第12話 決行の日

大吾は早朝、祥子に

身を捨てる風な内容のLINEをよこした。

ペンちゃんの行く末だけが気がかりで、

祥子に任せるといったものだった。

どんな段取りでペンちゃんを引き受けようか

話を詰めていったのだが、

決心は硬いようだった。


祥子は、

大吾を失いたくない一心ではあったが、

大吾が命を捨てたいというまでに追い詰められているのなら

それを止める権利はない。

大吾のしたいようにさせてあげるのも、

愛おしい彼への優しさなのかと思っていた。



彼は二行の遺書をしたためてきた。


さよなら。出会えて嬉しかっ

た。本当愛してた。




そして祥子は長文で返した。


あなたに出会えた事は

マリア様からの

ギフトでした。


あなたに会えなかったら

こんなに他人を慈しむ事も

知らずに暮らしてたでしょ

う。


わたしはあなたを愛して、

同時に自分や家族を愛する事

ができました。


それほどあなたの影響力は

強かったです。


死神の落語のように

人の寿命は決まっているのか

もしれない。


あなたのしたいように。

ただ大吾ちゃんは生ききった

よ。

それは素晴らしいです。

最後の恋人になれて

光栄です。


わたしはペンちゃんと大吾ちゃ

んの面影を見つめて生きてい

くんやな…


て思うと寂しい。



ペンは剣よりも強し。

大吾の決意は揺らいだ。

祥子は何のためにこうして執筆しているのか

だんだん理解できてきた。

コトバで大吾を愛おしむという、

なかなかできない作業だけれど想いを

伝えること。

すなわち、コトバを探し、当てはめて。


そのコトバたちを丁寧に丁寧に紡いでゆく。

何か、誰か、を救っただろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る