第17話

「串肉、美味しかった。」


「そ……そうか。うん……。旨そうに食ってくれたのは嬉しいんだが、腹は大丈夫か?」


「まだまだ食べられる。」


「……食費がとんでもねぇことになってそうだな……。」


串肉は非常に美味かった。

恐らく牛肉だと思われる3センチ四方くらいのブロック肉を3つ、串に刺して焼いただけのシンプルな物で、塩の味付けは少し薄く感じたのだがシンプルに肉が美味い。

久しぶりに牛肉を食べたから美味しく感じたのだろうか?

豚肉も美味しかったけど、肉といえばやっぱ牛なんだよなぁ~。


「とりあえずミーシャにちゃんとお礼を言っておくんだぞ。ミーシャの稼ぎからすれば大した額ではないだろうが、一般人からすると、お前の食った肉の量はなかなかの金額になるからな。」


「分かった。」


そのミーシャさん。

少し離れたところで大儲けしている。

『私が屋台の肉を全て食べられるか』で賭けをして1人ボロ勝ちしたのだ。

私は肉をいっぱい食べられて幸せ。

ミーシャさんも賭けに勝って幸せ。

正直Win-Winの関係の様な気もするが、お金を出したのはミーシャさんで、勝手に賭けをして儲けたのもミーシャさん。

私とミーシャさんが組んで賭けを行ったわけではない以上、賭けの儲けをせびるつもりは一切ないし、肉をご馳走してくれただけでも感謝するべきだろう。


そんな訳で、いつの間に買ったのか分からない酒を掲げて飲んでいるミーシャさんに、お礼を言うために近づく。


「お!いい食べっぷりだったね~!君、名前は~?」


「……ウィル。」


「ウィル君ね~。お父さんかお母さんは~?」


「どっちもいない。トスターの街がスタンピードで崩壊したからここに来た。」


「……トスターでスタンピード……?いつ?」


「今日の午前中には襲われてた。そろそろ避難してきた人の集団も、この街に到着し始めてるんじゃないのかな?詳しい話はその人たちに聞いて欲しい。」


「……今の話聞いてたよね?飲む前ならちょっと確認してきて。」


どうやら賭けをしていた人たちの中に、傭兵の方がそこそこ参加していたようだ。

7人くらいの人が2手に分かれて真偽の確認へと向かっていった。


「ウィル君は1人でこの街に来たの?」


「うん。」


「……どうやって?馬に乗って来た?」


「……普通に走って来た。」


「ウィル君は足が速いんだね~。」


「まぁ、馬よりは速いと思う。」


「魔法使いかな?」


「魔法は誰でも使えるって教わった。なら、みんな魔法使いでしょ?」


「誰でも使えるけど、誰でもなんでも出来るわけじゃないんだよ~。馬より速く走るなんて、『魔法が使える人達』の中でも、出来る人はあまりいない。人攫いに行き止まりへ追い詰められた状況から消えたウィル君は、いったいどのくらい魔法が使えるのかな~?」


「……お肉ありがと。じゃあね。」


「まぁ待って。ウィル君は1人なんだよね?少しお仕事してみない?」


「しない。」


私は逃げた。

しかし回り込まれてしまった。


「実は私も魔法が結構得意なんだよね……特に筋力強化が。」


……どうしよう……。

本当に面倒な人に目をつけられた気がする……。

いつでも逃げ出せばいいと思っていた貴族の屋敷とは違って、逃げるのが難しそうな相手に目をつけられるとは……。

靴は壊れるし街は燃えるし変態みたいな女の人に捕まるし……今日は厄日なのかな?


とりあえず筋力強化に使う魔力の量を増やことにする。


「それ以上はやめておいた方がいいよ~。魔力に余裕があるのかもしれないけど、体に悪影響が出始めてる……。ウィル君の目、凄いギラギラした赤色だよ。」


……心臓に負担がかかっている自覚はあったけど、目が真っ赤は困るな……。

血圧が高過ぎて、血管が酷く膨張しているのかな?

ふと手を見ると、皮膚は凄く赤みがかっており、太い血管が浮き出ていた。

命がけの状況ならともかく、こんなことで全力を出すのはやめた方がいいのだろう。

ついでに言うのなら、この状態で動くのは流石に魔力の余裕がない。

朝から走って、モンスターと戦って、また走ってと、1日中魔法を使いまくっているのだ。

流石に限界が近い……。


魔力による筋力強化を解いて、回復魔法に切り替える。

自覚はなかったが、体中の血管にダメージがあったのだろう、魔法の効果を全身で感じた。


「うんうん。それだけ魔法が使えるのなら、傭兵の仕事なんか余裕で出来ちゃうね!ちょ~っと遠出してモンスターを狩れば、お金がい~っぱい貰えるから、お勧めだよ?」


「……選択肢には入れてる。」


「ところで今夜泊るところは決まってる?決まってないなら私の部屋においでよ。明日は一緒に傭兵ギルドに行こう。」


「……嫌だけど。」


断っても限界の近い5歳の体。

抵抗など一切出来ずに、少しお高そうな宿へと連れ込まれた。

……最近誘拐の被害に遭いすぎな気がする。

ミーシャさんは予想外にショタコンの変態さんではなかったようで、特にナニもされることはなかったが、流石にもう少し誘拐に対して警戒すべきだろう。


そんなことを考えながらふかふかのベッドで眠った。




「おはよ~!天気も良くて、いい朝だね~。朝ごはん食べに行こ~!今日はウィル君の傭兵デビューだ~!」


……朝からテンションが高い。

ふかふかのベッドで今回は拘束されることもないまま眠ったため、体の調子が良すぎて違和感を感じる。

昨日いっぱい食べたからだろうか?

体にエネルギーに満ち溢れていて、魔力も完全回復どころか以前より多くなっているような気さえする。

今なら全力で逃げ出せるぜ!


……まぁとりあえず、朝食はありがたく頂くことにした。

傭兵デビューも問題はない。

昨日の時点で傭兵として登録することは考えていたし、普通にお金を稼げるのならそれが一番まともな生き方が出来そうだからだ。


……ただなぁ~……。

この調子だとミーシャさんから離れられないんだよなぁ~。

ショタコンの変態さんではない様だけど、ちょっと頭イカレてる気がするんだよなぁ~。

昨日の人攫い3人組を殴り殺したみたいだし……。

そういえば『依頼で見た』って言ってたな……。

尋問すべき相手をぶっ殺しちゃうとか普通に頭おかしいけど、それでも許されるくらいには強いんだろうなぁ~。

傭兵のおっさん達も怖がってたし……。


「今日の朝ごはんはな~にっかな~?そういえばウィル君は朝もいっぱい食べるの?」


「普段は普通の量しか食べない。食べようと思えばいくらでも食べられるだけ。」


「へ~。まぁ、普段からあんなに食べていたら、お金が無くなっちゃうもんね~。早く稼げるようになって、毎日お腹いっぱいになるまで食べれる様になろうね~。」


「そうなったら街の食糧が無くなっちゃうね。」


結構本気で、食べたものがどこへ行っているのか気になる今日この頃。

魔法で代謝をあげているとはいえ、排泄物の量も少し増える程度なんだよなぁ……。

超効率的に分解されていて、エネルギーとして蓄えられてるのかな?

テレビで見た大食いの人でも、食べた直後はお腹がパンパンに膨れてたけど、私の場合は体形すら変わってないんだよね。

人体の不思議やで~。


さて、宿屋1階の食事をするところに着いたようだ。

あまり朝食を食べているお客さんはいないが、時間が少し遅いからだろうか?

普通に爆睡して寝坊してるんだよね。

やっぱ地面とか木の板の上に布1枚敷いただけじゃ、寝れても疲れは取れてなかったのだと、今振り返れば思う。


朝食のメニューは、結構柔らかくて雑味のあまりないパン、普通のスクランブルエッグ、厚切りで焼かれたハム、シャキシャキした葉っぱのサラダ、コンソメに近いがなんか違う美味しいスープだった。

この世界では非常に高水準というか、貴族王族を除いた一般人が口にできる食事の中では、ほぼ最高峰のものなのではないだろうか?

部屋はトスターの街の高級宿の方が広かったが、食事に関してはこの宿の方が美味しく感じる。

きっと料理長の腕がいいのだろう。

心から満足出来た朝食だった。


「それじゃあ傭兵ギルドに行こうか。私が話を通せばすぐに模擬戦での実力テストが出来ると思うよ。模擬戦は相手をサクッとボコれば合格だから、ウィル君なら楽勝だね。あ、一応殺さない様に注意した方がいいよ。結構根に持たれちゃうからね。」


……まぁ、ミーシャさんが傭兵ギルドに入るための面倒なやり取りをしてくれるというのは、話が早くてありがたい気もするのだが、いったい何が目的なんだろうな~?

ショタコンっぽいけどショタコンではない気がするんだよな~。

私を監視するために領主の家から派遣された人とも思えないし……。

いったい何者なんだ?


「どうしたの~?」


「……ミーシャさんって何者?」


「ん~?そりゃ~もう超凄腕の傭兵だよ!モンスターだろうが人間だろうがぶっ殺すだけなら超簡単!数日前なんて、トスターの街の城壁を壊して中に入って来た太い腕が4本もあるムキムキモンスターを1人でフルボッコにしたんだよ~。ウィル君はトスターにいたんだよね?そのモンスターの死体は見なかった?解体場に運べなくて結構長い間外に置かれていたらしいんだけど、たくさんの人が見に来たくらい凄いモンスターだったらしいよ~。」


……あれを1人でフルボッコ……?

そりゃあ普通の人から恐れられるわ。

下手したらハイドさんより強いんじゃないの?

というか領軍よりもミーシャさん1人の方が強いんじゃないの?

ど~なってんだよこの世界。

ラスボスが自由に歩き回ってんのか~?


ギルドに到着。

正直もうこれ以上関わりたくなくなったミーシャさんに引きずられながら受付へ。


違うんです~!

これは無理やりこの人に連れて来られたんです~!

私はこの人と何の関係もないんです~!

だからそんなに見ないで~!


「模擬戦……ですか?今から?その子が?」


「そう!凄く才能あるよ!たぶんすぐに私と同じくらい強くなると思う!」


「……ミーシャさんが2人に……?」


受付のお姉さん、凄く嫌そうな顔をしている。

『簡単に話が通る』とミーシャさんは自信満々だったが、実際に苦労する傭兵ギルドの職員さんは非常に嫌なのだろう。

逆らえないから頑張って話を通すだけで……。


職員さん頑張って!

私は応援してるよ!


「では訓練場の方で少しお待ちください。すぐに模擬戦の相手を務める職員と、模擬戦を評価する職員をそちらに向かわせますので……。」


「おっけ~!さぁ~ウィル君ついて来て~!楽しい楽しい訓練場はこっちだよ~!」


ハイテンションのミーシャさんに引きずられ、大人しく訓練場へと連行されるのだった……。

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