第14話

街が燃えている……。

思わず足が止まってしまうような光景だ。

まぁ、ここからじゃ遠いし城壁もあるので、炎が上がっているのをしっかりと目視で確認したわけではないのだが、城壁の内側からいくつも上がっている黒煙から考えて、ちょっと火事が起きただけって感じではないだろう。


とりあえず昨夜暗視を試したときの様に、視力そのものを魔力で上げられないかやってみる。

……うん、暗視より簡単に出来たね。


予想はしていたが、城門の周りには沢山のモンスターがおり、ここから見える城門の扉は破られ、混雑していなければモンスターを止めるものは1つもないだろう。

まぁ、モンスター達にとっては狭いであろう入口に、複数のモンスターが我先にと入ろうとして喧嘩しているからか、あまり中に入っていけてるモンスターは多くない様だけど……。


街の中で火の手がどのくらい上がっているのかはやっぱり見えない。

煙の量はどんどん増していっている様な気がするし、これはもう本格的に街は終わりかな……。


正直既にいろいろと見切りをつけて諦めているところはあるのだが、せっかくなので街の中を見に行くことにした。

モンスターと実際に戦ってみて、今後の参考にするためだ。

……靴が無事なら良かったんだけどな~。


とりあえず城門へと近づく。

城門の周りにはモンスターが本当に多い。

以前に見た4本腕のゴリラモンスターの様な大きさの個体はいないが、私の体では相手が小型モンスターでも、油断して攻撃をまともに食らえば、だいたいの場合助かることはないだろう。

なので何も考えずモンスターに突進するような真似はしない。

ある程度周囲の状況把握をし、モンスターを倒す方法や倒した後の離脱方法、いざという時にどういった行動をとるかなどを出来るだけ先に決めておく。


今回の場合、相手は城壁も飛び越えられない小型だ。

倒す方法は……正直何がいいのか分からない。

いざという時に筋力を強化して、城壁の上へと跳んで逃げるつもりなので魔力はあまり消費したくない。

元々この街に戻るまでに結構な魔力を消費しているのだ。

魔法による攻撃を続けていると、いざという時に魔力が枯渇する事態となりかねない。

となると、物理的に倒すか、本当に最小限の魔力消費でモンスターを倒さなければならない。

手元にある武器は貰ったナイフ1本……。


……まぁ、ここにいる全てのモンスターを倒すつもりはないんだし、普通に魔法で攻撃すればいいかな。

地面を素材に、魔力で土の槍を作って飛ばすのがいいだろうか?

電気は……たぶん、仕組みがよく分かっていないから、直接触れて使わないとあまり効果がないと思う。

暇になったら一度余裕のある時に、遠距離からの電気を使った攻撃をする練習をしておこうかな。


とりあえずもう少し城門に近づいてから、地面の土に魔力を流して魔法のコントロール下に置く。

まだ少し距離があるが、あれだけ沢山のモンスターがいるのだ。

適当に飛ばしても刺さる可能性は高いだろう。

そう思いながら土の形を刺さりやすい様に棘の様な形状へと変え、ガッチガチの硬さになるように圧縮。

省エネを意識しているので『土の槍』と言うよりは『土の棘』と言った方が正しい気もするが、後はこれを飛ばすだけだ。

一応念のために、だいたい同じ大きさ・同じ形状のものを10個用意した。

この距離から飛ばすので、何度か偏差射撃する必要があるだろうしね。


まずは1射目。

狙いは城門前で渋滞しているモンスターの群れだ。

多少の弾道落下はあるだろうが、ほぼ直線状に狙ってみることにする。

その方が貫通して複数の敵に当たる幸運を期待できそうだからだ。

ここからモンスターまでの距離はだいたい200メートル。

弾道の落下も気になるが横風の影響も気になり始める距離だ。

地面の草を少し毟って落としてみる。

……あまり強くないが、風は少し左手前から右奥へと流れている様だ。

ドローの弾道で風を打ち消しながら狙うか、フェードの弾道で風に乗せて狙うか……。

私の持ち球はフェードだったし、フェードの弾道で狙うか。


モンスターの集まっている中心のあたりから少し左上を狙い、この土の棘がモンスターを貫通するイメージで射出してみた。

高速で射出された土の棘は凄まじい速さでモンスター達へ向かって飛んでいき……途中でイメージとは逆に曲がった結果、城門で喧嘩していたモンスターの頭に着弾した。

曲がったのは恐らく風が原因ではなく、射出した棘の形状に問題があり、空気抵抗によって曲がったものと思われる。

まぁ、当たったんだから問題はないかな。


棘が頭に着弾したモンスターは、今ゆっくりと地面に倒れた。

ほぼ間違いなく死んだと思う。

目の前で突然死んだモンスターを前に、渋滞していたモンスター達の集団はパニック状態になった様で、城門付近のモンスターはなおさら街の中に入ろうと城門に殺到し、離れた位置にいるモンスター達は城門から遠ざかるように逃げて行った。

この距離からほぼ無音で射出したからか、私の位置はモンスター達に知られていない様で、こちらへ向かってくるモンスターも複数確認できる。


私は次に射出する土の棘を手にし、いつでも射出できるように準備をした。

さっきは200メートルほどの距離を飛ばし、集団に到達する少し前、約150メートルから180メートルほどのところで大きく曲がった。

それを参考に、モンスターが150メートル以内の距離に近づいたら、2射目を放つつもりだ。


狙うモンスターは足の速い狼型のモンスター。

このタイプは2匹近づいてきているが、他のモンスターに比べると動きが俊敏な印象を受けるため、出来れば近距離まで近づかせずに倒したい。


狼が目標射程距離に近づき、そして入って来たので2射目を射出した。

……顔面に命中。

体勢を崩した狼型モンスターは走って来た勢いのまま地面を転がっていき止まった。

死んだかの確認は出来ていないが、急いでもう1匹の狼型モンスターへ3射目を射出する。

これも命中。

私のエイム力はなかなかいいのではないだろうか?

こちらの狼型モンスターもバランスを崩し、走って来た勢いのまま転がって地面を滑り止まった。


……少しの間観察してみたが、2匹の狼型モンスターはどちらとも、ピクリとすら動かない。

ほぼ間違いなく死んだようだ。

動物は生命力は高いから、即死しなければ大怪我をしていようと走って逃げていくと聞いたことがあるのだが、2匹とも即死したところを見ると、案外簡単に倒せるものなのかもしれない。


とりあえず残っている土の棘はあと7本。

狼型モンスターが死んだからか、こちらに向かてきていたモンスターのほとんどが左右に分かれて逃げて行ってしまったが、まだこちらに向かってくるモンスターもいる。

その数は4匹。

種類と内訳は、兎型が2匹・山羊型が1匹・豚型が1匹だ。

まぁ、1匹1射で倒せれば何も問題はなさそうだね。

……せっかくだし、1度に1つの土の棘を飛ばすのではなく、4匹同時に土の棘を飛ばして攻撃できないだろうか?


思いついてしまったら、やってみるしかない。

余裕がないのなら慎重に判断するが、残っている棘を全部射出した後にもう1回10個作って射出出来そうなくらいには余裕のある状況だ。

魔力に余裕があるのなら、ホーミング射撃も試してみたいところなんだけどなぁ~……。


そんなことを思いながらも、土の棘を4つ魔力のコントロール下に置き、4匹のモンスターに狙いを定める。

狼型モンスターと比べればその動きは遅く感じるが、1歩1歩のリズムが微妙に違う為、同時に狙うとなると少し難しい印象を受けた。


4匹すべてが100メートル圏内に入り、なんとなく動きのリズムが掴めてきた気がするのでタイミングを合わせ、それぞれに土の棘を射出した。

土の棘は一応全てのモンスターの頭に直撃したのだが、1つだけ予想外だったのは山羊型モンスターの頭の固さだ。

正確には角の硬さだろうが、角の付け根付近に当たった土の棘は弾かれてしまった。

山羊を狙うのなら、頭より首にするべきだったのかもしれない。


反省点はあるが、4つの土の棘全てが命中したんだし、山羊型モンスター以外はキッチリ仕留められている様子。

兎型はともかく、豚型モンスターだって1撃で仕留めているのだ。

間違いなく高評価を付けてもいいのではないだろうか?


山羊型モンスターは頭に攻撃を食らってもまだ、こちらへと向かって進んできている。

せっかくなのでここは、山羊型モンスターにホーミング射撃を試してみることによう。


手順は先ほどまでと変わらないが、今回は土の棘を少し横へと射出して、軌道を曲げて山羊型モンスターの首に横から突き刺さるイメージでコントロールする。

……問題なくイメージ通りの結果となったようだ。

山羊型モンスターはバランスを崩し、私のすぐ近くにまで転がって来た。


一応警戒しながら近づいてみる。

土の棘は首を貫通したようで、地面にどんどん血が流れ出て溜まっており、少しグロイ。

だが完全に死んでいる様なので、出血もすぐに収まるだろう。


……さて、山羊といえばジンギスカンのイメージがあるが、その肉は栄養は豊富だが臭みが強いことで有名じゃなかったかな?

私は1度もジンギスカンを食べたことがないので分からないが、正直臭みの強いお肉は好きではない。

やっぱり今倒したモンスターの中からメインで食べるものを選ぶなら、豚型のモンスターが一番だろう。

でも一応、羊肉も1度は食べてみたい気がする。

せっかくナイフを貰ったんだし、後で解体しようかな?


そんなことを考えていると、この距離でも聞こえるほど大きな音が、街の中から響いてきた。

いったい街の中では、どんなモンスターが暴れているのだろう?

私1人でも問題なくモンスターを倒せることが分かったので、結構気楽な心境で見に行くことにした。


モンスター達を無視して城壁の上へと登り、街の中の様子を確認する。

この辺は流石にモンスターの殺到した城門付近なので、無事な建物は1つもなく、辺り一帯が瓦礫の山と化している。

やはりあちこちで火災が発生しているようで、焦げた臭いと共に周囲には白い煙が立ち込め、遠くの建物からは激しく黒煙が上がっている。


街の中に入ったモンスターはどこだろう?

……いた。

モンスターがいっぱいのあの建物は……傭兵ギルドの建物かな?城門がここなら私の家はあの辺で、そっち側に探索者ギルドがあるから……やっぱり傭兵ギルドの建物で間違いないだろう。

生き残っている傭兵たちが建物の中に立て籠もって応戦しているのだろうか?

探索者ギルドの状況も少し気になる。


……でもとりあえず靴屋に行こうかな。

まだ残っているかは知らないけど、街はこんな状況だし、とりあえず履くものが欲しい。

やることが火事場泥棒と同じだからあまり気は進まないけど、こんな状況だもん、仕方がないよね。


という訳で全てを無視して靴をかっぱらいに靴屋に来た。

中には誰もいなかったが建物は無事だったようだ。

私に合うサイズの靴はあるかな~?

お、これはいい感じだ。

新品だからか結構革が硬いけど、サイズ的には少しゆとりがある感じで問題ない。

これは良い物だ。


新品の靴を手に入れウッキウキで外に出ると、そう遠くない位置から悲鳴が聞こえた。

まだ逃げずに隠れていた人間がいた様だ。

私は悲鳴を一切気にすることなく、自宅に向かって歩きだす。


「大丈夫か!?クソッ!数が多い……。」


……やっぱり戻ることにしよう。

今のはガリューさんの声だ。

ガリューさんには頻繁にお世話になったので、ここで少しは恩を返しておきたい。




私が着いたときには、ガリューさんは壁を背にした状態で複数のモンスターに囲まれ、下手に動けない様だった。

恐らくさっき悲鳴を上げた人物も近くにいる様なので助けに入ったのだろう。

……ガリューさんの持つ剣は、中ほどでポッキリと折れているのだが、あれで問題なく戦えるのだろうか?

まぁ、私が貰ったナイフよりかは刃渡りが長いので、あんなのでも武器として使えるのかもしれないが……。


とりあえずモンスターをサクッと魔法で倒しておく。

ここが石で舗装されていない土の地面で良かった。

地面から棘を生やすだけで、モンスターを倒せたのだから……。


「ウィル!なんでここに!?今すぐ西の方に向かって逃げろ!そっちからならまだ街の外へ逃げられるはずだ!」


「分かった。」


こちらに気づいて話しかけてきたガリューさんに返事をしてから、私は移動を開始した。

モンスターは既に死んでいるのだが、そのことに気づいていないのか、ガリューさんはその場から動けないでいる様だった……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る