第23話 怨念
「ここは常夜……夜だけの神の場所になると言われている。いわゆる……呪いの神社だ」
神社を前に、蓮はそう言った。
「夜だけの神……呪いの神社、ねえ……」
羽矢さんは、蓮の言葉を呟くと、また大きな溜息をついた。
「なあ……羽矢」
「なんだよ?」
蓮の呼び声に返しの早い羽矢さんの声は、なんだか少し苛立っている。
蓮は、そんな羽矢さんをじっと見ていた。
「だから、なんだよっ?」
「そう毛嫌いするなよ、羽矢。死神だって似たようなもんだろ」
「一緒にするんじゃねえ! 似てねえよ! 似てたまるか!」
「大声出すな」
「お前がそうさせてんだよ。気づけ」
「お前のやる気を出してやってるんじゃねえか」
「大きなお世話だ。お前に言われなくても、きっちりやりますよ」
「頼りにしてるぞ、羽矢」
「はは。その言葉、蓮、お前に返すよ」
羽矢さんの言葉に、蓮は頷きを見せた。
それにしても……。
暗くなれば暗くなる程、不気味さを増していく。
釘が打ちつけられていない木など、一本もないようだ。
人の手が届く範囲ではあるが、人の手が届く範囲だからこそ、
それに……
見れば見る程、その怨念を感じ取ってしまう。
『神は祟る』……まるでそれを利用しているみたいだ。
これが神社だなんて……。
蓮と羽矢さんが歩を進め出した。
……この神社に……あの神司がいるんだ。
僕は、一歩が踏み出せない。
ついて来ない僕に、蓮が気づく。
「依」
「あ……はい」
蓮は、僕のところへと引き返すと、穏やかな笑みを見せた。
「怖いのか?」
「いえ……そんな事は……」
「じゃあ、掴まっていろ」
蓮は、僕の腕を引くと、自分の着ている衣の腰辺りを、僕の手に掴ませた。
「……はい」
僕は頷くと、蓮の衣をギュッと掴んだ。
参道を進んで行くと、拝殿が見えた。
手水舎があったが、水も溜まっていなければ、水も流れていない。使われていないのか……?
拝殿を前にしたが、日も落ちた事もあり、暗くてよく見えない。
人の気配は感じられなかった。しんと静まり返った空気感が、緊張感を高めていく。
僕たちは、更に先へと進んだ。
本殿に行くのだろう。
夜だけの神……。
日が落ちたこの時刻でも、境内に入る事が許されている。
そして、まるで迎え入れるように、灯籠に明かりが灯った。
灯籠に明かりが灯ったかと思うと、歩いて来た方から水の音が聞こえた。
手水舎に……水が流れ始めた……?
「さて……鬼が出るか
蓮は、そう言ってクスリと笑った。
「ふん……
「だから、鬼で決まりだろ。ああ、だが……両方出るか、なあ、羽矢?」
蓮の言葉に羽矢さんが、本殿に向かって手を向けた。
羽矢さんが本殿に向けた手が、物を掴むような動きを見せる。
本殿に嵌められている木枠の格子が、バンッと音を立てて外れた。
「蛇はお前の……」
蓮は、本殿から出て来たその姿を見て、ニヤリと笑う。
後の言葉を羽矢さんが続けた。
『追え』
……蛇が出た。だけど……。
「ああ、俺の使い魔だ」
羽矢さんの使い魔……河で大蛇の形を作った水……。
その蛇に体を縛り付けられて、僕たちの前に。
あの神司が現れた。
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