第11話 つきのはなし

大阪に帰ってしばらくして大吾は

月の話をした。

夜になると視界が青ざめると。

もちろん白く輝く月も青く見える。

それが怖いんだと。

祥子と歩いた夜道、

月の光に感動して大吾は涙を流していた。

かつての恩師の命日だと。

祥子の誕生日でもある。

ちょうど満月に近い夜だった。

なぜか月命日には

青ざめる現象がなくなるそうだ。

医者へかかってもおかしいところは

指摘されない。


あの日祥子と観た月は、

大吾にとっても、きれいな白い月だった。

祥子ちゃんといたからなんかな

と電話口から大吾が呟く。


大吾のふしぎなつきのはなし。

そういえば、月と涙をみた日。


月ってね、漱石が「I love you」を

「月がきれいですね」って訳したとか。

そんな話を祥子に聞かせてくれた。

ただ、愛しているという言葉を引用しない

というくだりで、

何度も何度も「愛」という単語を連呼する

大吾がかなり可愛かった。


月、日本語、愛

すべてが奥ゆかしく深い。

文章について、たくさんはなした。


そんな白い月を見ながら、

大吾は祥子に

「月がきれいですね」とそっと言った。

祥子は大吾に

「私もそう思います」と月を見上げて

返した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る