第16話

先にトスターの街からイサドの街へと避難していた人たちサクッと追い越して、恐らく1番乗りでイサドの街と思われるところへと到着した。

城壁の高さや堅牢さなどは、トスターの街の方が上の様な気がするが、遠くから見た感じ、トスターの街とイサドの街ではそもそも街の規模が違うので、一般的な街はこんなものなのかもしれない。

むしろ街の大きさを考えればイサドの街の城壁は高い方なのでは……?


そんな高い城壁を当然のように飛び越えて街の中へと侵入し、とりあえずどんな街なのか観光することにした。


トスターの街からあまり離れていないだけあって、露店で見かける野菜や値段など見た感じ、売られている物の品揃えも値段もほとんど同じのように見える。

……露店や商店で他に私の気を引くような物事は無いようだ。

そもそもお金に余裕がないから無駄な買い物は出来ないしね。


そういえば探索者ギルドや傭兵ギルドに入れるか確かめに行きたいんだった。

探索者ギルドはダンジョンが街の近くにないと設けていない可能性があるが、傭兵ギルドはある程度以上の規模の街にならどこにでもあるはず。

ちょっとその辺の人に話を聞いて、ギルドの位置を知ろうかと思うのだが……。

さっきからなんか、あとをつけられている様な気がする。


……まぁ、私のこのぷりてぃ~ショタな見た目に惹かれて、思わずあとを付けてしまう変質者が出てしまうのは仕方がないことだろう。

問題は相手が1人じゃないんだよなぁ……。

確認できただけで3人。

全員が男だ。

この街に変態が多いのか、はたまたあの家がもう刺客を送り込んできたのか……。

どちらにしろ私のやることに変わりはないが、刺客のつもりで対応した方がいいだろう。


そう思って近くの細い路地へと入る。

……やはり距離を詰めるように追って来たのだが、新たに1人増えたな……。

追加の1人は建物の屋根上を移動している様だ。

素人感丸出しの3人とは違い、屋根上の1人は動きがいいように感じる。

全員がグルなら屋根上の1人が本命だろうが、なんだか別口のように感じるなぁ……。


さて、いい感じに行き止まりとなったようだ。

振り向いて変質者の顔を拝むことにする。

……うん、普通の人攫いみたいだね。

とりあえず声をかける。


「さっきからあとをつけてきてたけど、何か用?それともただの人攫い?」


「悪いがノルマがあるんでな。大人しくした方が身のためだぞ。」


男の1人がそう言ってナイフを取り出した。

……そういえば私もナイフを持ってるな。

ちょっとナイフでの戦闘訓練を積もうかな?

でもナイフは走っているときに邪魔に感じたので革の袋に入れている。

……ちょっと待って貰ってもいいかな?


「ヒャッハー!変態はぶっ殺~す!」


屋根上から変態の1人が飛び降りてきて、3人の内2人を一瞬で無力化し、ナイフを持った先頭の男にも襲い掛かった。

あの4人はグルでも刺客でもなかったようだ。

でもまぁ、私は今のうちに逃げよう。

屋根から降りてきた変態にも関わりたくないからね。


魔法で身体能力を強化し、屋根上へと跳んで逃げることにした。




「ギルドの場所?向こうの城壁の近くにあったはずだぞ。建物を見れば分かると思う。」


「ありがと。」


やはり人相の悪いおっさんは親切なようだ。

さっきの3人の男はなんと言うか……モブ顔?

『ヒャッハー!』言って即堕ち2コマしてそうな感じの見た目だったもんね。

『ヒャッハー!』って言いながら屋根上から降りてきた1人は女性だったけど……。

まぁ、明らかに怪しかったし気にしなくてもいいか。


そんな訳で教えて貰った場所へと行ってみると、ギルドの建物はすぐに分かった。

あのマークは傭兵ギルドのようだ。

建物にテンプレートがあるのか、外観もトスターの街にあった傭兵ギルドと非常に似ている。


さっそく中に入ってみる。

もう少しで夕方という時間だから人が多くいる様だ。

入って正面に仕事の受付らしきところがあり、右手には売店の様な所と椅子やテーブルが置いてある。

左手の壁には恐らく仕事の内容が書いてあるのであろう紙がそこそこの数張り付けられていた。

文字は読めないので報酬のお金だけ確認してみたが、ほとんど安い金額なので簡単過ぎて誰にでも出来る安い仕事なのだろう。

少しテンションが上がってきたような?


「おい。傭兵ギルドに何か依頼か?ここはあまりガキの来るような所じゃねぇぞ。」


テンプレだ~!

もう殴ってもいいのかな?

いや落ち着こう。

まだ何もされていないし馬鹿にもされていない。

大義名分を手に入れるまで殴るのは我慢だ。

という訳で無視!


「おいやめろって!テメェの顔は怖いんだから、子供に話しかけるな!」


「テメェに言われたかねぇよ!その髭剃ってから言いやがれ!」


「何だやんのかぁ!?」


「なになに喧嘩?ギルド内で喧嘩するの?どうせやるなら訓練場で派手にやった方がいいよ。ここでやるとめちゃくちゃ怒られるからね。」


「「……オレタチナカヨシ、ケンカシナイ。」」


……さっきの女性が入ってきてしまった。

裏家業に属する変態の1人ではなく、傭兵ギルドに所属する傭兵だったようだ。

ついでになんかすごく怖がられている。

たいして大きくもない胸の谷間を惜しげもなくさらすような恰好をしているのに、顔は悪いがしっかりと鍛え上げられた体の男たちがここまで怖がるとは、いったい過去に何をやらかしたのだろうか?

関わり合いになりたくないし、傭兵ギルドには近づかないようにしよう。


「ちょっと聞いてよ~。依頼にあった人攫い組織の下っ端を街で偶然見つけたんだけどね、ちょっとぶん殴っただけで3人とも簡単に死んじゃったんだよ!人攫いに追われていた可愛い子供はどういう訳かいなくなっちゃってたし、もう散々だよ!」


受付に進んだ女性はそんなことを話しているが、『変態はぶっ殺す』って言ってたよね?

捕まえる気なかったよね?

絶対殺意しかなかったよね?

やっぱり私のことも見ていたみたいだし、今のうちに脱出して、見つからないようにするべきだろう。

少なくとも、このギルドで仕事をするのは諦めるべきだ。


そう思い、私はひっそりこっそりとギルドから出た。




さて……今夜はどこで過ごそうかな……。

雨が降っていないので外で寝るのは問題ないのだが、どこに行くべきなのかなぁ……。

なんと言えばいいのか、行く当てがないのに動いていないと落ち着かない感じがする。

目的もなくただ生きるって結構大変なんだな~。

何一つやる気が湧いてこないわ。

賢者タイムでもここまでの虚無感は味わえないね。


フラフラと街の中を彷徨いながら歩く。

日も暮れるまでもう少し時間がある。

『夕食はどうするのか?』

『寝る場所はどうするのか?』

『明日からはどうやって過ごすのか?』

考えはするけど何のアイデアも浮かんでこない。

今まで当たり前のように生きていたのに、生きることに対して意味を求めている様な気がしている。

生きる意味なんてものは私にはないのだと、死ぬ前からなんとなく思っていたはずなのになぁ……。


考えるともっと虚無になりそうな話題は頭から消して、とりあえず夕食を食べることにした。

まぁ、今から自分で用意するのは面倒なので、適当な露店に買いに行くつもりだ。

でもいい香りの漂っていた露店は1つもなかったんだよなぁ……。


そんなことを思いながら露店のあった通りに戻って来ると、普通の商品を並べていた露店は軒並み店仕舞いの為の片付けをしており、空いたスペースでは新たな露店を準備している様だ。

新たに出店準備している人の近くに置いてある物を見た感じ食べ物系。

時間によって通りの露店が入れ替わるのか……。

なんというか、露店とかって『このスペースはウチの場所!』みたいな感じで、縄張り意識みたいなのが強いものだと思ってたわ。

店仕舞いした後は普通に撤去して次の店が入るのね。

勉強になったわぁ~。


食べ物を買うつもりだったしどんなものが売られるのか興味があったので、のんびりと露店の営業が始まるのを待っていると、後ろから捕獲された。


「グヘヘ……君可愛いね~。ところで、さっき裏路地で変質者3人に追い詰められていなかったかな?」


「……人違い。離して。大声で助けを呼ぶよ?」


……さっきの女性だ……。

逃げられなかった様だ……。

夕食なんて後回しにして、さっさとこの街から逃げ出すべきだったのかもしれない。


「君みたいな小さな子がこんな時間にこんなところで何をしているのかな~?お家に帰らなくてもいいの?お父さんかお母さんはどうしたのかな~?」


面倒臭いなぁ……。

どうしよう……。

本当に大声で周囲の人に助けを求めるべきか?

目立つような真似はしたくないんだけどなぁ……。


「何やら事情がありそうだね~。お姉さんがご飯をご馳走してあげるよ。お名前を教えて?」


「知らない人から食べ物や飲み物を貰ったらいけないって……。」


まぁ、言われたことないけど。


「私はミーシャ、傭兵だよ。ほら、あそこの屋台の串肉が美味しいんだよ~。一緒に行こう!」


「ご馳走してくれるの?屋台の食べ物全部買い占めても足りないと思うよ?」


私の食欲は無限大。

屋台の1つや2つ、食べ尽くしてやるぜ!


「食べちゃえ食べちゃえ!いっぱい食べないと大きくなれないぞ~!」


そんな訳で後ろから捕獲されたまま屋台へ。

お肉を食べられるというのなら甘んじて受け入れちゃう。


「おっちゃん!串肉金貨1枚分!」


「そんなにあるわけねぇだろ馬鹿!……その子、どうしたんだ?婚期を逃し続けてついに子供にまで手を出すようになったのか?今すぐ家に返してこい。まだ間に合うぞ。」


「ひっど~い!私ならいつでも結婚しようと思えば出来るもん!この子、なんか事情があるっぽいから、美味しいお肉をちょうだい。」


「『屋台ごと食べ尽くしてもいい』って言われた。味に期待する。」


「そ、そうか……。まぁ、無理やりどこかから攫ってきたのでなければいいけどよ……。串肉は好きなだけ食っていいぞ。支払いはミーシャがしてくれる。」


「……全部食べ尽くせるけど……本当にいいの?」


「食え食え!子供が遠慮なんてすんな!いっぱい食ってデカくならねえといけないからな!」


……それじゃあ遠慮はいらないね。


私は周囲で微笑ましく見ていた人がドン引きする程食べ尽くし、屋台を1つ休業へと追い込むのだった。

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