第24話
家を建てる。
前世なら考えもしなかったことだ。
まぁ、そんなことを考える様な年齢ではなかっただけなのだが……。
家を建てるにあたって、まず私のしたことは、建てる家の広さを決めることだった。
あまり崖の近くに家を建てたいとは思わないが、綺麗な平地の土の地面となるとどうしても崖に近くなる。
なので仕方なく、家を小さくする方向で間取りの広さを決めた。
壁の厚みも考えると、4畳半以上はあると思うけど、6畳まではない感じの広さになりそうだ。
家というよりも小屋だね。
まぁ、住めば家と言えるし、トスターの街で住んでいた家だってこれよりも2周り大きい程度だ。
1人で住むのなら全然問題ない広さだろう。
とりあえず広さは決まった。
土を魔法で動かし、地面に家の形に合わせて窪みを作る。
ここに柱を立て、土で壁を作れば、後は屋根を作るだけで、とりあえず住める家として使えるだろう。
ただ、先にちゃんと基礎工事をやった方がいいのかな?
この世界に生まれて以来、地面が揺れたことなんて一度もないので、地震の心配は全然していないのだが、ここは海に近いので、天気が悪い時には強風が吹き荒れる可能性がある。
そうなると家にある程度の頑丈さが欲しい気がする。
少なくとも柱の周りだけでもガッシリ作った方がいいだろう。
……そういえばモンスターが来る可能性もあるのか……。
先に家の周りに頑丈な壁を建設した方がいいかもな……。
3重の壁を築いて、100年の平和を実現しないとね。
最終的に蹴り壊されそうだけど……。
そんな訳で次は土を盛り上げて壁にし、適当に敷地の範囲を決めていく。
流石にモンスターを想定するなら土の壁じゃ不安だし、やっぱりコンクリートを作ってみるべきだろうね。
粘土を探しに行ってレンガ作りもいいかもしれないけど、レンガって結構簡単に割れるイメージなんだよなぁ……。
まぁ、今はとりあえず土の壁で済ませるけど、早めに補強しないとだね。
門のない土の壁が完成したので、次は家に使う柱を調達しに行く。
ビーチで屋根を張るために土の柱を作ったけど、あれは屋根が軽いから問題なかっただけだし、そもそも壊れること前提で建てたものだ。
家の柱として使うことは不可能だろう。
せめて硬い石の加工が出来れば、崖下に降りて石や岩を大量に集めるだけで済むから楽なんだけどなぁ……。
……そもそも魔力で石を生み出すことって出来るのかな?
…………出来る気がする。
ちょっと柱を調達しに行く前に実験してみよう。
魔力で任意の大きさや形の石を生み出せるなら、柱なんか立てずに石を積んで壁を作るべきだよね。
積まずに1枚の壁を生み出す方が早いけど……なんとなく強度に不安があるんだよな。
魔力が足りるかもわからないし。
大きさは……とりあえず縦10センチ横20センチの、高さは5センチで。
魔力を手の上に集中し、形や大きさを変え、魔力そのものを物質に変換するイメージを行う。
思ったよりも魔力の消費が激しいが、生み出すにはまだ魔力が足りていない。
ガンガン魔力を消費して、やっと1つのブロックが完成した。
今回は実験だったのでブロックを生み出すまで行ったのだが、これじゃあ1日に数個しかブロックを生み出せないから、家の壁を作るとなると半端ない歳月が必要になる。
魔力で壁を生み出すのは諦めた方がいいだろう。
1つだけ気になるのは、生み出されたブロックが黒く半透明な物体だったことだ。
こんな石は前世では見たことがない。
魔力で無理やり生み出したせいなのかもしれないが、不思議物体が出来てしまったものである。
とりあえず不思議ブロックは家の建設予定地に置いたまま、柱となる木を調達しに、少し離れた森へと歩くのだった。
海の近くに生えている木々は細いものばかりで、『この辺の木は確実に柱には向かない』と判断して、もっと森の奥へと入るように進んでいく。
ふと見上げると、木々の隙間から遠くに大きな山が見える。
あそこに見える山って、イサドの街を出てから森の中を突っ切っていた時にも見えた山かな?
見た感じ結構高い山だったからなんとなく覚えている。
まだ夏どころか春になるかならないかっていう冬の終わり頃だから、山のある程度より上は雪化粧の厚化粧している感じだけど、渡ってきた川はあの山からの雪解け水が流れてきてるのかな?
そんなことを考えながらしばらく進む。
徐々に生えている木々も太くなってきた。
もう少し太くて硬くて大きいモノが生えてないか周囲を探すと、いい感じの木を見つけた。
木もいい感じの太さ大きさだし、木の上にはなんと、貴重なたんぱく源である巨大蛇さんもこちらを見ている。
今夜は蟹だけではなくお肉も食べられそうだ。
「おいで~。怖くないよ~。そこにいると狩りにくいよ~。木は傷つけたくないから、ゆっくりと降りてらっしゃ~い。」
巨大な蛇はこちらをジッと見たまま動かない。
本当にいいサイズだ。
あの大きさなら皮で靴が何足も作れそうなくらいデカい。
肉だけでなく皮も使えそうとか、今日は運がいいのかもしれない。
……良くはないね。
朝出発してすぐに釣りをしているおっさん&狼に遭遇したし、川を走って渡っていたら鯨みたいな生き物に食べられそうになるし、お昼ご飯を作っていたらクロヒョウみたいなネコ科モンスターにガブガブされちゃうし……。
まぁ、終わり良ければ全て良し。
慎重にお肉を狩って、木も伐って、今日は帰ろう。
私の手持ちの武器は貰ったナイフと、木を伐るために持ってきた街で買った少し大きめの手斧だ。
たぶん薪を割るためのものだと思うが、木を伐るのにも問題なく使えるでしょ。
そして、蛇の頭を落とすにも十分な刃渡りの長さだ。
既にいつでも攻撃できるように筋力強化魔法は発動済み。
イメージとしては、蛇が攻撃して来ようとしたら横に避けて、首を手斧で叩き潰す。
蛇と睨み合いをしていると、背後で何かが動く気配を感じた。
チラッと確認すると、これまたデカいウサギだった。
前に見たウサギのモンスターよりも一回り以上は大きく、茶色い毛並みをしている。
もしかしてこの蛇は、私ではなくこのウサギをご飯にするつもりだろうか?
……両方とも私のご飯にしよう。
そんな訳でまずは一旦蛇から距離を取り、ウサギの頭に手斧を振り下ろす。
……なんの手応えもなく斧が通り抜けてしまった。
ウサギの頭は綺麗に縦に割れている様子……。
馬賊を馬ごと斬った時のことを思い出すなぁ~。
あの時も手応えが全然無くて不思議に思ったっけ。
筋力強化魔法は体に反動があるみたいだから少し押さえて強化しているつもりだったけど、お肉が沢山食べれそうだからついつい力が入り過ぎちゃったかな?
そんなことより今は蛇肉だ。
いつまでも木の上でお高く止まってるんじゃないよ。
ダッシュで距離を詰め、ジャンプしながら手斧を振るい、普通に首のところで頭を切断した。
これはもう私の1人勝ち。
完全勝利と言っても過言ではないのではないだろうか?
とりあえずお肉の解体をやっちゃおうかな。
少し日が沈んできているけど、木を伐るのは明日でも問題ないんだし……。
……ここでお肉の解体をしたらどうやって持ち帰ればいいんだ……?
…………内臓だけ抜いておくか。
内臓はすぐに痛むって誰かが言ってたし。
魔法で地面に穴を作り、ウサギの腹をナイフで開いて、内臓を捨てる。
蛇も同様だ。
ついでに切り落とした蛇の頭も穴に捨てておいた。
犬がいたら掘り返して食べるかもね。
狼しか見たことないけど。
今晩のお肉もゲットできたし、日が沈むまでもう少し余裕がある。
移動時間を考えても、木を伐る余裕はあるだろう。
そんな訳で、手斧を木に打ち付ける。
……刺さったね。
これ抜こうとしたら柄が折れるんじゃない?
まだこの手斧で2キルしか取ってないんだから、そんな簡単に折れてしまったら困る。
……そもそも木って、魔法で切れるんじゃないのかな?
ラノベ的には風で斬るイメージだけど、なんか効率悪い気がする。
水でウォーターカッターとか?
あれって水よりも水に含まれる研磨剤が重要だった気がするんだよね~。
火は斬るって感じじゃないし……。
となるとレーザー?
魔力を明かりとして使うことは前からやっていたし、レーザー光線にするのも問題なくできるだろう。
という訳でさっそく……。
おぉ~。
最初の一瞬は黒く焦げただけかと思ったけど、気づいたら貫通していたね。
そのまま横にスイ~っと……。
切れたわ、手斧ごと。
手斧の柄が数ミリ板状に切れてしまっている。
普通にミスったな……。
切れたのは刃のついた金属部分ではなく、握るところの柄部分なので特に気にしないことにした。
レーザー切断という加工法を覚えた私にとって、斧の破損など些事である。
……これって石も切れるよね?
木の柱を立てる意味無くない?
大きな岩を加工した方が早いよね?
……とりあえず、木の上に蛇とウサギを固定して、家の建設予定地へと帰ることにした。
蛇の解体はサバイバル番組で見たことがある。
基本は皮を剥ぐだけ。
蛇のサイズが全然違う為、記憶にある物とはだいぶ印象が違うが、後は焼いてしっかりと火を通せば、問題なく食えるだろう。
ウサギの捌き方は知らない。
知らないので、皮を剥いだあとは、そのままじっくりと丸焼きにすることにした。
丸焼きなので時間がかかると思い、枝払いした木の枝を燃やして焚き火も準備した。
これは後の楽しみにしておこう。
肉を見て思い出したが、海が近いんだし、塩も作りたいね。
カニはそのままでも美味しく食べられるけど、お肉は絶対に塩胡椒をかけた方が美味しく食べられると思う。
胡椒が無いのは仕方ないが、塩は明日にでも作ってみるべきだ。
……色々と作るものが多いな~。
家づくりが最優先だけど、1時間もかからずに作れるものならそっちを優先してもいいのだが、塩を作るのにどのくらい時間がかかるのだろうか?
……海水の塩と水の分離って、魔法で出来ないかな?
いや、そもそも海が近いんだから、海風に含まれている塩分を集めて塩に出来ないかな?
この後はカニを焼くだけだし、やってみるか。
イメージは……周辺の大気から塩分を集める感じ?
……正直全然集められているような気はしないけど、目の前に塩っぽいものが少しづつ集まっているようにも感じる。
数分ほど続けると、今夜使えそうな分くらいには真っ白な塩が集まった。
正直効率が悪い。
これなら海水を汲んで、魔法で分離した方が効率がいいだろう。
明日の昼にでも休憩ついでに塩を作ろう。
そんなことを考えながら、フライパンで蛇肉を焼き始めるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます