第3話 兎と狼

脳裏にあの風景が蘇る。

あの時以来、私は人の前で話すことが

苦手になっていた。


何故私はあんな目で見られなきゃいけないのだろうか。

勇気を振り絞り、仲の良かった周りの子達に聞いてみた。返ってきたのは、

「睨んできて、性格悪そうだったから」

たったそれだけの理由だった。

そもそも私は、人を睨んだりしない。

人に怒る時だけだ。だとしても、怒る理由がない限り、そんなすぐに怒ったりしない。

小学生の私は、目が悪かった。

眼鏡をしてない私は、必死に物を見ようとした挙句、人を睨んでるように見えたのであろう。

だが、それが理由だとしても馬鹿馬鹿しい話だ。

目つきが悪いから性格も悪い、何故決めつけてしまうのであろうか。確かに、人の想像で悪そうな人、怖そうな人と言うと「目つきが悪い人」が連想されるだろう。

だが、それがこの世の正解ではない。

目つきが悪いのには、理由だってあるはずだ。それなのに、勝手な憶測で決めつけられるのはこちらとしても訳の分からない話である。


私は、事実を伝えようと教えてくれた友達へ伝言として私の目が悪かったこと、睨んでいるように見えたことを謝罪した。

自分が謝ることさえおかしいことであるが、

ここで反論した所で、今後の展開は読めている。あの時、獲物を捉えたような目をして見てきた狼は、もう二度と兎に対してその目を向けることはなかった。


その後、何事もなく小学校生活を終えた私であったが、まだまだ試練は続いていた。



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拝啓、孤独を感じている私へ 夏鈴 @karin_0707

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