第3話

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サン・リンポチェの経歴は不明であるが、チベットでは博学で尊敬されている高僧という意味だそうだが、ペンネームなのでお香屋をやっていた関係で現地ではお香のことをサンと呼ばれており、その詳しいものがリンポチェであり単純にそれだけである。以前商売をやっていた時に関係者から、あんたはたいそうな名前を付けているよと指摘された時もあるがそんなことは知ったこっちゃあないのである。


有名なコンクールの審査員とか賞をたくさん受賞をしている有名な作家とかが、面白がって見て回っているが一様に驚きの表情で説明を詳しく求めてくるが、ほとんどをプロ陶芸家のサスケに任せているが要領よくさばいている。


順調に推移して1週間目にさえない身なりの30歳ぐらいのおっさんが、いい茶碗がそろっているんだけど手持ちが5000円しかない。失敗品とか傷物でいいから一椀が欲しいと申し出てきた。

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顔を見合わせて首をひねっていたが、ゴン太がおっさんのところに寄って愛想よくワンワンワンと鳴いた。


これは何か重大な意味があると直感をして、犬があなたを気に入っています、ちょっと待ってくださいと別室から未展示の茶碗を持ってきた。益子乾山風のものである。これは無料プレゼントです、また遊びに来てください。

と言ったら名刺を差し出した。航空研究所研究員平賀源内ということであったが、嬉しそうにスキップをする感じで帰っていった。”ゴンちゃんなんかあるのね~と言ったら”、ニヤリと笑ったようである。


さて、主婦連に用意する手頃な価格のお茶碗はどのようにするのか・・・サスケいわく楽茶碗は練習用に写しが多く焼かれているが長次郎・光悦を超えるものを作り、写しではなく分身をしたものに高台の裏にはサンリンポチェの署名とともに庵の印が入ることになる。これは分身の印で印のほかは本歌と100パーセント同じものである。

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分身は超能力で簡単に作れるし、ほかの種類もいろいろ用意をしておけば喜んでもらえると思う。これはこれで大きな商いになる可能性がある。もちろんオークションのものは一点ものなので値が崩れるということはない。


すずはうなずき、ゴン太もこっくりと首を上下にしてうなずいた。茶碗は150万円だからいくらにしようか、共箱署名入りで75,000円だったら喜ばれるな。さて個別オークションは小壺が200万円で止まったままである。浜田庄司の同じ大きさのものが300万円なので、経歴不詳の新人の作家のものなのでこんなもので上出来だと思っていた。


全100作品に指値が入ったので完売状態である。あと3日間もう惰性でいいやと思っていたら、全身から強烈なオーラを発散している上品なオバチャンが黒塗り運転手付きの車で登場した。なんと獰猛な大型犬のチベタンマスチーフとともに店内に入ってきた。

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お客様、お連れの犬はどうも・・と言おうとしたら、ゴン太は吠えるどころか尾っぽを振って歓迎の合図を送っている。

マスチーフもうなずいて落ち着いているようだ。私は四菱の岩田本家の責任者です、経営から離れていますけども顔は効きますよ。これからお世話になると思いますがよろしく。と手土産持参で一番の大作で高額品に最高値を入れてにこやかに帰っていった。


ふ~むこれは天命か・・。チベタンマスチーフはチベット高原が原産でバブル時代には5億円の世界最高値がついた。現地の寺院にはもう少し小型の種類が寺犬として飼われている。


展示会を開催中、マスコミとバイヤーは注目を集めていることのネタ探しと、儲かりそうなにおいに鵜の目鷹の目である。まあ、経歴と住所が不詳で公式の写真もなく受賞歴もない新人作家でもずば抜けた実力があるので注目されている。さて、千客万来で大賑わいだが本日で最終日である。


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