第48話 2 未来のために

今日はみんなで逃げなければならない日。

私は朝食を終えた後藍さんにこのことをみんなに伝えるよう言い、私はみんなが逃げられるように準備をするので大忙しだった。

改めて地図の確認、着替えもろもろ。

昨日のうちにやっておけばよかったと後悔してももう遅い。

まぁ、今日安全に逃げられるってわかってると何の損もない気がするけどね。



「麻実ちゃん、あの話は本当なのかい? 使用人が言ってたんだけど……」

準備でわたわたとしていた私に戸惑う様子で声をかけたのはおばあちゃんだった。

私は、これは私が言わないと信じてもらえないのかもしれない、とわけを説明する。

「前にさ、カガミ様のこと言ったでしょ? それで……みんなの安全のためにもこれが一番いい方法かな……って……。だから、みんなのためにおばあちゃんもみんなと一緒に逃げてほしいの……! 私はみんなが助かればそれでいいから! だからお願い……!」

そう言いながら私は顔の前で両手を合わせ、拝むような姿勢でそう頼み込んだ。

するとおばあちゃんは仕方ないな、とでもいうように少し柔らかく笑って、「麻実ちゃんがそこまで言うなら言うことを聞くよ」といった。

藍さんに言われた時点で言うことを聞いてほしかった…、なんて言葉は、胸の奥にしまっておくことにした。

こういうところがだめなんだってのはわかってるんだけどね

「じゃ、麻実ちゃん。お父さんにも伝えておくよ」

「……あ、ほんと? なら助かる。ありがとう」

私はいつもより頼りがいのあるおばあちゃんに意外そうな反応を見せる。

お父さんもさすがにおばあちゃんからの頼みには断れないだろう。

……あ、でも家族だから断れるってこともないことはないのか。まぁ……、でもお父さんはそんな人じゃないから心配いらないだろう……。

さ、準備準備~……


私は準備を終えた後、「ふぅ」と息をつくと、少し疲れた様子の藍さんが私の部屋に入ってきた。

「……準備できた?」

藍さんはベットの上で倒れるように寝転がる私を見てそう聞いた。

「うん、藍さんは?」

「私も……、オッケー。もういけるよ」

藍さんはそういうと優しく微笑んだ。

「……うん。あとはおばあちゃんとお父さん次第かな」

「そっか、じゃあ報告待つ。」

「はーい」

私は短く返事を返すと部屋に戻っていく藍さんを見届けた。

なんだかいつの間にか緊張を抜けてほんとに逃げられるんだ、っていう安心感すら感じられる。



そしてお父さんとおばあちゃんが私の部屋に入ってくる。

すると藍さんがあまりかかわりのなかったもう一人の使用人さんを連れ「行きますよ」と敬語で二人の前では使用人を演じた。

私は返事を返した後二人に事情を説明して外へ連れていく。

「……ついてくるだけでいいから。絶対迷わないでね?」

私は二人にそう言い聞かせた。

「あ、あぁ……」

お父さんはあいまいにうなずく。

おばあちゃんは「わかったよ」とうなずきやる気満々だ。

今から強盗にでも行くんだろうか。

……さ、冗談はよしておいて……。

「藍さん、道憶えてるんですよね?」

私はみんなの前ではきちんと敬語を使い分けそう言った。

「はい、ほとんどまっすぐなので大丈夫です」

藍さんはそういうと力強くうなずいた。



私たちは前のように森をどんどん超えていった。

お父さんなんかはみんな私たち二人にただ言いも分からずついてきてるようで。多分おばあちゃんはわかってるんだと思うけど。

みんななんか話してる中お父さんと使用人さんの男性陣はすごい無言を突き通してて後ろのほうはシーンとしていた。

一方でおばあちゃんと藍さん、私は楽しくおしゃべりしつつ藍さんについていった。最初は藍さんのことを使用人としか見ていなかったおばあちゃんはなぜか今娘のようになれた口調で話していた。

……どんな気の変わりようだろうか。

まぁ別に私はみんなが仲良くしてくれるなら何も言う気はないけど……。

でもこの中にお母さんがいたらどんなに楽しかったか……

……いや、この話はやめよう。

私にはみんながついてるんだから。


そしてしばらく歩いて足も重くなってきたころ、少し光のようなものが差し込み森が明るく照らされた。

私は太陽かもしれない、とうれしい気持ちで「あれ、きっと太陽だよ……!」と満面の笑みでそう言った。

みんなも私に続いて疲れた顔から笑顔を見せる。

みんなが笑顔を見せてくれる……そんな瞬間がたまらなくうれしくて、少し涙が出そうになるのを我慢した。

「みんな、早く出よう……!」

私は藍さんの手を引いてかけていく。

みんなは速足で私についてくる。


そして、ついに光が私たちに浴びせられた。

この前に見た、あの光景と同じ。

やっと出ることができた。

私の気持ちは安心感で満たされた。

「藍さん……、やったね……!」

私は嬉しさのあまり藍さんに駆け寄ってそう言った。

すると藍さんはニコリと優しく微笑んで「うん!」と無邪気に笑う。

周りのみんなも笑顔になっていく。

「じゃあ……、皆さん、とりあえず私の家へご案内いたします」

藍さんは後ろを振り返ってぺこりと一礼するとみんなにそう伝えた。



その後私たちは藍さんの家に向かった。藍さんがこの間悩んでいた人たちはいなく、藍さんが説得してくれたんだろうと一人で納得した。

そしてみんなが本当の家に帰る日。


「そろそろ帰るんだ……。あ、藍さん……、また……どこかで会おうね」

私がそうつぶやくと藍さんはこういった。

「……えぇ。絶対会える。だって私たちはお互い会ったらすぐわかるし、友達だものね。私たちが引き合わせられる日までは私もおとなしく待ってる。これを運命だと思って」

藍さんはそういうと少しいたずらっぽく笑った。

「でも……、たとえ会えなくても私は遠い遠い場所から見つけるよ……」

「じゃあ私もこの場所から見つけて見せる」

こう思うと私の家はすごく遠い。

そうなると見つけられるかは運しだいだ。

「あったら最初に何しようか」

藍さんが私に尋ねる。

「う~ん……楽しくおしゃべりすることしか思い浮かばない……!」

「まぁ、楽しくしゃべれるのは私も嬉しい」

藍さんはそういうとうれしそうに笑った。

「じゃ、約束。はい、指切り」

私はそういうと藍さんの前に小指を出した。

「……はい」

私の小指に藍さんは自分の小指を結ばせる。小指しか触れあってないのにすごく暖かく感じて、すこし涙がこぼれる。

藍さんも一筋、涙を流してしまっていたみたいだ。

「ふふ……、藍さん……泣いてる」

「……そっちこそ」

私は笑いあいながら泣いていた。


楽しい感情と惜しむ感情。


「じゃあ……そろそろ。藍さん、バイバイ」

私は小指を離してそうつぶやくと一歩下がって小さく手を振った。


「うん、また……どこかで」

「きっと……会える」

私はそう言い聞かせるように言う。

「うん、会える」


「じゃあね、藍」


その後からはカガミ様に会うこともなく、幸せな生活が続いていた。

そして後で知ったことが、カガミ様はもともと虐待を受けていた子だったということ。その正体が「火神真由美」だった。

カガミ様は愛されなくてあんなことをしてしまったのも納得してしまう。


その後また藍さんと私が再開するのは、まだあと数年後の話だった。


ハッピーエンド 『涙を残す別れ』

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神が笑って悪夢は始まる 天霧 音優 @amaneko_0410

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