第26話

地下潜伏サバイバルスローライフ生活を始めてから結構な時間が過ぎた。

地下拠点の充実化を図りつつも、日々食料を求めて散歩する生活は、なかなかの充実感がある。

なんというか、『生きるために行動している』っていう実感があると、充実感を感じるよね。

何の役に立つのか分からない努力を続けるよりも、今の生活の方が気楽で充実した生活を送れていると思う。


勿論、将来のことも考えなければならない。

ハッキリ言ってサバイバルスローライフ生活なんて、ある程度の年齢までしか続けることは出来ないだろう。

もし病気になったり怪我をしたり高齢で体が動かなくなったりなんかしたら、窓から海に身投げするしかなくなるからね。

あと50年は問題ないと思うし、出来る限りこの生活をしていきたい気持ちはあるが、永遠にここで生活していくのは非常に困難だと理解しているのだ。

早く全ての人類を滅ぼせるくらい強くなって、そこそこ体が大きくなったら人の街に行き、そこで財力を積み上げ、お金でなんでも解決する老後を送る。

これが一番ベターな選択だろう。

まぁ、ミーシャさんみたいな人がいると怖いし、しばらくは人間の街に近づくつもりはないのだが……。


お、アタリだ。

馬鹿め、餌に喰いつきおったわ。

やっぱり人のない場所だと警戒心が薄いのか、結構魚が釣れるなぁ~。

糸とか普通の植物の蔓の繊維を編んだものだし、針とか木製なんだけどね~。

流石に強度が心配だから、魔力を竿から針まで流して強化しているけど、さっきなんて40センチくらいの変な魚を釣り上げることが出来た。

前世では魚釣り中ずっと絡まった釣り糸と格闘していたけど、もしかしてこの世界に転生して、釣りの才能に目覚めたのではないだろうか?


そんで今回釣り上げた魚は……うん、タコだね。

魚じゃねぇわ。

今日1匹目はエビが引っかかっていたし、2匹目は普通に大きな魚で喜んでいたけど、まさか3匹目にタコが来るとは……。

いや、全部食えそうなものばっかりだから嬉しいんだよ?

でも魚以外が多いと、そのうち変なモンスターを釣り上げそうで怖いんだよなぁ~。

クラーケンとか海のモンスターではベターだよね。

『あ、野生のクラーケンが飛び出してきた!』みたいな感じでバトルが始まるとか、どこかから怒られそうだよ……。


とりあえずタコは目と目の間にナイフをぶっ刺して〆ておく。

テレビでは確かそんな感じのことをしていたはずだ。


次は何が釣れるかなぁ~?

……なんだあれ?

…………船?


まだだいぶ遠いが、遠くの海上に浮かぶ船の様な何かを見つけてしまった。

幽霊船なら近づいて来ない限り気にせず放っておくのだが、人は乗っているのだろうか?

魔力を目に集中して視力を強化し、船を細かく観察してみる。

……姿は見えないけど、たぶん人が乗っていると思う。

帆で風を受けて進む帆船なのだが、帆に穴は1つも開いていないし、何より全てが綺麗だ。

完成して間もない船なのではないだろうか?


モンスターがいるこの世界で、人の領域ではない海に出る勇気には称賛の意を贈るが、モンスターに捕獲されて沈むんじゃないかな~?

それこそクラーケンが船に取り付いて、その怪力でバキバキと船体を圧し折る映像が思い浮かぶよね。

この砂浜に流れ着かないといいな~。

お宝は流れ着いてもいいけど……。


『この距離ならこちらに気づくこともないだろう』と判断し、船は気にせず釣りを再開することにした。




……船が近づいてきている気がする。

船の向いている方向は変わらないのだが、先程よりも大きく見える気がするのだ。

この世界の帆船は横に進むように作られているのか?

それとも偶然風向きが悪くてこっちに来ているのか?

とりあえず、これ以上船が近づいてくるのなら、ここでのんびりと釣りを続けると船の船員に見つかる可能性がある。

一旦拠点に戻って、釣ったものを冷蔵室に入れてから、モンスターでも狩りに行こうかな~。


そう、私の地下拠点には冷蔵室もあるのだ。

といっても、上のところに氷を入れたら、下のところに冷気が行くだけの超原始的な仕組みだが……。

元々食べようと思えばいくらでも食べれる体をしているので、そこまで食材を長期保存する必要性は感じていないが、無いよりはあった方がいいと思ってサクッと作り上げた。

いろいろ実験をした結果、土を魔法でガッチガチの1つの塊にした場合、水すら通さなくなるくらいに固まることが分かったのだ。

おかげで冷蔵室の氷が解けても心配ないし、雨で天井から水が滲み出てくる心配もない。

魔法様様だ。


そんな事を考えながら拠点に戻り、冷蔵室に魚介類を入れてから散歩に出た。

私が一番行くところといえば湿地帯だ。

カエルや蛇をよく獲れることも要因の1つだが、少し前に稲の様な植物がたくさん生えているのを発見したのだ。

その時はまだ、穂の部分は青々とした緑色だったので何もしなかったのだが、お米が収穫できるとなると非常に食生活が助かる。

最近の私の食事は、肉と魚のどちらかしかないのだ。

食べられる野菜は全て食べ終えたし、他の野菜は開拓した畑に植えた。

魔法で野菜を急成長させることは出来なかったので、収穫まで結構な期間が必要だろう。


そんな時に発見した米候補である。

炭水化物である米はエネルギー源として非常に優秀だし、玄米ならば食物繊維も豊富だった記憶がある。

これは是非とも期待したい。


そんな訳でワクワクしながら水田予定地に行くと、先客がいる様だ。


非常に大きなお口。

元の世界では『地上で噛む力最強』と言われていた生物。

そう、ワニである。

今回のやつは……体長10メートルもないね。

デカいは間違いなくデカいのだが、20メートル以上の個体もいるようだからなぁ~……。


ワニのモンスターは基本的にはもう少し遠いところでよく見かけていたのだが、たま~にこっちに迷い込んでくるようだ。

結構凶暴な性格の様で、前回は私の姿を確認するとなかなかの速度で迫ってきたのだが、私はワニの弱点を知っているのよね……。

モンスター化しても弱点は消えなかったようで、口の上でバランスゲームしてるだけで顎の力を発揮できなくなった。

噛む力は強くても、口を開く力は非常に弱いのだ。

元の世界のワニなんか、輪ゴム1本通すだけで口が開けなくなっていた。

そのため、口を開けない間にロープで口を結んで、そのまま持ち帰って生きたまま丸焼きにして食べてみた。

ワニのお肉は結構美味しかったよ。

食べ終えた後で『ワニ皮を焼く前に剥げばよかった』と後悔したけど……。


そんな訳でワニを確保だ。

稲なんて後回し。

こんなに美味しいお肉を見逃すなんてありえない。

遠慮なく狩らせてもらおう。

流石に今回は生きたまま丸焼きなんて残酷な真似はしない。

ワニがいるところに電撃をかますだけだ。


おぉ~!

お腹を空に向けてビクビクしてる。

……動かなくなったし、少なくとも失神したかな?


そんな訳で近づいてナイフを深く首に突き刺し、確実に止めを刺す。

これ運ぶのが大変なんだよなぁ……。


とりあえず頭を持ち上げて、拠点まで引きずって帰ることにした。




……船がもっと近づいているのだが、船になんか白い触手みたいなのがついている様な……?

……まっさか本当にクラーケンに襲われているとかないやろ~?

……とりあえずワニを解体しようかな。

このまま地下に持って行くわけにもいかないし……。


そんな訳で、ワニの背中にナイフを刺して、首から尻尾の先まで切れ目を入れていく。

……これ肉と皮がベッタリ張り付いているけど、上手く剥がせるのかな?

丸焼きにしたときも結構皮が硬くて食べづらかった記憶があるけど、剥がすとなると結構大変そう……。

味はいいから今後も狩ると思うし、上手いやり方を見つけないといけないな~。

まぁ、今回はナイフで多少肉が切れようと気にせずに皮を剥ぎ取ればいいか。

皮を革として使う方法が分からないし……。


一応皮の加工に柿かなんかを使っていたことは知っているのだが、細かい話は興味がなかったから覚えてないんだよな~。

そもそも柿を見ないし……。

柿に含まれるタンニン?とかいう成分がどうこう言っていた様な……?

今ちょっと皮を剥ぐために筋力強化中だから記憶力を上げるのは後だな……。


ワニの解体と格闘すること数時間。

なんとかワニを革と肉と頭に分けることが出来た。

頭って、食べるところがほとんどないからね。

なかなかいいサイズだし、小屋の入り口にでもぶら下げておこうかな?

……腐ると面倒だし、ゴミの中に入れておくか。


ゴミの処分は3日おきにまとめて焼却処分だ。

次の予定は明後日。

少し腐臭がするかもしれないが、出来るだけ近づかずに燃やすので問題ない。


ワニの頭をゴミの集積場所に放り投げたので、皮はこの場に置いたまま、肉を冷蔵室へ次々と運び入れる。


今夜は海の幸を頂くつもりだったけど、ワニも尻尾くらいは焼いて食べちゃおうかな~?

なんと言うか、いっぱい食べたらすごく体調が良くなるんだよね。

食べたものが一切無駄なくエネルギーになっている感じ。

魔力の回復も明らかに速くなる感じだし、食事ってやっぱり大事なんだろうな~。

むしろ母親と2人で暮らしていたころが食べていなさ過ぎたのかな?

別に空腹感は感じていなかったけど、そこまで体が大きい方ではなかったし……。


……まぁ、いいか。

成長期に栄養が摂れないのは大問題だけど、私の成長期まであと10年くらいある。

今の内からバクバク食べていれば、成長期にはもっといっぱい栄養を摂取できるようになるだろう。

そしたらきっと大きな体になれるよね!

食べ過ぎで太り過ぎることにだけは注意しておこう。


肉も全て冷蔵室に運び終えたので、小屋から外に出て景色を楽しむ。


……うん。

船が沈没していってるね。

やっぱり人が乗っていた様で、何人かが海に身投げするのが見えた。

ちょっと魔法でこの辺の海に離岸流を作れないかな~?

砂浜から船が沈んでいるところまで結構距離があるけど一応ね……。

こっちに流れ着かれると迷惑だし……。


……とりあえず放置かな。

積極的に人を殺すつもりはないけど、積極的に人と関わるつもりもない。

この小屋を発見されると人が来るかもしれないけど、その時は街があるらしい方向だけ教えて追い返そう。

最悪海に捨てればいいや。


その日の夜、盛大にワニの尻尾や海の幸を焼きながら食べていると、3人の生存者がやって来るのだった……。

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