愛されたかった人たちへ

第47話 1 人を助ける存在

「いえ……、私は……やっぱり……やめます」

私は必死に悩んだ末、そう決意した。

やっぱり、これでカガミ様を死なせてみんなで逃げることになってもそれは無駄な行為になるだけ。

それなら……そうなるのなら、せめて……こうしたいと思った。

「それと……少し違うことを願わせてください。……みんなが安全に逃げられる方法」

それならせめてと、私は一つ提案する。

「カガミ様に人を殺させないようにしてください。……あの人には、もっと生きる道があるんじゃないかと思うんです……! あんなことをするカガミ様ではなく……あなたのような、人を助けられる存在に……」

私は、最後の願いを口にした。

すると、カガミ様は私の言葉に優しく微笑んで、こう告げる。

「えぇ、わかったわ。……あなたのもとに、ちゃんとした幸せが訪れますように。優しいあなたへ……」

その笑顔は、どこか懐かしみを帯びていて、優しい笑顔。

カガミ様はそういうと、なんの知らせもせず、スッと消えてしまった。

残ったのは、カガミ様によく似合うオレンジ色の花。

名前も分からない小さな花は、私の心によく響き……、懐かしみを感じさせた。

このなつかしさがどこからきているのかは全く分からないけど……カガミ様とは、前に会ったことがあったのかもしれない。

それなら……また会えてよかったって、言ってあげられたのに。

そう、残念に思いながらも私は後悔していない。

だって……こうしてカガミ様に願いをかなえてもらって、みんなと一緒に逃げることができるんだもの。

それ以上に……うれしいことなんて……ないよね?

そう思うと、なんだか心が軽くなって、今ならどんなことでも挑戦することができそう。

そんな自信を抱いている私は、「よし」と気合を入れて明日のために寝てしまおうと思った。


ここまで来ると……知らなかったカガミ様の事実も……知らない方が逆に幸せなのだと思った。

無理にあんなふうに調べなくても、私にはみんながついてる。

カガミ様を殺そうだなんて……考えなきゃよかったんだ。

殺したら……私がいるのは残酷にまみれてしまった世界だけ。そんな世界に…いるべきではなかった。

だから結果的に、この選択が一番間違っていなかったんだ。

この選択でしか行けない、幸せな世界に…行くことができる。


そして明日はとうとうみんなで逃げる日なのだから、ちゃんとそれに備えておかないと。

まずは……疲れるだろうからしばらく寝る。

明日はきっと疲れる日になるだろうから。

備えも大事。

そして私はゆっくりと目をつむり、静かに眠りに引き込まれていった。




「麻実ちゃん、夕食がもうできてるよ~」

おばあちゃんの声がして、私は目を覚ました。

外を見るとあまり変化はないが、確かに暗い。

もう夕食の時間になってしまったみたいだ。

私は目をこすりながらむくっと起き上がるとまだ花の匂いがかすかに残るこの部屋を後にしてみんなのもとへ向かっていった。

「……あ、もうみんな揃ってるんだね」

私は寝起き丸出しの声でそう声を上げると、おばあちゃんが「早く席に座りな」と私をせかすように言った。


そして夕食が終わったころ私は藍さんに会おうと藍さんの部屋に向かった。

あの会話をした後でも私はやっぱり藍さんって呼びたい。藍さんは私のこと呼び捨てで呼ぶらしいけど……。なんだろう……ちょっと気まずい。

だって藍さんは友達……だけどやっぱり年上だもん。

もしかしたらお姉さん的存在なのかもしれないけど、私もなんだかため口でしゃべろうと意識しないとすぐ敬語に戻っちゃうんだろうなぁ。

……というか、あんな感じの藍さん見てると紗矢ばっかり頭に浮かんで来るのはなんでなんだろう。やっぱり……似てる?


「あ、藍さ~ん……」

私は藍さんにそう呼びかけながらゆっくりとドアを開ける。

ドアを開けた先には眼鏡をかけて真剣に本を読んでいる姿が目に入り、少し邪魔しない方がいいのかも、と入るのを少し躊躇した。

が、私がドアを開けようとするよりも前に藍さんが私の呼び声に反応して顔を上げた。眼鏡をかけた見慣れない藍さんはこちらをみてキョトンとした表情で「どうしたの……?」と声を上げる。

「ちょっと、明日のことで……。で、でも本に集中してるなら聞かなくてもいいんだよ……! 無理して読む手を止めるのも嫌だろうし……ね」

私はなぜが藍さんから目線を外しながらそう言った。

「いや……、全然いいけど……。何かあったの?」

藍さんはそう言いながら私に近づいた。

「ちょっと緊張しちゃって。でも、必ず逃げ切れるっていう確信が付いたよ」

「なんで?」

「優しいカガミ様に……会っちゃったから……かな。何のことかわからないかもしれないけど~……」

「優しいカガミ様……? それは……どういうこと?」

藍さんが少し目を丸くして問う。

そういえば、と、私はカガミ様を殺そうとしているのがばれたくないという理由であの本の内容、カガミ様の存在については口に出していないということを思い出した。

でも私は言葉をやめず続ける。

「私、もう一人のカガミ様がいるのを知って、その条件に合わせて過ごしてたの。そしたらさっき……優しい方のカガミ様が現れて私の願いを聞いてくれた。その内容が、カガミ様を殺すかどうか。……ひどいよね私。でも、ちゃんと断ったの。それで、違うことをお願いした。『カガミ様に人を殺させないで』一見カガミ様に人を殺させたくない……とか言ってる風に聞こえるかもしれないけど多分これ……私と藍さんが助かればいいっていう気持ちが出てるんだよね……。でも私は藍さんと一緒に逃げたい。みんなで幸せな未来を見たい。勝手な私のわがままかもしれないけどね……」

私は呆然とする藍さんを置いてすらすらと話す。

当然藍さんにはおかしなことを言っているようにしか思えないかもしれない。

だって、私が勝手にしゃべって苦笑いして、反省の色を見せているだけ。

突然そんなことを言われても伝わらないっていうのはわかってたつもりだったんだけどどうやら藍さんは私の言葉をしっかりわかってくれたみたいだ。

そこで私はさすがだ、と改めて思った。

やっぱりこの道が正解なんだ。

この藍さんと、みんなと……必ず逃げ切って…必ず幸せになろうって決めたんだから。


「藍さん……、話聞いてくれて……ありがとうね。明日、がんばろ……!」

私は満面の笑みでガッツポーズを見せた。

「……うん」

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