太鼓の殺人
みなもとあるた
太鼓の殺人
「それで探偵さん、犯人は分かったんですか?」
「ええ。まずは状況を整理してみましょう。被害者は、タンスのカドに頭をぶつけて倒れているところを発見されました。最初は単なる事故かと思われていましたが、足を滑らせただけではあそこまで大きなけがにはならないはず…それで他殺の線が濃厚になったというわけです」
「じゃあ、誰かが被害者をタンスのカドにドンと叩き付けたということですか?」
「おそらくそうでしょうね。凶器が刃物などではなくタンスであったという状況を考えると、入念に計画したうえでの犯行というよりは、ついカッとなって殺してしまったようにも見えます。そして被害者の奥さんが部屋に入ってきて、床に倒れている被害者を発見した…」
「その時の悲鳴を聞いて、皆さんがドカドカと部屋に入ってきたんですよね」
「普段はおに嫁と言われていた奥さんですが、あの時ばかりは床に倒れている被害者の姿を見て流石に気分が優れなかったようですね。今はだいぶご気分も良くなった様ですが、まだ体調は可もなく不可もなく、といったところでしょう」
「でも探偵さん。被害者がタンスのカドに頭をぶつけて亡くなったとするならば、被害者が倒れるときにドンという大きい音が聞こえてもおかしくはないですよね?」
「その通りですね。皆さんもドンドンと響く音を何度か聞いたと思います」
「確かにドンドンとうるさい音はしていましたが、近くで夏祭りが開かれていましたし、その花火の音だったのでは?」
「そう、それこそが犯人の狙いだったのです。犯人の狙いは、被害者を撲殺する時のドカッという音や、被害者が床に倒れるときのドンという音を、花火のドンドンという音にまぎれさせること…」
「つ、つまり、被害者が亡くなったのは、ちょうど打ち上げ花火が空に消えていった頃…。ということは…」
「そうです。その時間帯に犯行が可能だった人物は、打ち上げ花火の上がっていた時間に我々と一緒に居なかった人物…つまり、あなたが犯人です!」
「くっ、やはり言い逃れ出来ないか…そうさ、奴を殺したのは俺だ…」
「なぜ人殺しなどというバチあたりな事をしたのですか!」
「あいつが悪いんだ…俺はあいつの部下だったから、営業のノルマを達成できないととにかく怒られたし、ノルマを達成したらしたで『もう一回営業周りして来い』と命令されるばかりで…俺はそんな生活が嫌で嫌で仕方なかったんだ…」
「被害者がそんなことを…?」
「さいたまに先週出張したときだって、奴は全ての仕事を俺に押し付けて飲み歩いていやがった…そのせいで帰りが遅くなった俺は、妻との関係が悪化して…」
「事情は分かりましたが、やはり殺人は許されることではありません。この先は、取調室でカツドンでも食べながら話してもらいましょうか」
太鼓の殺人 みなもとあるた @minamoto_aruta
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