第4話 リラクゼーションと祥子

祥子は一旦大吾を手放そうとした時、

先輩のリトリートメントのヘッドマッサージ

を受けた。

それも不思議な体験だった。


いいロケーションがないか先輩から

尋ねられた。

天王寺のあつい日差しの照りつける

雨上がりの日。

肌寒い夏の日が明けて

久しぶりに蝉声を聞いた。

慶沢園という日本庭園を提案した。

落ち着いた趣と緑が多い、人が少ない場所。

訪れてみたがあいにく休園だった。


考えた末、茶臼山にした。

奇しくも夏の陣で真田軍と徳川方の

奮戦の地。

今や面影はなく、

陰があり風が通り鳥もがさえずって

自然を感じられる最も良いロケーション

だった。


先輩はカウンセリングで祥子に将来、

何がしたいか尋ねた。

アンケート用紙に祥子は正直に

がん患者も施術できるようになりたい。

と答えた。

漠然とセラピストで

看護師だからできるだろう、安直に生まれた

夢は、日に日に本気に変わっていった。


なぜなら父親が尿道癌、

動脈浸潤転移、手術適応外の末期がん

患者に最近なったから。

先輩は祥子の夢を泣きそうになるぐらい

感動したと伝えてくれた。


まず3分の瞑想から始まる。

このときの祥子は全くもって

深呼吸ができなかった。

意識を向けるとできるのだが

違うことを考えだすと浅くなる。

先輩は呼吸に集中して…と繰り返した。



リトリートメントが始まった。

頭の中心から、

例えるならミントでスッとする感覚

そして邪気が抜けるような体験をした。


その体験を経て、先輩と練習会に臨む。

先輩はオイルケアはただコリをとるだけではない、

「癒しとは…」

を一生懸命教えてくれた、手取り足取り。


祥子はこの時はまだ小説を書くことも考えていなかったし

もう大吾との関係も精算されたと思っていた。


この日の帰り、

大吾との約束、毎日一本落語を描く事を

放棄してみた。

継続は力なり、ペンは剣よりも強しと

教えてくれていたのに。


そんな帰り道、

iPhoneのSiriから提案される、

メモ#10行らくご


新月の10日ほど前月の丸い日のことだった。

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