あ、これ短編なんでこれで終わりです。

 Side エリシア・アイゼン


「とにかく好きにやってみてくれ」


「いいんですか本当に」


「勿論だとも」


 ソウタ・ヒグレ。


 違う世界から来た日本人。

 平行世界の人間。


 まあ宇宙人なんて物が現れたこの世界だし、パラレルワールドの住民が来たとしても別に驚く事ではないと思うのだけれども。


 スマートフォンの中には彼の元の世界の趣味だったのかロボットの画像――敵のロボットか、あるいは私達が作ったバトルマシンのデーターなのか。


 デザインが先進的すぎる物があれば古めかしい物もあったりと中々にバリエーションが豊か。


 キッカケはそんな感じで彼の知恵を借りてバトルマシンをつくることを考えた。

 。

 バトルマシンは18m級の戦闘機械。

 人類の主力兵器。

 ザム―ル帝国のロボットを倒せるだけでなく圧倒できるロボット兵器の総称だ。


 表では私は余裕ぶっているけど、このままだと人類は負ける。


 だから打てる手は全部打ちたかった。


 余裕なんて残されていなかった。



 半年後。


 彼がはじめたのは新しいバトルマシンの設計――ではなく、労働環境の改善からだった。


 地球防衛軍の本部、兵器工房の改善。


 そのためにパワードスーツを作らせたりとか、整備用の作業用機械を作ったりとか、何時の間にかバトルマシンの上半身を戦車に乗っけたりしている。


 バトルマシンの整備、製造効率が段違いに上がり、思わぬ拾い物をした。


 サラリーマンだと聞いていたけど、平行世界のサラリーマンとはこんな感じなのだろうか?


 他にもOSの改善どうこう言ったり、「レールガンやビーム、レーザー、プラズマ兵器があるのになんで細かいところは雑なんだ」と嘆いたりもした。


 彼の言いたい事は分かる。


 バトルマシンはみてくれや装備は立派だが、中身が追いついてないのだ。


 市販で出回っている最新鋭のパソコンに触らせた時なんかも「うわ!? 箱形のデスクトップPC!? これ観た事あるの僕と同世代だよ!?」などと驚かれた。


 あの、スマートフォンが小学生でも持っている世界の人間からすれば彼の驚きようも分かると言うものだ。


 と言うかあのスマートフォンはなんなんだ。


 タッチパネル式とかはまだ分かる。

 だけどカメラとか録画機能とかなんで携帯につけるんだ?

 平行世界の人間はめんどくさがりなのだろうか?


☆ 

 

 半年間で大分現場とも打ち解けたようにも思える。

 彼の存在は正体不明ながらも少なくとも現場の信頼は勝ち取れたようなものだ。

 まだ監視はついているがこれは出自が出自なので仕方ないのだろう。


 まさかあの実験で「プレラーティ博士」などの研究成果で違う世界の人間――ソウタ・ヒグレが現れるとは思ってもいなかった。


 あの時は驚いたものだ。


「日本人は熱血漢で突撃しか考えない、追い詰められたら自爆するような奴ばかりだと思っていたけど、君は何というか違うね」


「この世界でも棒の先に対戦車地雷括り付けて突撃とか、神風特攻とか、竹槍で人を殺す訓練とかやってたんですか?」


「そんなだから日本は悲惨な負け方したんだよ・・・・・・」


 第二次世界大戦で日本と言う国はアメリカの植民地状態になっている。

 昔よりかはマシになったが戦後の日本人におけるアメリカ人の迫害は酷かったらしい。


 それはともかく――


「君の貢献度は確かに高い。だがお偉方はもっと派手な戦果を欲している」


「なに? 強いバトルマシンを作れと?」


「そう言うことだ」


 お偉方――地球防衛軍の上層部、政治家、パトロン連中とかの要望と言った方が早い。

 

 まあ、ソウタ・ヒグレはどちらかと言うとパトロンや政治家受けする人間だ。

 予算は潤沢にあるが無限にあるワケではない。

 だがソウタ・ヒグレは予算の効率化だけでなく、新たなビジネスさえ産み出している。

 

 地球防衛軍の上層部は正直、屈辱的な思いだっただろう。

 平行世界の民間人、うだつの上がらないサラリーマンに戦場働きもしないクセに多大な成果を発揮したのだから。


 だが、彼を排除するワケにもいかないし、ましてや殺すワケにもいかない。

 名探偵不要な殺人事件になるだけならまだしも、批難の矛先は地球防衛軍の上層部に向けられてしまうし、なにより笑われてしまう上に「地球が侵略されているのにこんな真似をして恥ずかしくないのか?」と敵を作ってしまうからだ。


 そこで恥を掻かせるために限られた予算で強いバトルマシンを作ってみろと言う話になったのである。


「バトルマシンって火力はあるんですけど機動力が――」


「まあOSの改善で大分よくなったがな。それに受けもいいからな」


「それってもう人型の意味あります? 下半身タンクにして移動砲台にした方がいいですよ」


「民間人の君がマトモな意見を出す時点で色々と問題だが・・・・・・新型機の開発はどうする? 成果は出してるんだ。断るか?」


「案は幾つかあるんですけど――」


「まあ聞くだけならただだな」


「その前にまず、新型機って設計段階から、一から作らないとダメなんですか? 既存機の改良型とかじゃなくて」


「既存機の改良型か。まあ着眼点は悪くないが、間違いなくケチをつけてくるだろうな」


「無理に納得させる必要はないと思いますけど――リップサービスだとは思いますが政治家やパトロンの皆さんからの受けはいいですし」


「おや、中々強気な意見じゃないか」


 まあ実際そうだしな。

 議会受けがとにかくいい。

 その反面、上層部――職業軍人からの受けは悪いが。 


「現場の意見とか、戦闘報告書とか、実際の戦闘はどうなのかとか言う意見も聞きたいですね。あ、整備班の人達は次々と新型機を開発するから整備するのも一苦労だって苦情きてますよ」


「うーむ・・・・・・」


 確かにそれも問題になっている。

 

「いっそ、どんどん新型機を作れる機体構造にするところから始めましょうか」


「なんだって?」

 

 突然何を言い出すんだコイツは。

 働かせすぎて頭がおかしくなったのか。


「人間で言うところの骨と筋肉の部分だけブロックごとに作って、後は装甲素材などの組み合わせで大幅なコストカットが出来る仕組みです。ロボットアニメとかでよくある仕組みですね」


「成る程。大人向けの工作キットを作るワケか」


「それを元に新型機を開発します。火力や装甲に偏ってますから機動力重視で行きましょう。まあそれでも不安ならば火力を外付けできるようにすればいいんです」


「選択式にするワケか」


「はい。それと兵器にも手を加えます」


「ほう?」


 

 更に月日が経ち、その結果。


 完成した新型バトルマシンは新技術が沢山詰め込まれた。


 それは武器にもだ。


 ザム―ル帝国のロボットの装甲を砲弾として打ち出すレールガンや特注の合金製の盾のパイルバンカー。


 ビームシールド発生装置やビームサーベル、銃剣式ビームライフル、ナイフ。

 

 コクピット周辺にバリアが展開されたりとか。


 頭部バルカン砲やら胴体マシンキャノン。


 更には他の機体の武装が使えるように接続部を予め機体各所に作って置いたりした。


 数々の新兵器の機体コンペにも余裕で勝ち抜き、現場からの要求仕様にも合格。


 更には軍上層部から与えられた少なめの予算で新型機を作った事や新兵器の数々が高く評価された。

 

 技術者達からも大絶賛である。


 名前はニューウィンドと名付けられた。


 早速これの簡易型が量産されて前線送りになり、様々なバリエーション機が誕生して地球防衛軍の戦局は優位に立ったと言う。



「君も人がいいね。防衛軍の使えそうな機体を見繕って仕立て直すとは」


「まあ予算の都合とかもありますしね」


 ソウタ・ヒグレは会食、パーティー、テレビやラジオ出演をこなしながら仕事した。


 そんなことしなくても、制限はあるが不自由なく暮らせるし、もう元の世界に帰れるにも関わらずにだ。 


 本当に変わった奴だと私は呆れてしまった。


 んで今は上からのお願い――昔の機体の使えそうな奴の改良を頼まれた。

 主に整備や予算方面でだ。

 凄いのは整備や予算の効率化と同時に機体性能がちゃんと向上し戦果も好評だと言う事だ。


 最近はバトルマシンに乗って色々と確かめたりもしているらしい。


「次は空を飛べるようにしましょう」


「はい?」


 またこいつはとんでもない事を考えようとしている。

 一応言っておくがその無茶に付き合って、アイディアを形にしているのは私やコイツに感化された技術者達だ。

 

 こんどはどんな無茶な仕様になるのやら今から楽しみだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る