ストーカーっぽいはなし。
保育園にはシングルのママが多くいる。僕はそのママたちを、かなり、心から尊敬している。
何せ、働いて、家事をして、休日は子どもと遊んで…。
それを一人でやっているのだ。たくましすぎる。
僕が知っているシングルママたちは、みんなあっけらかんとしていて気持ちのいい人たちばかりだった。僕と話が合った。
しかし、それで困ったこともあった。
僕は大学時代の保育園実習で、年長クラスに入ったことがある。そのクラスはなんと、3分の2がシングル家庭という珍しいものだった。
そして僕は実習中の間に、5人の母親からメールアドレスを渡された。確認するとアドレスが子どもの名前になっている。大学生には重すぎる。
もちろん、連絡はせず、そのことを大学の実習担当の先生に報告した。
すると先生はその後、みんなの前で「実習に行ったのか、ナンパに行ったのかわからない奴がいた」と、僕の名前を言ったのだ。
ぼろぼろになりながら真剣に実習をやってきたのに、何でそんな風に言われるんだ、とショックを受けたのを覚えている。
保育士5年目の時に、園長に呼ばれた。
ある保護者の母親(つまり園児の祖母)が、「僕を保育園から辞めさせるように」と言ってきたとのこと。
何でですか?と驚いて聞くと
「うちの娘(園児の母親)が僕と付き合っていて、子どもをほったらかして遅くまで遊んでいるから」、と言うではないか。
ばかな。と僕は思った。
僕は仕事が終わったら家に直帰し、ずーっとケーブルテレビを見ているからだ。
しかも休日は当時付き合っていた彼女と遊んでいた。そもそも浮気する暇があったら映画の一本でも見ている。
園長も僕の性格と、僕に彼女がいることも知っているので、「それはありえないです」とはっきり言ってくれたそうだ。
でも一度、喫茶店でおばあちゃんの話を聞いてくるというので、僕はその日中そわそわしながら仕事をした。
その母親の子どもは僕になついていた。心が不安定な子で、僕と交換日記をしたいというので、園長とその子の担任の許可をもらい、交換日記もしていた。
それが理由かなあ、なんて思っていたら、園長が帰ってきた。
理由を聞くと、
「そのお母さんは、家で僕の話ばかりする」
「運動会の時に、子どもの写真を撮らずに、僕の写真ばかり撮っていた」
「そのお母さんが若い子と出かけるところを見た」
ということだった。
コンプレックスの一つだけど、僕は童顔である。髭も薄い。見た目でなめられないようにボクシングを習っていたくらいだ。
年度の始め、初めて会う保護者からはいつも新卒に見られていた。
でも、そのばあちゃん、僕の顔を知らないのだ。完全にいちゃもんである。
しかし、そこは園長。ばっちり誤解だと言ってきてくれたらしい。
ちなみに、僕が家に帰り、自分の母にそのことを話すと、
「は?私がそのおばあちゃんに言ってあげようか。うちの息子は、家でずーっとケーブルテレビ見てますって!彼女よりケーブルテレビが大事ですって!」
と、怒ってくれた。とても切なかった。
結局、おばあちゃんが本人(子どもの母)に直接聞いたところ、別の男と遊び歩いていたことがわかったらしい。
それなら最初から本人に聞いとけよ、と僕と園長は心から思った。
あまり保護者と距離が近いのも危ないな、と思った話だ。
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