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「いらっしゃいませ。何名様でいらっしゃいますか?」


 店に入ると、俺と朱莉に気がついた店員がこちらにやってくる。


「ふたりです。」


 朱莉が人数を伝えると、店員は、


「お2人ですね、かしこまりました。今、店内混んでおりまして、10分から20分ほどですがお待ちになると思いますが、よろしいですか?」


 と返す。俺は朱莉の方を向く。すると、オロオロした様子で、


「ど、どうします?私待てるか分からないんですけど……。」


 朱莉はそう言う。……10、20分しかないと言われているのに、待てるかわからないとは……。


「無理なら諦めるか?」


 一瞬考えるそぶりをみせた朱莉。しかしすぐに答えは出たようで、


「……。帰ります。」


 と呟く。その声は少しだけ震えているような気がした。しかしその顔を見る事なく、彼女は踵を返し自動ドアをくぐって外へ行ってしまった。


「承知いたしました。またのご来店をお待ちしています。」


 店員は深くお辞儀をした。俺は店員に少し頭を下げると、先に出ていった朱莉を追いかけた。





「予約はきちんとするものですね……次からは気をつけます。」


 目に見えて落ち込んでいると分かる朱莉。そんなになるほど楽しみにしていたのだろうか?


「そうだな。……混んでたな。」


「ですね……。」


 視線は俺の方を向いていないどころか、上を向いていない。


「なあ、そんなに落ち込むほどのことか?」


「だって……楽しみだったんですもん。」


 楽しみだった、か。俺といることに、朱莉はそんな感情を抱いていてくれるのか。


「気持ちは……まあ分からなくもないが。また行けばいいだけの話だろう?」


「あそこのお店、ずっと気になってて……だから、最初は冬樹くんと行きたかったのに……。」


「俺と……?」


「え…、あ……あ!な、なんでもないです忘れてください!」


 ばっと立ち上がる朱莉は、泣きそうな顔を真っ赤にさせていた。


「今言われた事をすぐに忘れるのは無理だが、気にはしない。……そうだな。代わりにはならんだろうが、一緒に買い物に行こうか。朱莉が好きなものを作ってやるから。」


「一緒にお買い物、ですか?」


「ああ。何でも作ってやる。今日は豪華にいこう。」


 落ち込む朱莉を元気付けるためなら、少しくらい散財してもいいと思った俺は、彼女を連れてスーパーへ向かった。





「これはどうですか?」


「どれだ……?」


 俺は朱莉の持っている品を見る。


「……なあ、なんで割引されてるやつばっかり選ぶんだ?なんでもいいって言っただろ?」


 彼女が選ぶのは、「半額」や「20%・30%オフ」のシールが貼られたものばかりで、さっきOKをだしてカゴに入れたものも、同じようにシールが貼られていた。時間的にもそういう品が多いとはいえ、その品が並べられている棚に行けば、もっと美味しそうに見えるが割引価格が低いものもあった。


「そうは言っても、お金は有限ですし。」


「あのな……それは俺が気にすればいい事だ。朱莉が気にする事じゃない。これでも食費はかなり抑えている方だし、今月分は余裕があるしな。」


 今月分の食費として叔父上からいただいたお金の半分は未だ残っている。そろそろ四月が終わりそうになっているのにだ。


「でも、ゴールデンウィークっておでかけをするんですよね?ということは、楽しむのにお金は少しでもあったほうがいいですよね?」


「それはそうだが……。こちらに返ってきた時に土産を渡すにしても、俺は人数自体それほどいないし、あまり困らないんだ。」


 多く見積もって十人程度。土産だって1つか2つ買ってくればそれで足りてしまうほどに少ない。


「む……向こうで自由に使えるお金が減ってしまいます。」


「それは食費とは別でくれると言っていた。『楽しむためには、そういう配慮も必要だろう?』とな。朱莉は気にしなくていいように、ってことだろう。」


 俺はいらないと言ったのだが、叔父上は断固として譲らなかった。足らなくなったらいつでも言え、とも言っていた気がするが、使い切るなんて無理だ。提示された金額では使い切る未来など俺には到底見えない。


「じゃ、じゃあ。もうちょっと選んできていいですか?」


「ああ。でもあまり買いすぎるなよ。今日、明日、明後日で食べ切れると思う量にしてくれ。」


「はいっ!」


 彼女は、あまり人のいないスーパーの中を小走りで抜けていく。







「うう……食べすぎました……。お腹張り裂けそうです……。」


「……そうだろうな。あれだけ作ったなら残るだろうと思っていたのに、ほとんどないんだからな。」


 テーブルいっぱいの皿に盛られた料理は、今やほとんど残っていない。残っているのは、明日明後日も残るだろうと多めに作っていたものだけだった。まあ、それすらもほとんど残ってなどいないのだが。


「好きなものばっかりだったので欲張っちゃったんです……。」


「8割……いや9割は朱莉が食べてるしな。いい食べっぷりだったぞ。」


 美味しい美味しいと、俺の作った料理をどんどん口の中へ運んでいくその食べっぷりたるや、凄まじいものがあった。


「……冬樹くん、あの……これは私が気にしていないのが悪いんですけど……ご飯食べてました?もしかして私が全部食べてしまってますか?」


「大丈夫だ。食べてないわけないだろ。」


「で、ですよね……私1人でこんな食べてるはずがないですもんね……?」


 朱莉は知らない。俺が自分の分を、最初から並んでいる皿から除外していたことを。ここにある皿の全てを、1人で平らげてしまっている事実を。




 —————後書き—————

 どうも、寒さによって休日は家に篭りきりな、しろいろ。です。宣言から一週間立ってないのでセーフ……ですよね?……セーフですねありがとうございます。

 ということで、しろいろ。でした。ではまた。

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