第37話 おばあちゃんの中のカガミ様
「もう一人のカガミ様がいる……? なんでそう思ったんだい?」
おばあちゃんの顔色が明らかに変わって、私に疑いの目が向けられる。
……聞いてはだめなことを聞いてしまった……。そう思ったころにはもう遅い。
「……え、だから……神様なら二人いてもおかしくないのかなぁ……って……」
私は苦笑いを返しながらそう答えた。
ただおばあちゃんの視線だけがやけに私をいたぶり私は正面を向くのもままならない。
……怖いのだ。第一おばあちゃんがこんなに怖い顔するところなんてそうそう見たことがないし……こんな……こんな人じゃないものをにらみつけるような表情を私に向けてきたのはこれが初めて。
怖くて怖くて仕方がないのか、私の体はかすかにふるえていた。学校でカガミ様を見た時と、まったく同じ感覚だった。
……たぶん、恐怖。
「普通はそんな考えには至らないはず……。……カガミ様のことを何か知ってるんだろう?」
おばあちゃんは低い声でうつむく私に問いかける。
「……何も知らないよ。何言ってんのおばあちゃん……。私が少しおかしかっただけじゃないかな……」
私は弱弱しい声を上げる。
ほかに言い訳が何も思い浮かばない……。
「そんなことないんだろう? 私は麻実ちゃんの声色から全然ほんとのことを言っているようには聞こえないんだけどねぇ」
……さすがにもう隠しきれない。おばあちゃんは私がずっと言い訳を言い続けたとしても、私を疑うことをやめることはないと思う。
……それならいっそ、本当のことを言ってしまおうか。
おばあちゃんの信じたカガミ様は偽者だってことを。
「……もう、隠せないか。おばあちゃん、正直に話すよ。……直球で言っちゃうね。……おばあちゃんの言うカガミ様は、本当のカガミ様なんかじゃないよ。……本物は、優しくもないし……人の絶望を楽しんでいる最低な……悪魔みたいな神様なんだよ。……信じられないかもしれないけどさ、私これでも勇気を出していったんだから……少しは信じてほしいかな……って」
私は真剣な顔でおばあちゃんに訴える。
「何を……言ってんだい……。あの優しい方こそが本当のカガミ様だろう?」
おばあちゃんの顔が青ざめていくのがわかった。
……もしかしたらおばあちゃんは私の知っているカガミ様の存在には気づいていたけど、それをやさしいカガミ様だと思い込みたかったのかもしれない。……信じたくなかったのだろう。自分の願いをかなえてくれた神様が、悪い人だったなんて。
「……信じたくないよね……。わかるよ、その気持ち。……でも、さ。ちょっと教えてもらいたいことがある。……おばあちゃんがあったカガミ様は、大人の女の人だった?」
「……私があったカガミ様……?……あ、あぁ。すごく大人びていて、きれいな方だったさ……。それがどうかしたのかい……?」
おばあちゃんの声はさっきとは真逆に少し弱い声へと変わっていた。
「そう……なんだ。……急に質問してごめんね、おばあちゃん。……ちょっとそれが……聞きたかっただけ」
私は少しでも場を明るくできるように笑いながら言った。
「……麻実ちゃん、カガミ様は……本当に麻実ちゃんが言うようなひどい神様なのかい……?」
「なんなら今からでも呼べるよ」
私はおばあちゃんのためにと、そういったけど……本当は呼びたくなんてない。つらくなってしまうだけだってわかってるからね。
「呼べるのか……。いや、でも麻実ちゃんがそんなつらそうな顔するんだったら無理して呼ばなくてもいいよ」
……どうやら思っていたことが顔に出てしまっていたみたいだ。余計に心配かけさせてしまった。
いつも通りになったおばあちゃんに少し安心感を覚えたのか、体の緊張感が一気に抜けていく感覚がした。
火神家の中で私はどういう存在なの?……そんなにカガミ様のことを知っちゃいけなかったのかな……私。……みんな私がカガミ様について口を出すと怒りだすんだ。やっぱりこの火神家には明らかに秘密があると思うんだよ。
「……そっか。気遣ってくれてありがとう。……聞けたいこと聞けたから……私帰るね。ばいばい」
私は微笑むおばあちゃんにそう言って手を振ると静かに部屋を出て行った。
結局誰も二人カガミ様がいるってことは知らないみたいだ。……なんでみんな優しい方のカガミ様に出会ってしまうのだろう。
……いつかにおばあちゃんが言ってた、信じていたらカガミ様は現れる、ってやつ。……もしかしたら頼むんじゃなくて信じるだけでいいのかも。もう一人いるかいないかは別として……可能性だけでも信じていたらやる意味はあるから……きっと。
大人びたカガミ様と子供のカガミ様がいるのは今のところ確実だろう。あとは二人いるってことを明らかにすればいい。
もしかしたらカガミ様は一人で姿を変えているだけかもしれないから。
……もう気づけば推理ゲームとか、そういうものは気にも留めなくなった。
今の私の目標は、カガミ様を消してみんなが殺されない世界を作らなければならない……そういうことだけ。
だからそのためにも、私はみんなのためになる努力をしないといけない。
まだまだ答えにたどり着くまでが長い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます