第30話 証明

「……私、何のために呼び出されたんですの?」

カガミ様は周りをきょろきょろと見渡す。

「お母さんが会いたいっていうから」

「……そうなんですのね」

カガミ様は興味のない返事を返す。


するとお母さんが目を見開き、大急ぎでカガミ様に駆け寄った。

「……カガミ様……なんですか⁉︎」

カガミ様に駆け寄るお母さんに、カガミ様は少し不思議そうな表情をしていた。

……どうやらお母さんのことおおぼえていないみたい。

「……そうですわ。……ですけどあなたは誰ですの?」

「……おぼえていませんか? 5年前あそこで……」

「残念ながら何も覚えていませんわ」

「そうですか……」

お母さんは残念そうな表情を浮かべる。

5年前なら覚えていないに決まってるだろう。

「……で、何の用なんですの? 会いたいってことは何か用事があるんですわよね?」

「……ないんじゃなかな。……あぁ、ちょっと質問に答えてくれる?……あなたは、人の絶望を楽しむ最低な神様……あってるよね?」

私はお母さんを見ながらカガミ様にそう問いかけた。

そして答えは当然のことだった。

「……最低なんて言葉は人聞き悪いですけど、人の絶望を楽しむのは楽しいことですわよね……。だって絶望というのは人がおかしくなってしまっているところをじっくりと楽しむことができるんですの。これ以外に楽しいことなんてきっとありませんわ」

カガミ様はにやりと笑いながら楽しそうにそういった。


お母さんも予想外の答えに驚いて固まっていた。

「……嘘……嘘よ」

流石に信じられないみたいだ。

「……ごめん、お母さん。カガミ様はこういう神様だよ。……だから、絶対にかかわろうとなんてしないで、ね?」

私はお母さんのそばによってそう言い聞かせた。お母さんはカガミ様がこういう神様だということを認めたことに対して、信じられない、というような顔をしていたが優しい神様だって信じていたらろくなことにならないと思ってちゃんと信じるよう言いきかせる。

今のお母さんの表情はカガミ様への絶望と信頼が入り混じったよくわからない表情で何やらつぶやいていた。


「……もういいよ、カガミ様」

私はそう言ってカガミ様に帰るように言った。

「……はぁ。今回もこんなくだらない用事で呼び出されてすぐに帰らなきゃいけないんですのね……」

「そう。早く帰って」

「……自分から呼び出しておいてなんですのそれ?……まぁいいですけど」

カガミ様はめんどくさそうにそう言って、すっと消えた。



「……お母さん。もうわかったでしょ」

「……えぇ。ごめんなさい。私がばかだったわね。私が出会ったカガミ様は偽者だったのかしら……」

お母さんは悲し気に微笑み、私の方を向いてそうつぶやいた。

火神家の中にはこんな風にカガミ様はいい神様っていう風に思いこまされてる人もいるんだろうと思うとなんだか悲しくなってきてしまう。

これ以上騙される人がいなければいいんだけど。


たぶん、お父さんもその一人じゃないかと思う。

この家族みんなそうなのだろう。そのたび私がこうして証明しないといけないのは少しめんどくさいけど、それでみんながみたカガミ様は違うってことを知ってもらえるなら損はないか。


それと、お母さんが見たカガミ様って本当にカガミ様だけど昔はまた違う性格だった……とかあるのかな。それか二重人格だとか。

私はあんまりそういうの信じたくないけど……。それしか考えられないし、偽物を見た、なんてありえないよね。カガミ様を知ってるのは火神家だけだもん。


「……あ、麻実。こんなことしてる間に夕食の準備できてるの忘れてたわ……。もう夕食にしましょう」

お母さんはふと思いついたように言った。

そういえば夕食を食べてなかった。すっかり食べた気でいたけどおなかが満たされていない気がしたのはこのせいか……。

そんなこと思いながら私はうなずきテーブルに向かう。お父さんはまだ仕事で帰ってこない。……この家に来てからお父さんと全然あってない。朝も夜もほとんどいないから……忙しいんだろうな……。


今日の夕食はさっきのことがあったせいか少し冷めていた。

いつもなら温かい夕食だけど、今暖かいのはご飯だけ。なんかいつもと違うから少し寂しい。


夕食を食べ終え、私はリビングのソファでテレビを見ていた。

そしてお風呂に入って歯磨きして寝る。

9時くらいになってもお父さんは帰ってこなかった。いつものことだから気にしてないけどお屋敷での生活に慣れていたからかこれが当たり前でないように感じる。なれるというのは不思議なものだよね、今考えると。

慣れてしまえば変わったことまで当たり前になってしまって、いつもなら当たり前だった生活がやけにあたりまえじゃないように感じて……。

カガミ様がいることも、今となっては結構当たり前の日常になってきている。まぁいつまでたってもカガミ様を恨む気持ちは変わらないのだろうけど。


私はそんなことを考えながらベットに潜り込んで、暖かくして寝た。



カガミ様を殺さなければ、私は今までのあたり前に戻れないのだと思った。

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