第25話

カニも、巨大蛇肉も、ウサギの丸焼きも、全てなかなか美味しかった。

やはり私は野菜よりも肉の方が好きなのだろう。

今後もこの調子で毎日お腹いっぱいにお肉を食べられるといいなぁ~……。


さて、既に周囲は真っ暗になっており、後は寝るだけという状況なのだが、1つ思い出したことがある。

複数の魔法の同時使用についてだ。

母親が死んだ次の日に来た男たちを処分したとき、私は普通に火魔法で火葬しながら風魔法で臭いが漏れないように空気を集めていたはずだ。

あの時は完全に無意識でやっていたが、特に難しいと思うことなく魔法が使えたはずだ。


そこで、魔法を複数同時に発動しやすい条件を探して、実験をしてみることにした。

魔力を放出し、右側には炎を、左側にはただの光を発現させてみる。

……普通に出来たな。

もしかして、筋力強化魔法みたいに魔力を体から放出しない魔法と、体から魔力を放出して発動させる魔法の相性が悪いのか?

それとも、筋力強化魔法は私が思っているよりも高度な魔法で、今の私では筋力強化中に他の魔法を使うだけの力がないだけかな?


もう一度筋力強化魔法を使いながら、離れたところに炎を発現させてみる。

……止まった状態だと使えるけど、動きながらは無理だな。

ついでに少し炎が小さい気もする。

もしかして同時に使用できる魔力量に上限があるのかな?

上限50で筋力強化魔法を発動するのに40必要だから、他の魔法を発動するために使える魔力の量は10しかないって感じで……。

感覚的にはそんな感じの気がする。

パソコンのメモリみたいだな。

簡単に増設出来ないぶんこっちの方が面倒だけど……。


その後もいくつかの魔法を同時発動できないか、色々と試してから寝た。

しばらくは毎日魔法を使った建築作業になる。

明日はもう少し木材を調達して、とりあえず家の柱と壁までは最低でも作りたい。

出来れば屋根まで完成させたいけど、風に強い屋根が全然思いつかないし、最低限水が溜まらない様に傾斜をつける程度の、平べったい屋根にしようかな……。

……雲で月が見えないけど、雨が降らないといいなぁ~……。




翌朝。

空が完全に雲に覆われているが、辛うじて雨は降っていない。

これはどうするべきだろう?

流石に濡れながら建設作業するのは嫌だしなぁ……。

昨日持ってきた木を柱に加工して、布の屋根を張っておくべきだろうか?


そんなことを考えていると、雨粒が落ちてきた。

やっぱり降り始めた様だ。

急いで屋根を作らないとだな~……。


……待てよ。

地表に小屋を建てるよりも、地下に魔法で部屋を作る方が速くて楽なんじゃね?

酸欠とか火の取扱いに注意が必要にはなるけど、今は雨に濡れないことを優先するべきな気がする。

明かりは魔法で作れるし、地下空間を造るか。


そんな訳で、家建設予定地の地面を魔法で動かし、まずは私と持ってきた荷物がスッポリ入れるだけのスペースを作り、一旦天井を完全に塞ぐ。

長時間この状態だと酸欠が怖いが、空気穴を開けるまでは持つでしょ。

魔法で空気中の二酸化炭素を分解して、酸素にしてもいいし。

今は地下空間を拡張することが優先だ。


今いる位置を地下1階とし、もう1階分ほど一部を深くしていき、地下2階を作る。

一応崩落しない様に気を付けながら、崖側に向けて少しづつ部屋を伸ばしていく。

……無事何もない空間に貫通した。

下を見てみると、岩や海面が見える。

とりあえずこれで酸欠の心配は無くなったね。

落ちないように崖側の壁を綺麗かつ頑丈に整えて窓枠を作る。

窓枠には下を外に押して開くタイプの窓を取り付けよう。

なんて言う名前の窓だったかな?


さて、今は縦8メートル、横2メートル、高さ2メートル程の洞窟みたいな感じだが、もう少し横を広げても大丈夫だろうか?

流石に横2メートルは狭い。

天井をトンネルの様なアーチ型にすれば、崩落はしないと思うけど……。

注意しながら、少しづつ広げていってみよう。

せめて横3メートル以上の広さは欲しい。

高さは……身長が2メートルになったら考えよう。

一応地下2階の天井から地下1階の床までは3メートルくらい間を開けているけど、正直身長が180センチくらいまで伸びないと、そこまで天井の高さはいらないと思うんだよな~。


そんなことを考えながら横幅を少しづつ広げていく。

将来体が大きくなったら横3メートルでは狭く感じるかもしれないが、今の体格だと十分不便なく暮らせる広さだ。

部屋の拡張も十分に出来たので、天井も綺麗なアーチ型にし、階段予定地付近の壁を補強する。


そんなこんなで2時間程かけて、地下2階の居住空間は完成した。

地下だから部屋の奥が暗いのは仕方がないが、空気は外からちゃんと入ってきているし、部屋の広さもなかなかいいのではないだろうか?

天井が崩落する気配も一切ない。

自分で作っておいて言うのもあれだが、なかなかいい感じな気がしている。

この調子で地下1階も作っていこう。


だがまずは階段を作る。

今は段差のない、急な上り坂でしかないからね。

木材や大きなものを運び入れる可能性も考えて、階段の幅はそこそこ広めに……。

階段の長さも出来るだけ広めにとって、あまり急にはならない様に……。

こんなもんかな?


正直既にだいぶ魔力を消費しているし、結構お腹も空いている。

雨が降り始めたから、朝飯を食べないまま作業を始めたもんね。

だが、火を使っても大丈夫だろうか?

天井に穴を開ければ問題ないと思うが、まだ屋根は作ってないからな~。


地下に暮らすことは確定だとしても、地上に小屋を立てないといけないことは変わらない。

だから雨はしばらく勘弁して欲しいのだが……。

まぁ、天気に文句を言っても仕方がない。

気長に待つことにしよう。


地下1階の天井にも穴を開け、外の様子を確認してみる。

まぁ、確認するまでもなく水が流れ込んできたのだが……。

外はまぁまぁ雨が降っている様だ。

とりあえず土を魔法で動かし、地上にカマクラの様なドーム状のものを作っておく。

上に穴が開いていれば空気の流れが出来て、一酸化炭素中毒になる心配も減るだろう。


そんな訳で、私は朝昼食を作ることにした。




朝飯も兼ねた昼食を食べ終えたが、魔力が思っていたよりも回復していないので、私は仮眠をとることにした。

寝た方が魔力の回復は速いからね。

旅の間は寝ている間にモンスターに襲われる可能性があったので、深く熟睡することが出来なかったのだが、安全と思われる地下空間を手に入れたので、今後は思う存分ゆっくりと休める。

睡眠は非常に大事。

そんな訳で寝た。

超熟睡だ。

爆睡と言ってもよい。

お昼に寝たはずなのに、起きたら既に外は真っ暗だったのだから……。


まぁ、外が真っ暗になろうとも、私には何の問題もない。

むしろ雨も止んでいるみたいだし、好都合なくらいだ。

例え周囲が真っ暗であろうと、暗視の魔法を使えば問題なく活動は出来る。

しっかり休めて、最近感じていた体の怠さも綺麗になくなったので、別に良かったのだろう。


そんな訳で地上に出た。

まだ地表の土は湿っているみたいだが……。

そういえば水が地下に滲み出て来る可能性があるのでは……?

土をガッチガチに固めれば何とかなるのかな?

ちょっと実験して確かめてみないといけない。

まぁ、今は食料を調達ついでに周囲の散歩をするつもりだが……。


昨日の実験で確かめなかったので知らなかったが、暗視はそこまでコストの高い魔法ではない様だ。

暗視を使いながらの筋力強化魔法は問題ないし、普通の火や水、土の魔法も問題なく使える。

暗視は結構便利な魔法だな……。

夜は普通に寝て休んでいたけど、夜行性の食肉モンスターがいるのならもう少し夜に活動してもいいのかもしれない。

昼夜逆転しようと地下で寝るならあんまり変わらないしね。


地上の小屋は雨風さえ凌げればいいだけだから、予定よりもずっと簡素な造りでいいな。

柱と屋根だけしっかり作って、後は適当に土で作ればいいだろう。

それよりも地下に設置するベッドやテーブルにこだわろうかな?


そんなことを考えながら歩いていると、モンスターっぽい生き物を発見した。

非常に大きなカエルだ。

昨日の蛇でも丸呑みは無理なんじゃないかと思う程の大きさ。

カエルの足は美味しく食べれることで有名だったような気がする。


そんな訳で地面の土を魔法で操って串刺しに……出来なかった。

皮が結構丈夫かつ弾力があるようで、刺さらずにひっくり返ってしまったのだ。

これは予想外。

素早くナイフを首に刺して仕留めた。

土の杭が刺さらなかったのは初めてだな……。


とりあえず確実に死んだようなので、カエルを持ってもう少し散策を楽しむ。

やってきたマングローブ側は湿地帯だからか、結構カエルがいるみたいだ。

だから蛇もいたのかな?

カエルのいるところに蛇はいるって聞いたことあるし。

ウサギは……まぁ、ウサギも蛇のご飯なのだろう。

食物連鎖の頂点至った気分だぜ!


家の位置からあの高い山の方を向いて、私がやってきた左側はマングローブのある湿地帯。

正面から右側は普通の森となっている様だ。

そこそこ右の方面に歩くと小川もあり、相当いい環境なのではないだろうか?

海は食材の宝庫。

川の周りには動物が来てくれるだろう。

湿地ではカニやカエル、さらには蛇まで捕獲できる。

食事で困ることはなさそうだね。


途中で散歩を切り上げて、一旦家へと戻る。

木の調達場所も見つけたし、今日中に住処を完成できそうだ。

こういうのをスローライフ生活というのだろうか?

サバイバル生活になる予定だったから、結構嬉しい誤算だね。


特に何の障害もなく暮らしていけそうで、私は少し安心するのだった。

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