【そのいち】 - 愛の時間
私は、部屋の天井を見上げながら走馬灯のように頭の中を巡る景色に想いを馳せていた。
ーーーーー
「ほら、海だぞ。」
乳母車の後ろから声がする。
青い空と白い雲。
私は包み込むような優しさで広がる水面の煌めきに目を細め、潮の香りを体の中に招き入れた。
これは、私が2歳の時の記憶である。
家から徒歩で10分のところにある海岸沿いの遊歩道が私たちのデートコースだ。
乳母車に乗せられた私と父方の祖父。
仕事に忙しい父と、お腹に新しい命が宿っている母に代わって、いつも私のそばに寄り添い愛情を注いでくれる。
私はそんな祖父が大好きだった。
祖父は細身で背が高く、ハーフのような綺麗な面立ちをしていた。
口元には美しく整えられた髭がある。
私は、祖父の膝に抱かれて頬や髭に触れるのが好きだった。
その優しい時間は、まるで愛しい恋人と過ごすような甘さを感じるものなのだ。
私は、この先もずっとこんな日が続いていく…そう思っていた。
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