午後十二時に私は牛筋牛カツカレーを作った

隅田 天美

料理の素人(一般人)が読者から紹介された料理を再現してみた実話 その6

【夢の牛筋牛カツカレー……!

想像だけでもはや殺人的豪華さです。】(「ようこそ異世界へ」から「沼を進む」より外訪楠様)


「作れるよ、それ」

 思わずつぶやいた言葉だ。

 我が家には圧力鍋という文明の利器がある。

 これで以前、牛筋大根を作りご飯を食べていた。

 その蓄積された技能ノウハウを生かし、その願いをかなえよう。

 私が。


 スーパーの精肉コーナーでアメリカ産牛の筋肉を二パックと、牛ステーキ肉、辛口カレールーを買う。

 帰宅して手洗いうがいをして圧力鍋を出す。

 まずは水と牛筋を入れて強火にかける。

 タイマーを十分に設定して、ほかの作業をする。

 そのうち、タイマーが鳴る。

 ざるでしてぬるま湯で筋肉を洗い、鍋も洗う。

 洗ったばかりの鍋に筋肉、酒、水、その上に灰汁取りシートを入れて蓋をして火にかける。

 音がして、圧がかかったら火を弱めて台所を出た。

 あとは居間で今度書く小説の設定などを考えていた。

 台所から音が鳴った。

 いつの間にか三十分以上時間が過ぎていた。

 火を止めるために再び台所に立つ。

 圧を抜き、確認して、蓋を開ける。

 灰汁取りシートを取る。

 今度はカレールーを入れて煮溶かす。

 これで牛カレー完成。


 牛カレーを作ったら今度は牛カツである。


 以前、池波正太郎のエッセーで「カツは以前が牛が普通で、とんかつの普及は戦後」というのを読んだ。

 思えば、戦後生まれの私は牛カツを食べるのも作るのも初めてである。

 

 ステーキ肉に塩コショウをして衣をつけて揚げる。

 低温ジワジワ作戦である。

 まあ、ステーキ肉なのだから生焼けでも問題はない(はず)。

 なので、衣が色づいたら引き上げ、まな板の上で切る。

 炊いたご飯を皿に盛り、切ったカツを並べて、カレーをかける。

 

 居間に戻り、スプーンとフォークで食べた。

 まず、筋肉。

 これはホロホロではない。

 とろっとろ。

 テレビのグルメレポーターが「口の中で溶けた」などと言っていることがあるが、なるほど、こういうことか……

 歯はいらない。

 舌で嚙み切れる。

 老人にも優しい。

 ただ、酒を使い過ぎたのか、辛口を買ったはずが中辛ぐらいだった。

 カツを食べる。

 ザクザクして今度は歯ごたえがいい。

 ただ、ジワジワし過ぎたのか肉汁を感じない。

 肉のうま味は十二分に堪能できた。

 今度はカツの上に牛筋を乗せて食べた。

 とろとろ、ザクザク……

 歯ごたえが楽しい。

 そのうち、何が何だか分からなくなってきた。

 私はカレーを食べているのか?

 カツを食べているのか?

 筋肉を食べているのか?

 気か付けば完食。


 こんなんでどうでしょうか? 外訪楠様。


 確かに、このカレーには夢が詰まっていました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

午後十二時に私は牛筋牛カツカレーを作った 隅田 天美 @sumida-amami

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ