第29話 お母さんの話

「……ねぇ麻実。さっき来ていた女の子って、誰?」

お母さんがソファに座った私に低めの声で声をかけた。

「……え……。あ、……新しく学校にきた転校生の子だよ。ちょっと仲良くなったんだ」

私が戸惑いながらそう話すと、お母さんは私を怪しむようにジロジロと見つめた。

……なんでお母さんがそんなこと聞きたがるんだろう。私は話したくもないのに。

「……ど、どうしたの? 急に」

「……カガミ様……知ってるわよね」

私はお母さんの口にしたその名前に、少しの間固まった。そして理解したとたん、私の目は大きく見開かれた。

「……し、知らない」

私は動揺を隠そうと、目をそらしてとっさにそう言い張った。

お屋敷にいるときにもう知ってるのはわかってたけど、なんで転校生の話をしただけでそんなこと聞いてくるの……?

「嘘よね」

お母さんは私をにらみつけるようにそう言った。

「……なんで、そんなこと聞くの……?」

私は恐る恐るそう聞いたけど、お母さんの顔は見たこともないくらい怖い顔をしている。

「………あなたがカガミ様を知ってるって言うのはもうわかってるのよ」

「だから……知らないってば……!」

もうここまでくれば動揺しているのはバレバレだろう。

だけど、認めたらまたおかしなことになってしまうからお母さんにカガミ様の話はしない方がいいってことは知っているんだ。……お屋敷でのことがあってから。

「……嘘つかないで」

「嘘じゃ……ない。私は何も嘘ついてないよ。なんでそんなに信じてくれないの……?」

「あの女の子はカガミ様なんでしょう?」

お母さんは私にそう問いかける。

「……っ。なんで……そう言い切れるの?」

お母さんは……気づいてるの? なんで……。

「……みたことがあるからよ。なんで……なんで麻実がカガミ様にかかわることができるの? 教えなさい」

ここで私はお母さんに何度嘘だといっても意味がないということを悟る。

「……カガミ様とは、お屋敷で出会った。……でさ。お母さん……カガミ様に一回殺されちゃったんだよ? 夢かもしれないけど……おぼえてないの? その時からカガミ様は私のもとから離れない……! いてほしくもない! 話したくもない!……なのになんでお母さんはそんなこと聞きだそうとするの? カガミ様は人の絶望を楽しむ最低な奴だよ……!」

私は吐き捨てるように、そう叫ぶ。

もうこうなればどうなってもいいと思った。

だから私の思っていたこと、出来事はすべて話した。

するとお母さんは面食らったような表情をするが、すぐに表情は怒りへと変わっていく。

「……カガミ様はそんな人じゃないわ。カガミ様は私たち火神家を助けてくれる優しい神様よ。なのに……あなたはカガミ様のことを最低な奴……ですって……?……あなたにカガミ様の何がわかるって言うの……⁉︎ カガミ様がいたから私たちは生きていけているって言うのを知らないの……⁉︎」

お母さんはそう叫んだ。お母さんは私と真逆のことを言っている。

……カガミ様が優しい神様だなんて嘘に決まってる。いったいお母さんはカガミ様のどこをみたの?

「……あったことがあるのにそんなのも分からないの?」

「あったことがあるからわかるのよ。……カガミ様のことを何もわかっていないような人はカガミ様に会うべきじゃないわ」

「……私だって会いたくない……!  できれば話したくもないんだから!」

これまでない以上に私の声は大きかったと思う。

自分の大声が自分の耳をつんざくように、キンとする。

自分で言った声がこんなにもうるさく聞こえているとなると、お母さんは今耳をふさぎたいくらいだろう。

「……じゃあさ、カガミ様を私に近づかせないでよ」

私はさっきと変わって小さな声でそうつぶやく。

カガミ様さえ近づいてくれなければもうみんなすくわれるんだよ。私がおかしくなることもない……。

「カガミ様はそう簡単に現れないわよ。いますぐにでも会えるなら私だって……」

「……会えるよ」

「……なんで、そんなことがわかるのよ」

「だって呼び出す方法があるんだから」

「……何それ……」

どうやらお母さんは知らないかったようだ。

……お母さんならもうとっくに知ってると思ったけど、それは私の思い込みだったみたい。

「……知らなかったんだ。やっぱりカガミ様のことなんてそんなに知らないじゃん」

私は少しお母さんを見下すように言った。

「……ちゃんと知ってるわ。しかもそれ……何の情報?」

「本に書いてあったんだよ。……実際に試しもした」

「……今すぐ呼び出してみなさい」

お母さんは偉そうにそういった。


そして私は言われるように、カガミ様を呼び出そうと目を閉じた。

カガミ様、どうか姿を現してください。

正直カガミ様にこんなこと言いたくない。敬語なんて、もう使うのはやめたから。

すると、私の目の前に制服姿ではないドレスを身にまとったカガミ様がゆっくりと現れる。

「……あら、今日は二人もいるんですのね。さっきもあったというのに……忙しい人ですわ」

カガミ様は私の方を向いてめんどくさそうにつぶやいた。

「……どう? お母さん。カガミ様」

私がそういうと、お母さんは驚いた顔をしていた。

「……本当……だったの……?」

「うん。だから言ったじゃん。……私はカガミ様を呼び出せるの。会いたくもないのに呼び出せるなんて、無駄な話だよね」

私は笑いを含んだ声でそういう。

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