第七十七話「ガラライカ・ポテマ」

「はああああ!」

「うおおお!」


 カンッと木刀がぶつかる音が海辺に響く。

 ぶつかったのは、俺の木刀とジュリアの木刀だった。

 砂浜の砂で足元がおぼつかないながらも、俊敏に動くジュリアになんとか対抗する俺。


 なぜ、俺とジュリアが砂浜で戦っているかというと。

 昨日と同じように、朝食を皆で食べるために、第五寮の裏にある海が見える高台へ来たのだが。

 海を眺めていた時にジュリアが、


「エレイン!

 今日はあそこで朝の修練するわよ!」


 と言って、あらかじめ用意していたらしい木刀を俺に渡してきたのである。

 そして、ジュリアに引っ張られて浜辺にまで連れてこられたという経緯だ。


 流石の横暴っぷりである。

 これでも、俺はジュリアのあるじなんだがな。


 とはいえ、朝の修練をしたかったのは俺も同じだったので付いて来たというのもまた事実。

 俺はいつものように、ジュリアと木刀を打ち合うのだった。


 そして、来てから気づいたのだが、砂浜で戦うというのは思っていたより訓練になる。

 まず、足元がおぼつかないので、滑りそうになったら踏ん張らざるを得ない。

 そのため、足の筋肉をいつもより使うので、なんだか鍛わっている感じがする。


 それに、この足がおぼつかない状況下でどのようにジュリアの剣を捌くかというのも訓練になる。

 実践において、足元がおぼつかない環境で戦わなければならないということは往々にしてあるものだ。

 この砂浜はその練習にピッタリなのではないだろうか。

 ここは良い練習場になりそうだ。


 なんて考えていると。


「隙あり!」

「ぐへっ!」


 ジュリアの木刀による突きが綺麗に俺のみぞおちに入り、俺は一瞬息が出来なくなった。

 そして、そのまま倒れこんだ俺を見下ろしながら、勝ち誇った顔でジュリアは叫ぶ。


「勝負の時に考え事してるなんてまだまだね、エレイン!」

「あ、ああ……」


 これに関しては、ぐうの音も出ないほどにジュリアの言う通りだった。

 剣を打ち合っているときに考え事をするなんてどうかしている。

 もっと集中力をあげなければ。


 俺は、そう反省しながらジュリアに手を引っ張って起こしてもらう。


「そろそろ、朝ご飯出来たんじゃないかしら?

 サシャとピグモンのところに戻りましょ!」


 そう言って、俺の手を引っ張るジュリア。

 俺も、先ほどからのジュリアとの激しい打ち合いのせいでかなりお腹が空いていたので、ジュリアに引っ張られるままにサシャ達がいる高台を目指す。


 それにしても、ジュリアはやる気に満ち溢れているな。

 昨日、シュカに負けたときは落ち込んでいたから心配していたのだが。

 もう吹っ切れたようだ。


 俺との打ち合いのときも、全く集中力を切らすことなく果敢に攻めてきた。

 やはり、シュカに負けたことで強くなりたいという気持ちになったのだろう。

 この調子なら、ジュリアはどんどん成長するだろうな。

 俺も負けないように頑張ろう。


 なんて思いながら、砂浜を歩いていると。

 高台の方から、こちらを目指して歩いてくる二人の人影が見えた。


 最初、サシャとピグモンが俺達のことを呼びに来たか?

 と思ったが、明らかに二人とは身長が違うことに気づく。

 かなり大きな人影である。


「あ」


 すると、ジュリアがそう呟いて立ち止まった。

 ジュリアに手を引っ張られていた俺は、立ち止まったジュリアにぶつかりそうになるのをなんとか回避してその場で立ち止まる。


 そして、ジュリアと同じように前方を見てジュリアが立ち止まった理由をすぐに理解した。


 なんと、見えてきた二人の人影の片方は、右腕を失ったドリアンだったのである。

 身長が二メートルはあるであろう巨体のドリアンであるが、その表情に昨日のような覇気はない。

 むしろ、少し怯えた様な表情にも見える顔。

 

 なぜ、そんな表情をしているのだろうか。

 と疑問に思った俺だったが、ドリアンの隣を歩く人物を見て、ドリアンの表情に納得した。


 ドリアンの隣には、ドリアンよりは身長は少し低いが、それでも身長百八十センチはあるであろう大柄の女性が歩いている。

 獣のような耳と尻尾が垂れさがっているのを見ると、獣人族であることが分かる。

 灰色の髪の毛や尻尾を見るに、狼人族だろうか?


 女性は黒の本革で出来たレザージャケットを着ているが、筋肉質で良く鍛えられた体であることが服の上からでも分かる。

 その背中に背負う大きな斧を軽々と担いでいる様は、明らかに強者であることが分かる。


 だが、俺がドリアンの表情に瞬時に納得したのは、女性の見た目で判断したわけではない。

 女性から放たれている獣にねめつけられた様な殺気を、ここからでもひしひしと感じたからだ。


 俺とジュリアが立ち止まったのは、ドリアンに気づいたからではない。

 あの女性から放たれる殺気が強烈だったからである。

 近づけば殺される。

 そう思わざるを得ない生物の本能的な恐怖をあの狼人の女性から感じるのである。


 ジュリアの額には冷や汗が流れている。

 俺も緊張で動けなくなってしまう。


 俺とジュリアが、その狼人の女性を見ながら硬直していると。

 近づいてきた狼人の女性が俺達のことを見下ろしながら、口を開いた。


「おいドリアン。

 こいつか?」


 目の前で狼人の女性が、女性とは思えないような低い声で呟いた。


 そして、女性の質問を聞いて素早く反応するドリアン。

 ドリアンは大きな体を小さく見せるように頭を下げながら、


「はい、あねさん!

 そこの男の方のガキが、俺の腕を斬った奴です!」


 と、叫ぶのだった。


 俺は、昨日見たときとは全く印象が違うへりくだったドリアンの態度を見て驚いた。

 ドリアンにこのような態度を取らせる、この狼人の女性は一体誰なのだろうか。


 すると、ドリアンの報告を聞いた狼人族の女性は、腕を組みながら俺のことを鋭い目付きで睨みつけた。

 その瞬間、俺の全身が危険信号を発するかのように鳥肌が立つ。


「おい、そこのガキ。

 お前がドリアンの腕を斬り、第一訓練棟の客席に大穴を空けたっていうガキか?」


 その女性から放たれた言葉には、言葉以上に威圧感を感じる。

 ここで何か間違ったことを言えば殺されるのではないだろうか?

 と、思わせるほどの危機感を女性から感じていた。


 どう答えるのが正解なのだろうか?

 そもそも、この女性はなぜこんな早朝に俺達の元に来たんだ?

 それに、ドリアンとはどういった関係なんだ?


 俺の中で色んな疑問が湧く。

 だが、考えていても仕方ない。

 分からなければ、話して教えてもらえばいい。

 まずは、信頼を勝ち取ろう。


「はい、そうです」


 そう考えた俺は、嘘偽りなく肯定した。

 結局、人の信用を得るには嘘をつかないことが大事だ。

 それに、隣にドリアンがいるわけだし、この場面で嘘をつけるはずもない。


 そして、俺の答えを聞いた瞬間。

 狼人族の女性は、不機嫌そうにフンッと鼻を鳴らした。


「お前みたいなガキが、ドリアンの気堅守で守られた腕を斬ったっていうのか?

 私には信じられんな」


 そう言いながら、女性は俺の体をジロジロ見回す。


 俺はその様子に困惑しながらも、胸の前に両手を結び、頭を下げた。


「俺はエレイン・アレキサンダーといいます。

 えっと。

 あなたは、どなたでしょうか?」


 信頼を得るには、まずお互いに自己紹介をした方がいいだろう。

 その思いで聞いた質問だった。


 しかし、俺の質問を聞いて女性は眉を寄せた。

 明らかに不機嫌になったのを、俺は肌で感じ取った。


「私のことを知らないだと?

 お前、本当にこの大学の生徒か?」

「一昨日、入学したばかりでして……」


 俺が内心怯えながらもそう答えると、ピクリと反応する狼人の女性。


「ほう。

 では、一年の分際で剣術の授業で優勝したということか。

 確か、メリカ王国の王子だとか部下からは聞いていたが。

 それも本当か?」

「は、はい。

 そうです……」


 なるほど。

 既に、そこまで知ったうえで来ているのか。


 それにしても、こいつには部下がいるのか?

 というか、狼人族で部下がいる女性ということは。

 もしかして……。


 と、俺が女性の正体を察し始めたところで、女性は二ヤリと薄気味悪い笑みを浮かべた。


「はっ!

 ボンボンの王子がドリアンの腕を斬るか!

 面白い!

 お前は、私の名を聞いていたな。

 いいだろう、教えてやろう。

 私の名は、ガラライカ・ポテマだ!

 そして、私は強い者が好きだ!

 私と決闘をしろ、エレイン・アレキサンダー!」


 俺は、この自己紹介を聞いて、全てを理解した。


 この女性は、ガラライカ・ポテマ。

 獣人王ガラシャーク・ポテマの娘であり、昨日シュカに戦わない方がいいと忠告された相手だ。


 そして、ガラライカは第一階級の生徒であり、自分の派閥を持っている。

 おそらく、部下から昨日の剣術の授業の件について報告があったのだろう。

 そして、ドリアンに問いただし、ドリアンと共に俺のところまで来たといったところか。


 ということは、ドリアンもガラライカ派ということか?

 まあ、今はそんなことはどうでもいい。


 問題は、いかにこの状況を切り抜けるかということだ。


 あのシュカが戦わない方が良いと言ったんだ。

 強敵であることは間違いない。

 ピグモンやシュカの話を聞く限り、この女性が凶暴で残忍な人間であることは間違いない。

 戦えば、下手したら殺される可能性もある。


 しかし、ガラライカから決闘を申し込まれてしまった。

 さて、いかに切り抜けるか。


「な、なぜ、ガラライカさんと決闘しなければならないのでしょうか?」

「いいから、剣を抜け」


 俺が、質問と会話で時間稼ぎをしようとするも、有無を言わせないといった様子。

 これは、もう戦うしかないか。


 俺は、仕方なく持っていた木剣を捨て、腰に差していた紫闇刀を抜く。

 すると、ガラライカの目付きが変わった。


「なんだ、魔剣か」


 俺を見て、少し呆れた様な顔付きになるガラライカ。

 

 どういうことだ?

 と、俺がガラライカの反応を訝しむと、ガラライカは口を開いた。


「どうせお前は、魔剣に頼って優勝した口だろう?

 そんな小さな体であの試合稽古を優勝出来るわけがないし、何かあるとは思っていたが。

 ふん。

 つまらんな」

「な……!」


 俺はガラライカの発言に衝撃を受けた。

 なぜなら、ガラライカの言う通りだったからである。


 自分の中では紫闇刀だけの力ではなく、自分の能力があったからこそ勝てたという認識をしていたつもりだったのだが。

 言われてみれば、あのドリアンとの試合は、紫闇刀が無ければ勝つことは絶対に不可能だった。

 それに、紫闇刀が客席に大穴を空けていなければ、他の俺と当たった生徒が降参することもなかっただろう。


 言ってみれば、優勝したのは紫闇刀の力なのである。

 それを自分の中で曖昧にしていたことに気づき、俺は羞恥心を覚えたのだった。

 まさか、他人に言われて初めて気づくとは。


 そして、俺の紫闇刀を見るや、明らかに殺気が薄れていくガラライカ。

 ガラライカの発言には衝撃を受けたが、これは戦わずに済むかもしれない。

 俺としては、俺の羞恥心より、この場を丸く収めることの方が重要である。

 殺気が薄れたのであれば、このままガラライカに帰ってもらえるとありがたい。


 などと考えていた時、急にガラライカの頭上にある獣のような耳がピクリと動いた。


「おい、そこにいるのは誰だ。

 今すぐ出てこないと、殺すぞ」


 言葉を発すると同時に、物凄い勢いで殺気を放つガラライカ。


 先ほどまで俺に向けられていた強い殺気は、今度は誰もいない俺の後方の砂浜へと向けられていた。

 俺も気になって、そのガラライカの視線の方向に振り返ると。


「お久しぶりでござる、ガラライカ殿」


 そんな短い挨拶と共に、何もない空間に浮かび上がるように現れたシュカ。


「あ、あんた!

 なんでここにいるのよ!」


 先ほどまで硬直したジュリアは、シュカを見てすぐに反応する。

 が、それを無視してガラライカは口を開く。


「なんだ、シュカか。

 久しぶりだな。

 お前と戦ったのはいつぶりだ?

 今だったらお前のことも殺せるぞ?

 また戦ってみるか?」

「拙者は無駄な戦いはしないゆえ……」


 そう言って、ガラライカの挑発を淡々と躱すシュカ。

 シュカといえど、ガラライカとは戦いたくはないのだろう。

 シュカとガラライカが戦ったらどちらの方が強いのか、気になるところではあるが。


「ふん、そうかい。

 ところで、お前はなんで、そんなところに隠れていたんだ?」

「拙者は、エレイン様の護衛任務についているゆえ。

 陰ながら護衛をしていたでござる」


 シュカがそう言うと、再び二ヤリとガラライカは薄気味の悪い笑みを浮かべた。


「そうかいそうかい!

 じゃあ、そこのエレインとかいうガキを殺そうとすれば、護衛のお前とも戦えるってわけだねえ!」


 そう言った瞬間には、ガラライカは姿を消していた。

 どこにいったのかと、俺が首を振ろうとした瞬間。


「死ね、ガキ」


 俺の右側からそのような呟きが聞こえて、体が身震いする。


 ギンッ!

 ギンッ!


 反射的に俺が首を右に回すと同時に、そんな鉄のぶつかるような音が二回聞こえた。

 音が聞こえた右側に目を向けると、俺に右手の手刀を向けているガラライカと、その手刀をクナイで受け止めるシュカ。

 それと同時に、ガラライカの背後には不死殺しを抜いたジュリアがいた。


 先ほどまで俺の隣にいたジュリアだったが、ガラライカが動いたのと同時に影法師を使ったのだろう。

 しかし、当然のようにガラライカは左手で、背後からの攻撃で見えないはずの不死殺しを受け止めているのだった。


「あ?」


 そう呟いたのはガラライカだった。

 意表をつかれたような表情。

 ガラライカはすぐに右手の手刀を収め、左手が後ろで掴む不死殺しの方へと振り返る。

 

黒妖精族ダークエルフのガキ……だと?」


 ガラライカは背後にいるジュリアを見て、信じられないといった顔でそう呟いた。


 そして、今度はあの強烈な殺気をジュリアに向けるのだった。


「お前、今何をした?

 今の移動術。

 私の目ですら追えなかったぞ。

 転移術か?

 呪文は唱えていなかったが」


 そう言いながらジュリアに詰め寄るガラライカ。

 ガラライカの殺気を直に受けて、流石のジュリアも狼狽えている様子。

 不死殺しを背後から振ったのに止められたということに驚いているようにも見えるジュリアの表情。


 しかし、ガラライカの威圧に耐えたジュリアは、ガラライカを下から睨みあげた。


「あんた、誰よ!

 エレインに向かって何してるのよ!」

 

 不死殺しを掴まれながらも、そうユードリヒア語でガラライカに叫ぶジュリア。

 ここでガラライカに向かって、堂々と啖呵を切れるジュリアは流石である。

 だが、ユードリヒア語なんて獣人族のガラライカに理解できるはずがない。

 

 と、思ったのだが。


「ほう、ユードリヒア語か。

 ユードリヒア語は、あまり得意じゃないんだがな……」


 そう言って、ガラライカは少し咳払いをしてから口を開く。


「オマエ、イマナニヲ、シタ?」


 ガラライカから発されたのは片言のユードリヒア語だった。

 まさか、ガラライカがユードリヒア語を話せるとは思っていなかったので、俺は驚いた。


 ジュリアもガラライカがユードリヒア語を話したことに驚くように目を見開いたが、それだけ。

 すぐに気を取り直して叫んだ。


「あんたがエレインを攻撃しようとしたから、私が影法師であんたを背後から斬ろうとしただけだわ!

 あんたが先にやったんだからね!」


 と言いながらガラライカを睨むジュリア。

 だが、ジュリアの足は少し震えている。

 ジュリアがガラライカの威圧感に歯を食いしばりながら耐えているのが、ここからでも分かる。


「カゲボウシ……」


 そう呟いたガラライカは口元に手を持っていき、何かを考えている様子。


 ここでようやく俺は理解した。

 おそらく、ガラライカはジュリアの影法師を見るのが初めてだったんだ。

 それで、困惑しているというところだろう。


「もしかして、ガラライカさんは影剣流を知らないんですか?」


 俺は、前にいるシュカの背に隠れるようにしながらガラライカにそう言った。

 すると、ギロリと俺の方にすぐさま振り返った。


「影剣流だと?

 まさか、光剣流・無剣流と並んでユードリヒア三大流派の一つとされている、あの幻の流派のことか?」


 影剣流のことは知っているのか。

 しかし、影剣流は幻の流派ということになっているとは。

 ジュリアやジャリーが使うもんだから、割と身近に感じていたが。


「ええ、そうです。

 今の影法師は影剣流の奥義ですよ」

「なんだと!」


 ガラライカは驚いた様子で、俺とジュリアを交互に見る。


「なんで、こんなガキが影剣流を使えるんだ!」


 そうジュリアを指差しながら叫ぶガラライカ。

 それには、ジュリアもムッとしている様子。


「ワタシ、ガキ、ジャナイ!」


 今度は片言のイスナール語でガラライカに叫ぶジュリア。

 ガラライカの「ガキ」という言葉に反応したようだ。

 

 しかし、ガラライカはジュリアの言葉など無視。


「おい、そこの王子のガキ。

 この黒妖精族ダークエルフのガキは、一体誰に影剣流を習ったんだ?」


 俺を睨みながらそう聞いてくるガラライカ。

 この威圧感に飲まれそうになるのを、必死にこらえる。


 しかし、ここは本当のことを言っていいのだろうか。

 ジャリーの名前をだしたら、ジャリーに迷惑がかかる可能性がある。

 名前は伏せておくか。


「ジュリアの母親が、影剣流の剣帝なんですよ」 

「影剣流の剣帝だと!?」


 驚いたように叫ぶガラライカ。

 そして、すぐに俺の方を睨みつけてきた。


「そいつはどこにいるんだ!」

「それは、その人に迷惑が掛かるかもしれませんから言えません」

「チッ!」


 俺の抵抗を聞いて舌打ちをするガラライカ。

 そして、背中の大斧に手をかける。


「おい。

 今すぐにそいつの居場所を吐けば、殺さないでやる。

 言え」


 そう言って、俺に向かって大斧を構えるガラライカ。

 それに合わせて、俺を守るようにシュカもクナイを構える。


「エレイン殿に傷はつけさせぬでござるよ」


 シュカは、そう言いながらガラライカを見上げる。

 砂浜で殺気を放ちながら向かい合うシュカとガラライカ。

 今にも、開戦しそうな空気。


 冷や汗を額から垂れたとき。

 ガラライカの後ろから叫び声が聞こえた。


「ママナラ、メリカ二、イル!

 アンタナンテ、ボコボコ、ナンダカラ!」


 そう片言のイスナール語で叫ぶジュリア。

 その言葉を聞いてピクリと反応するガラライカ。


「今のは本当か?」


 俺の方へ確認をとる。


 なぜ、ジュリアはジャリーの居場所を言ってしまったのだろうか。

 ジャリーに迷惑は掛けまいと思って隠していた俺の努力が、水の泡だ。

 しかし、言ってしまったならもう仕方がない。


 俺は一つため息をついてから口を開いた。


「……本当ですよ」


 それを聞いて、二ヤリと薄気味悪い笑顔を浮かべたガラライカ。

 そして、すぐに背中に大斧を収めると、クルリと身を翻した。


「邪魔をしたな、ガキ共!」


 そう言いながら、ジュリアの脇を通って高台の方へと歩き去って行くガラライカ。


「え!?

 あねさん!?

 俺のかたきは取ってくれないんですか!?」

「自分のケツくらい自分で拭け!

 私は用事が出来た!

 今すぐメリカへ行く!」


 ガラライカは、引き留めようとするドリアンを見もせずに一喝して歩き去って行く。


「そ、そんな……」


 そんな悲痛なドリアンの声が、広い砂浜にこだまするのだった。

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