている。
おそらく、彼女の知っている魔道具というのはこの魔石に使いやすいように取っ手や注ぎ口をつけた蛇口のような魔道具のことを言っているのだろう。
「あれは職人がこのような魔道具のもととなる石を加工しているんですよ。王都で言う魔道具職人というのはこの石を加工する職人のことです。石自体が作れるとは思ってもみませんでした」
「そうなのね。知らなかったわ」
ミーリアはさすが王都出身ということもあり、魔道具についてもよく知っているらしい。
俺も現代の魔道具事情は知らなかったので感心してしまった。
「ん? どうかしたか? スイ」
俺がキーリ達のほうを見ていると、スイが俺の服を引っ張ってくる。
「私も、錬成鍋、ほしい」
「あー。あれ一つしか持ってないんだよ。買ってやりたいのはやまやまなんだが、今から王都に行くのはちょっと難しそうなんだよなー」
錬成鍋の壊れたものなんてのは欲しがるのは珍しいもの好きの貴族くらいだ。
だから、手に入れるには大きな街の骨董商とかに行かないといけない。
今日、開拓村に初雪が降った。
おそらくここ以外の場所ではもう積もっているだろう。
王都までは馬車を使っても片道一か月かかるから帰りは完全に雪で立ち往生させられる。
まあ、強行軍ならいけると思うがそんな危険を冒す必要はないだろう。
三か月もすれば雪解けで王都に行けるようになるのだ。そこから行動しても遅くはないだろう。
春になれば近くの町の商人に頼んで買い付けてきてもらうこともできるのだから。
「春になったら手に入れられるように動くから、もう少し待ってくれるか?」
「わかった」
「悪いな」
俺はそういってスイの頭をなでると、スイは気持ちよさそうに目を閉じる。
スイの錬成鍋もそうだし、この森では手に入らない素材もそのうち出てくるかもしれない。
そういう素材は買う必要が出てくるし、今のうちに金策についてもアリアと相談しておくか。
俺は今後の予定を考えながら楽しそうに『水石』で遊ぶアリアたちを眺めていた。
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