精子を喰らう者
「
精子を食べて生きる、生命体……??
「えーと、それ、そのままの意味か?」
「はい。叉神は精子からしかエネルギーを摂取することができません」
あ、そう……。なんというか、俺の異世界転生らしいハレンチな設定だ。やっぱり異世界転生というのは、生前の行動や思考回路とかが世界観に影響するものなんだろうか。実際、生前の俺が真剣に取り組んだことなど、オナニーくらいしかない。こんなイカ臭い設定になってしまったのも、やむなしかもしれん。
俺が頭を抱えつつそんなことを考えていると、
「……グスン」
いつのまにか、異形の女が涙を流していた。
「お願いよ。お願いだから、マラルをちょうだい。お願い。お願いよ……」
そのしおらしい姿を見ていると、次第に恐怖が薄れてくる。
あー、つまりそういうことか。彼女はお腹が空いていて、俺にメシをくれとねだっているのか。へー、そうなんだ。
「……お願い。私を助けると思って、マラルをちょうだい?」
そう言うと、女はおもむろに着物の襟を持ち、スルリと肩まではだけさせた。
「マラルが欲しい。マラルが欲しいよぉ……」
そして女は、そのまま上半身を完全に露出させた。赤褐色ではあるが立派なアレが、ぷるんと露わになった。
俺は目を見開き、ソレを凝視する。なんだかラップを貼っているかのようにテカテカしているし、先端の突起物は邪悪な紫色をしている。
しかし、おっぱいだ。
みんな違って、みんな良い。
「ほら、触ってもいいのよ? こっちへおいで。さあ」
俺はゆっくりと腰を上げ、一歩を踏み出す。
「マスター。お待ちなさい」
「いやだ! 彼女を助けるんだ!」
「いいえその必要はありません。死にたいのですか?」
「俺はもう死んでんだろ? 今更、何を恐れることがある」
俺はさらに一歩を踏み出す。
「……ちょっと、マジでやばいですよ?」
「チンコが喋ることのほうがよっぽどやばい」
「……わ、わかりました。わかりましたから、まずは私の話を聞いてください」
「頼むから黙っていてくれ。目の前のことに集中したい」
「この世界に、叉神は沢山いますよ?」
その言葉に、俺の足が止まった。
「……ほう。続けてくれ」
俺が言うと、チンコことエクスカウパーが安堵したように深く息を吐いた。ような気がした。
「博士いわく、この世界には、人間の男性10人に対して叉神がひとり存在するとのことです。ですので、街を歩けば叉神はどこにでもいます。そして男性に射精を促すことは叉神にとって生存戦略に直結しますので、男性が射精をしたくなるような容姿をしているそうです」
ほう。つまり、この世界には男の精子をねだる容姿端麗な女が沢山いると。それ、異世界っていうか、もはや天国では。
ん? でも、その理屈だと――。
「あ! オチが見えたぞ。だったら、目の前のおっぱいはどういうことだ? 生存戦略に直結するなら、もっと普通のおっぱいをこさえるはずだ。つまりこの世界は、あんなおっぱいが大好きな妖怪ばかりがいる世界ってことだろ。はい解散解散。期待させやがってこのクソチンコが」
「いえ、そんなことはありませんよ。あのような異形の女が生まれる理由については、博士はこう言っていました。世にいる男の数だけ、フェチが存在するからだと」
エクスカウパーなんていうネーミングをしている時点で薄々気がついてはいたが、その博士ってのも、まともじゃねえな。
「フェチの数だけ、叉神はいます。実際のところ、生前のマスターのまわりにも、鬼や悪魔やドラゴンでヌイているご友人のひとりやふたりいたのでは?」
まあ、あの手の鬼女や、サキュバスなんかの淫魔ならわからなくもない。しかしドラゴンというのは……いや、それもインターネットで見たことあるな。
「叉神の容姿は、その叉神のちからや性格を知るヒントになります。つまり、人とまったく同じ姿をした叉神は、それこそ食事以外は人間と変わらないことが大半です。一方で、ネコ耳の生えた叉神などは、優れた脚力と気まぐれな性格を持つことが多いですね」
なるほど。つまり裏を返せば、この世界には異形のモンスターたちが沢山いると。そしてそいつらは、数多ある変態的フェチズムが生み出したのだと。
「もうおわかりでしょう? あの叉神には警戒して然るべきです。こんなところで死の危険を犯すくらいであれば、無事にここから出て、危険ではない叉神と出会うことのほうが、マスターにとって良い選択であると思いますが」
うむ。チンコに諭されるのは癪だが、言っていることが本当であれば、ぐぅの音も出ないほどの正論だ。
「外の世界には様々な叉神がいますよ。エルフやバットマンレディ。ナースやロリっ子魔法使い。はたまた、人魚やガンダム――」
「オーケイオーケイ。もうわかった」
最後まで聞かずとも、すでに俺の腹は決まっていた。むしろ、ここまで聞いて、冒険心がくすぐられない男子などいるだろうか? ってか、やっぱりこの異世界転生、大当たりじゃないか? シコシコと慎ましく生きてきた俺に、神さまからのご褒美かもしれない。
すでに俺の目には、テカテカの褐色おっぱいなど映っていなかった。牢屋の外に広がっているだろうユートピアに、ただただ胸を踊らせていた。
そんななか、
「……ったく」
しばらく黙っていた女が、言葉を漏らした。
「もういいわよ。しおらしくしてるうちに出せばよかったのに。ここから逃げるときのマラル袋として使ってあげようかと思ったけれど、もう我慢できないわ」
そう言うと、女は顔を上げ、目を見開いた。さらに口を大きく開けたかと思うと、そのままクパッと口が裂け、喉の奥から丸太のような太さの大蛇が姿を現した。
「キンタマゴト、食ッテヤル」
そう言った直後、大蛇は鉄格子のあいだを素早く抜け、俺の股間へと一直線に伸びてきた。
――え、そんな急に。ってか、あれ? もしかして俺、死んだ?
そう思ったとき、
ジャキンッ! と鈍い音とともに、大蛇の首が二分された。
「キィィィェェエエエ!!!!」
切断された大蛇の断面からおびただしい量の血が撒き散らされる。俺のチンコの手前30cmほどの床に落ちた大蛇の頭はゲボゲボと血を繰り返し吹き出し、俺の股間を紫色に染めている。
一方、鉄格子の向こうに見える女は狂ったようにガリガリと頭を掻きむしっている。やがて見る見るうちに髪の毛が真っ白に染まったかと思うと、ドサッとその場に突っ伏した。
「う、うぅぅぅ……ヴァ……ヴァリリヴァさま……」
何やらつぶやくと、女は完全に動かなくなった。
「あなたは――」
通路に仁王立ちしている大剣を携えた女の姿を、俺は血の気が失せた目で眺めていた。
「ここで、何を話していたのですか? 先ほど、この叉神が逃げるなどと言っていたようですが」
輝くばかりの金髪に、細い体には似つかわしくない重厚な鎧。そして、身の丈よりも大きな大剣。紛う方なき"女騎士"が、俺の股間に冷たい視線を注いでいる。
「出なさい。取り調べをおこないます」
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