捨てるべきはきっと
第23話 自信がついたから
「……私、もう教室に帰ります」
私は起き上がってベットから降りると、カガミ様を押しのけるようにして無理やり保健室を出て行こうとする。
「せいぜいへまはしないでくださいまし?」
カガミ様が、保健室を出て行こうとする私にそう声をかけた。
私はそれを無視してすたすたと歩いていく。
……もうカガミ様の話なんて聞こうとなんて思いたくないから。
教室に戻ると、中はすごく騒がしかった。たぶん今は休み時間なのだろう。カガミ様も教室じゃなかったわけだし。
「……おぉ、火神。戻ったのか。もう大丈夫そうか?」
「は……はい。先ほどはすみません。少し……嫌な記憶が……」
「……なに、謝ることなんてないんだ。嫌な夢でも見たんだろう? そんなこと誰にでもある。気にするなよ」
先生はあまり気にしてはいないようで、優しい言葉をたくさんかけてくれた。
……そんな先生の思いがすごく心地がいい。やっぱり優しい先生だということに間違いはないみたいだ。……でも私はもとから先生のことは信頼してる。
「……ありがとうございます。先生」
私はぺこりと頭を下げると、紗矢のいる席へと向かっていった。
紗矢はこちらに向かってきている私に気が付くと、パッと明るい顔を見せてにこにこと笑っていた。結構待たせてしまっただろうか。……それならすごく申し訳ない……。
そんな複雑な気持ちで私は笑顔を見せながら紗矢のもとへ向かった。
「心配させてごめんね、紗矢」
「だいじょ—ぶ! もう……びっくりしたけどさ」
紗矢は笑いを含んだ声でそう言った。
大丈夫って言ってくれるのは心強いんだけど……。
「もう大丈夫だから。紗矢みてると心強いな」
「……なになに? あたしを照れさせようとしてないぃ~?……あたしをほめたってなにも出ないぞー?」
紗矢は腰に手を当てて、ぐっと怪しむような顔を近づけてくる
「知ってる。それにほんとのことだし……紗矢はいっつも明るいでしょ、それが心強いって言ってるの」
私はそれに対抗するようほほを膨らませて強く言った。
紗矢もそこまで言われると照れしまうみたいだ。恥ずかしいのか顔をそらしてしまった。そういうところも男子からの人気の一つと言えるだろう。……ほんとに信じられないくらいモテるんだから紗矢は……。羨ましいとかは……そんなに……ない、けどさ。心の中の自分にさえほんとのことなんて言えない……そんな私は素直じゃないのかな。……正直何でもいいんだけど……。
「……もう、かわいいやつめ~!」
すると突然紗矢は私のほほを引っ張った。
「な、なに……! いひゃいぃ……! はなひへぇ~!」
私はうまく回らない口で紗矢に訴えかけた。
すると紗矢は不貞腐れたような表情でしぶしぶ私の頬から手を離す。
「な、なんなの紗矢……しかもかわいいって……」
友達同士で恥ずかしがることじゃないのに私は思わず顔を赤くしてしまう。
……かわいいってのはこっちのセリフだよって言ってやりたい気持ちは心の奥に閉じ込めておいた。
「……麻実がかわいいのがいけないのよ」
「だから何なの……」
「あたしさ、よく男子から人気じゃんって言われるけどあたしからすれば麻実の方が圧倒的にかわいいと思うの! あたしの気持ちわかんない?」
そんなこと私に言われても自分がかわいいとか言えるわけないじゃん……。
しかもかわいくないし別に。
みんな自分の方がかわいいって言いきれる人いないよ……。たぶん。
だから私はノーコメント……!
「……はぁ。麻実……、あたしってかわいいの?」
「……今日どうしちゃったの……?」
なんか今日の紗矢はお酒飲んだ人みたいに自由にしゃべってる。
……なんかストレスでも溜まってたのかな。
「……紗矢はかわいいよ。男子にめちゃめちゃモテるでしょ。私も羨ましいなぁ……なんて。」
「そうなの……あたしかわいいの……?……え~やっぱり麻実の方がかわいいって。あたしやっぱ認めなーい」
紗矢はすねくれたようにそっぽを向いた。
なんか子供みたい。
やっぱり今日の紗矢っておかしいよね…うん。
キーンコーンカーンコーン
「……あ、授業始まる。じゃあね」
私は紗矢に手を振り早足で自分の席へと向かい教科書や文房具やらがのせられた机の椅子に腰かけた。
先生もデスクから立ち上がって教卓の後ろに立っていた。
私がふと紗矢の方に顔を向けると、紗矢はなんだかぼーっとしていた。
なんだか紗矢を見ていたらカガミ様の推理ゲームを終わらせるっていう本来の目的も忘れてしまいそうになってきた。
もしかしたら本来の目的はそうじゃないのかもかしれないけど。
学校が終わると紗矢との約束がある。
でもあの様子で大丈夫なのだろうか……。ちょっと心配だけど紗矢のことだからすぐになおって元通りになるに違いない。私も正直そっちの方が絡みやすいしなじみやすい。今まで紗矢がこんなになったことなんてなかったけどなんだかこんなことを言う紗矢も新鮮で面白いもの……。
別に最後まであれでもいいけど絡みにくいからやっぱり元に戻ってほしい。
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