第30話
擬態していたモンスターは燃えながら結構激しく暴れたので、安全のために少し距離を取って見ていたが、しばらくすると燃え尽きた様で動かなくなった。
ちゃんと死んだのかな?
足元に落ちていた石ころを全力で投げてみたが当たらなかったので、魔法で炎の矢を作って撃ち込んでみる。
……炎の矢が命中してもピクリとも動かなかったし、問題なく死んだようだ。
とりあえず慎重に近づいて、擬態していたモンスターの死体を観察することにした。
と言っても、表面は黒く炭化してしまっているのだが……。
何か今後につながる発見はないかな~?
そう思いながら、木だったものをバラバラにして断面を確認していく。
なんと言うか、この木だったモンスターの体は二重構造になっている様な……?
太い幹部分の表面、炭化しているところは普通の木だけど、芯の部分は蔓みたいな感じで、明らかに素材が違う様に感じる。
この蔓みたいな柔らかい部分がモンスター本体だったのかな?
激しくジタバタしていたのは上の枝とか根の様な細い部分だけだったし……。
正直どれだけじっくり細かく観察しようと、植物に対する知識はほとんどないので分かることは少ない。
だが、私が何を感じてこの木が擬態しているモンスターだと分かったのかを把握しておきたい。
触ったのは間違いなくモンスター本体の部分ではなく、普通の木の部分。
魔力っぽいものを感じたような気はするのだが、なんか少し違うような気もする。
人間とモンスターの魔力に違いがあるのか、それともモンスターが自分の体に何かの魔法を使っていたから、私が触ったときに違和感に気づけたのか……。
考えて分かる様なものではないと思うので、サンプル数を増やすため周囲の木々の中にもモンスターが紛れていないか、一本一本触って、炎の矢を撃ち込んで、反応がないかを確認していくことにした。
すると10本目を触ったところでヒット。
さっきと同じように違和感を感じた。
炎の矢でモンスターの化けの皮を剥がす前に、冷静に違和感の正体を確かめることにする。
魔力を流して調べてみると、やはり擬態したモンスターで間違いないようだ。
ただ、中のモンスターから木の部分にエネルギーが送られている様な……?
……やっぱり魔力とは少し違うエネルギーの様だ。
なんだろう……モンスターそのものがエネルギーを生み出し続けていて、そのエネルギーを木の部分に貯めていっている様な感じ?
人間が食べたものを脂肪として蓄えるのに近い行為かな?
エネルギーは上の方の葉っぱで生み出されているみたいなんだけど、光合成でもしているのだろうか?
というか、これだけペタペタ触っているうえに魔力を流して詳しく分析しているのに襲われないのって、もしかして光合成をしてエネルギーを生み出せているから?
夜になって光合成が出来なくなったら、エネルギー源を捕食する為に獲物を探して暗い森の中を徘徊し始めるのかな?
疑問は尽きないがまぁとりあえず、私が触って感知したものが純粋なエネルギーだということは分かった。
私の体にも同じものがないか調べてみると、普通に同じエネルギーを見つけることも出来た。
意識して探さなきゃ、あるのが当たり前すぎて見つけられないモノだったのかもしれないね。
それじゃあ次は、このエネルギーを離れた位置から探知出来ないか試すことにしよう。
離れていてもエネルギーを探知出来るようになれば、周囲にモンスターがいないか索敵できるだろう。
遠距離から高速で近づいてくる相手には使えないと思うけど、近くの敵の位置だけでも分かるようになれば、不意打ちされる心配はほとんどなくなると思うからね。
一応周囲への警戒心が薄い自覚はあるのだ。
あまり必要性は感じないが、改善できるところは改善していくべきだと思うからね。
そんな訳で、触っている擬態モンスターから手を離して少し距離を取る。
そして、さっきまで感じていたエネルギーを探すイメージで、魔力を放出してみる。
……なんか薄っすらとは感じるんだけど、直接触れていた時と比べるとマジで分からないな。
探知する魔法って難しいのかな?
まぁ、今ある感覚を強化するんじゃなくて、魔法で新たに外付け魔力探知感覚器官を作り出すような物だから難しいのは当然かもしれないけどさ……。
う~ん……受信感度をブーストしたいけど、これ以上やるなら対毒の為に使っている風魔法は止めないといけないな……。
そこまでする価値はあるのかな?
……ないと思うな~。
今やろうとしている探知する為の魔法は、常に使いっぱなしか、こまめに何度も使う部類の魔法だと思う。
それなのに使用コストが高いとなると、使えないわけじゃないが使いどころが限られてくるだろう。
少なくとも私なら、『明らかに敵が待ち構えている』って分かっている状況じゃないと使わない。
一時的にでも魔力が無くなることは、今の私にとって非常に致命的な弱体化になるからね。
魔力の回復速度は寝ている状態でないと非常に遅いので、敵と戦う前に使いすぎて消耗するんじゃ話にならない。
探知の魔法は諦めるべきか、それとも他の方法を考えるべきか……。
その時、背後で何かが動いたような気配がしたので振り返ると、いつも美味しく頂いている巨大蛇が近づいて来ていた。
毒が舞いまくっている中で生きているからか、この蛇も毒を持っていそうな鱗の色をしているが……。
今は肉を獲っても持ち運べないし、そもそもこの蛇の肉が食えるかも若干怪しいので、今回は殺すだけ殺して後は放置かな。
そんな訳で襲われる前に先制攻撃だ。
筋力強化を強めて斧で蛇の頭を切り落とす。
蛇は何匹もお肉として頂いているから、倒すのは慣れたものだ。
蛇も問題なく倒せたので、低コストの探知魔法が使えないか色々と実験しようと思い、さっきまでペタペタ触っていた擬態モンスターの方向を振り返ると、擬態モンスターがこちらに向かって移動していた。
それもさっきまで枝や根っこに見せていた部分を触手の様にうねうねと動かしながらだ。
正直ちょっと気持ち悪い。
あれに捕まったらR18同人誌の触手ものみたいになっちゃうのだろうか?
少し距離を取って観察していると、どうやら私を狙っていたのではなく、蛇の死体を狙って動き始めたと思われる。
だって私にはいっさい触手は伸びずに、蛇の死体に全部の触手が伸びていったからね。
擬態モンスターの口が上の方にあるのか、触手で蛇の死体を持ち上げて捕食している様子。
でもなんでだろう?
私には一切反応しなかったのに、蛇に滅茶苦茶反応するなんて……。
蛇が好物なのか、死体が好物なのか……。
可能性としては死体が有力な気がするような気がする。
だってここは毒が舞いまくっているエリア。
マヌケにも中に入って毒を吸い過ぎ、動けなくなって死ぬ動物やモンスターはいるだろう。
その死体を食べてエネルギーを得る生き物がいても不思議なことではないと思う。
あのドラゴンも、毒の危険性は言ってきたけど、モンスターは危険視していなかった覚えがある。
この擬態モンスターは、死体のみを狙うモンスターで間違いないのではないだろうか?
……正直どうでもいいな。
今考えるべきことは索敵の方法だ。
低コストで何時間でも使い続けることのできる探知魔法を編み出さなければいけないのだ。
擬態モンスターの生態なんて暇を持て余している時に考えればいい。
何かいい方法はないだろうか……?
……そういえば、この擬態モンスターはどうやって蛇の死体を探知したのだろうか?
少なくとも目や耳、鼻がついているようには見えない。
味覚は索敵とは関係ないからともかく、触覚で索敵が出来るのだろうか?
……マンガで視覚と聴覚を失って、肌で周囲の状況を把握し始めた死刑囚がいたな。
この擬態モンスターもそんな感じで周囲の状況を把握しているのだろうか?
それなら私では真似できそうにないなぁ~。
なら他の方法を考えるとして、エネルギーの感知……。
『エネルギー』といえば熱のイメージがあるな。
サーモグラフィーみたいに熱源を感知することは出来ないだろうか?
目を強化して赤外線を視認できるようになればいけそうだけど……。
そういう訳で、目に少し魔力を集中させて赤外線が見えないか試していると、蛇を捕食している擬態モンスターの色が変わった様な気がした。
他に変わったところは……少し離れたところにも色の変わった木が1本ある。
あれも擬態モンスターかな?
炎の矢を撃ち込んで確かめてみる。
……ウネウネしだしたので擬態モンスターで正しかったようだ。
イメージしていたものとはだいぶ違うけど、これは索敵の方法として問題なく使えるんじゃないのかな?
少なくとも擬態モンスターは見ただけで分かるようになったし、眼の強化にしか使っていないから魔力の消費は結構少ない様に感じるし……。
そんな訳で、色々と学べたし索敵の方法を編み出すきっかけにもなった捕食に夢中な擬態モンスター君を『お前はもう用済みだ』というセリフと共に容赦なく燃やして、先に進むことにした。
サーモグラフィー視点を習得してからそこそこ長い時間歩いた。
周囲には既にあの毒々しい色の空間は無いので、口や鼻を覆っていた布を取り、風魔法を解いてみたが体に異常は出なかったので、無事に毒のエリアを抜けることが出来たのだと思う。
既に陽も沈みかけており、そろそろ休めるところを探そうかと考え始めた時、視界の開けた場所に出た。
目の前には海が広がっている。
進んできた方向は間違っていないと思うので、この大陸の南東の果てに到着したのかもしれない。
1つ気になるのは、海の上に道の様な陸路が続いていることだ。
天然の地形でこんなものが出来るとは思えない。
でも、人工的に作り出せるような物でもないと思う。
なんだろう……神様的な存在が陸路で他の大陸へと移動できるように作った道なのではないだろうか?
そんなことを想像してしまうくらい、明らかに不自然な陸路が続いていた。
少し気になったので海の傍に行って荷物を下ろし、陸路の右側の海と左側の海の水を舐め比べてみた。
……どちらも海水で間違いなかった。
片方が湖論は消えたな……。
となると干潮で道が現れる現象だろうか?
……時間的に違うような気がするなぁ~。
『魔法の存在する異世界なのだから、私では理解できないようなこともあるのだろう』と考えることを止め、陽が完全に沈む前に休むための準備を進めるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます