武器を装備しよう!⑤

「じゃあ、次はアリアね」

「よろしくお願い」


 キーリはどんどんと『装備修復』をしていく。

 リノの装備の次はミーリアの装備を修復していたが、ミーリアの装備を治すときはかなり余分な土属性の魔術成分物質の消費が減っていた。

 まだ余分はだいぶ多いが、不足するよりはいいだろう。


 これならもう任せても大丈夫かな。

 あとでチェックだけしておけばいい気がする。


「レイン」

「? どうした? スイ」

「さっきの魔術、どうだった?」

「あ~」


 俺がキーリの様子を眺めていると、スイが俺の服を引っ張ってきた。

 どうやら、スイはさっきの戦闘が納得いっていないようだ。


「まあ、最後の一発はかなりうまくいってたと思うぞ?」

「……そう」


 スイには今朝、攻撃魔術を使うときのコツを教えていた。


 魔術は誰がやっても同じ結果を出す。

 だから、危険がないようにいろいろな制限がかかっている。

 正しく使わないと最低限の結果しか出せないのだ。


 一番危険性の大きい攻撃魔術はこの制限が一番強い。

 その制限のうち、一番影響を受けやすいのが対象の指定だ。


 スイには、魔術を発動するときの対象指定を魔術感覚でとらえた相手の位置にするようにとのアドバイスをした。

 意識的にしないと、どうしても視覚でとらえた相手の位置を対象にしてしまいがちなのだ。


 目でとらえる情報というのは光情報になる。

 これは物体に反射した光を目がとらえている。

 つまり、目で捉えた情報は相手の表面の情報ということだ。


 こういったこともあって、視覚情報で魔術の対象設定を行うと、魔術は対象の表面に到達した時点で目標を達成したとして消えてしまう。


 魔力感覚では対象の全体をとらえられるので、対象の表面で消えることがない。

 どちらのほうが大きなダメージを与えることができるかは明らかだ。


 両方の情報を同時に魔術に与えることはできるが、攻撃魔術は効果が低いほうを優先して利用する。

 つまり、視覚から得たほうの情報が優先されて使われる。

 魔術を使う際にはしっかりと魔術感覚で相手をとらえ、視覚情報を頭から追いやって使う必要があるのだ。


「最後の一発は間違いなく魔術感覚で相手をとらえてたよ」

「でも、一発目と、二発目は、視覚でとらえてた」

「……まあ、そうだな」


 今のスイの能力であれば、魔術感覚で相手をとらえて『水球』を使えば、グレイウルフ程度であれば一発で倒せるはずだ。

 倒せないにしても、さっきみたいにグレイウルフがダメージを受けた様子も見せず動き回っていたということは視覚で対象をとらえていたと考えてほぼ間違いない。

 攻撃がほとんど通ってなかったのだ。


「まあ、俺も最初はどうしても視覚でとらえちまってたし、何度もやってるうちにだんだん慣れていくよ」

「(コクリ)」


 スイは少し不満そうにうなずく。

 こればっかりは実戦で練習するしかないので、何とも言えない。


 というのも、魔術感覚で敵を捕らえようとすると、対象が魔力を持っていないといけない。

 魔道具や普通の動植物なんかも魔力を持ってはいるが、微量すぎて練習対象にできないのだ。

 その辺を感じられるくらいになれば、魔術感覚で対象を指定するのに苦労していないだろう。


 周りで唯一魔術感覚でとらえられそうなものといえば人間だが、さすがに人間を使って練習するわけにはいかない。

 失敗したら大けがにつながるし。


 ほかの方法として、位置情報をしっかりと指定して魔術を使うことはできるが、対象を指定して魔術を使うほうが動く敵などにも当てやすい。

 ほとんどの攻撃魔術が追尾能力を持っているからな。


 比較的脅威度の低いグレイウルフでできるようになっておいた方がいいだろう。


「まあ、スイならすぐにできるようになると思うから、がんばってみてくれ」

「……がんばる」


 俺はスイの頭を撫でながら応援する。


 実際、スイは天才だから、すぐにできるようになる気がするのだ。

 魔術を使えるようになるのも早かった。

 それに、スイは結構論理的な思考が得意なようだ。


 魔術は論理的な思考ができるほうが扱いやすくできている。


 魔術はプログラムのように与えられたことを正確に処理するようにできている。

 何がどうなってどうなるという論理的な考えができるほうが設定値の指定や、使う魔術の選択などでいい点が多いのだ。

 作った奴は理系脳だったんだろう。


「ちょっと、スイ。後はスイの杖だけよ」

「スイも杖をもってこっちに来て」


 キーリとアリアがスイを呼ぶ。


 俺がスイと話をしているうちに四人の『装備修復』が終わって、あとはスイを残すのみとなったらしい。

 『装備修復』をしているうちにアリアも体力が回復したのか、今にも魔の森に突入したそうにしている。


「すぐに、行く」


 スイはそういってアリアたちのほうへと歩いていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る