【そのに】 - 父の視線

「ねぇ、パパぁ。ママは?」


布団の中で父親に聞くと、何だか嬉しいような困ったような表情で


「ママはね、今病院にいるんだよ。」


と、告げた。


「びょ…ういん?」


「そう、パパのお勤めしている病院にお泊まりしているんだ。」


「ママ、痛いの?」


「うぅ〜ん、痛い…かな。」


「ママ、痛いのかわいそう。グスッ、グスッ…グスッ、ママの…ママのところにお迎えに行く。」


「大丈夫だよ。あと3回ネンネしたら帰ってくるよ。」


私をあやしながら、父が慌てたようにそう言う。


「ママに会いた…会いたいの。エーーン…」


とうとう大粒の涙を流しながら泣き出した2歳の娘を目の前にして、仕事一筋の新米パパは右往左往していた。



すると階下から声がする。


「どうした?大丈夫か?」


それは、祖父の声だった。


「すみません。お父さん。」


父が二階の部屋から階下に向かって少し大きな声を出した。


「よかったら、こっちへよこしなさい。」


階段の下から身を乗り出して、そう言う祖父の声に、父が一瞬躊躇した表情を見せる。


だが、目の前で泣きじゃくっている私に再び視線を戻すと、思い切ったように抱き上げ階段を降り始めた。


「すみません。よろしくお願いします。」


父が自分の腕から私を手放し、祖父に託す。


私は祖父の腕に抱かれながら、普段は優しい父の表情が硬くなっているのを感じていた。

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