79


「……。」


 カーテンから漏れる光で、目が覚める。


「……朝……では、ないか。」


 この部屋に、朝日は入らない。昼を過ぎてからようやく日が入る。だから朝はかなり暗い。


 俺は枕元の体温計が目に入る。熱はないと思うが……一応確認しておくか。


『ピピピピピピピピッ、ピピピピピピピピッ、ピピピピピピピピッ』


 表示されたのは35.8℃、平熱になっていた。


 まあ自分の熱は下がったことはいいとして、今は一体何時なんだろうか。俺は枕元に置いてあったスマホで時間を確認する。


「2時か……。」


 昼食を取るにも中途半端な時間だな……。まあ、後で何か冷蔵庫に入っているか見ておこう。



 ◇



 シャワーを浴びてからリビングへ戻って、昼食を探すため冷蔵庫を開けた。冷蔵庫の中には特に俺がちょうどいいと思うものはなかったが、この間買ったパンがテーブルの上に置かれてあったので、それを一枚トーストして食べることにしたのだった。


 食べ終わると、やることがなくなってしまった。朱莉がやってくれたのか、洗濯物はきちんと干されていたし、食器も綺麗に洗われていた。


 叔母上か……?だが、叔父上や紗希の食事やら、ここにいては立ち行かないものもある。叔母上がやりにきたのは流石に違うと思うが、朱莉が全てをこなせるとも思わない。一体何があったのか、そんな、どうでも良いことを考えていると、朱莉が帰ってきた。


「ただ……うぇ!?」


 おそらくは、『ただいま』と言おうと思ったのだろう。だが、俺を見て変な声を上げた。


「も、もう元気になったんですか?」


 何をびっくりしているのだろう。俺がいたところで、普通なら治ったんだな程度しか思わないはずだが、彼女は大袈裟に驚いた。


「ああ。まだ少しだるいが、熱もなくなっていたし、食欲もあったんでな。パンを一枚食べたが、これは食べても大丈夫だったよな?」


 俺は先ほど袋を開けたパンの方を指差し、そう聞いた。


「は、はい。食べても大丈夫なやつですけど……あ。」


 そう言うと、彼女は鞄からプリントを数枚取り出した。


「あの、これ、授業プリントとか、保護者会の案内とか、冬樹君がお休みしている間にいろいろと配られていましたので、もらっておきました。どうぞ。」


「あ、ありがとう。保護者会……、相談してみるか。」


 後で叔母上に連絡しておこう。


「休んでいた間の授業ですけど、学校配布のタブレットで授業の内容を録画しているとのことので、それぞれの担当の先生に言えばその動画を貰えるらしいです。」


「分かった。何から何までありがとう。」


「いえ、大丈夫ですよ。あ、ちょっと由紀さんに連絡を入れてきますので、ここにいてくださいね。」


 そう言うと、朱莉は携帯を持って廊下へ行った。


 なぜ叔母上に連絡をいれる必要があるのだろう。もしかして今日も来るつもりだったのか?


 なんて考えていると、朱莉が戻ってきていた。


「?どうかしました?」


「いや、なんでもない。」


「あ、そう言えば昨日は由紀さん、優一さん、紗希ちゃんが来ていましたけど、うるさくなかったですか?」


 ?


「あ、えっとですね。昨日、冬樹くんから頂いたお金で、夜ご飯を買おうとしたのですが。由紀さんが、紗希ちゃんと優一さんを連れて来て、一緒にご飯をいただいたんです。」


「あ、ああ。なるほど、そういうことか。」


「何かおかしいことでもあったんですか?何か納得したようですけど。」


「いや……言ったほうがいいか?」


「言わないとダメです。気になります。気になって眠れません。」


 そこまで言うか。


「分かった。言おう。だが……怒るなよ?」


「怒るな……?ま、まあ内容次第ですけれど、どうぞ。」


「朱莉が1人で食器や洗濯物を片付けられるとは思わなかったから、相当綺麗に保たれていたのにびっくりしていたんだ。まあ……紗希や叔母上が来ていたのが確かなら、それも納得だな。」


「それは私が家事できないと思っているってことですか?」


 何故だろう。ゴゴゴと聞こえる気がする。


「いや。そう言うわけじゃない。ただ、家事だって料理以外にも多いだろう?最近は俺も朱莉の手伝いありきで動いているからな。1人だと大変だろうから、少しくらい貯めているものだと思っていたんだよ。」


「な、なるほど?」


 まあもちろん、キッチンが綺麗かどうかは重要事項ではあったし、なんなら夢の中でさえ、目の前でキッチンが悍ましい姿へ変わるという悪夢を見たくらいだ。


「だが、そういうことも全部杞憂だったみたいだ。本当、迷惑かけたな。」


「そうですよ!大雨の中無理に買い物に出掛けて!挙句高熱でぶっ倒れて!迷惑極まりないです!」


 少し大きな声で、朱莉は言った。


「ああ。本当、すまなかった。」


「でも。でもですよ?迷惑って言うよりも、ずっと心配してたんですよ、私。本当に治ってよかったって思ってます。」


「……心配してくれてたのか。」


「私だけじゃないです。優一さんも、由紀さんも、紗希ちゃんも。みんな、冬樹くんのこと心配してました。」


 俺を……?


「ねえ冬樹くん。今あなたは1人じゃないんです。みんな、見てくれてるんです。何かあったら、心配するんです。」


「そうか。」


「そのことを、絶対に忘れないでください。いいですか?」


「あ、ああ。分かった。」


「ということで、明日は一緒に外に食べに行きましょう。」


「え……?」


「さ、今日は病み上がりなのでご飯食べたら寝てください。」


 その日は、朱莉が買ってきた惣菜類を食べて、すぐに寝させられたのだった。





 ———後書き———

 どうも。寒いのはやっぱり大嫌いなしろいろ。です。もう朝は寒いですね。昨日や一昨日なんか、もう冬かってくらいに、日中も寒かったですよね。服も長袖に変えて、上着をきちんと着て、それでようやく外に出られるぞってくらいには、僕にとってはものすごく寒かったんです。

 ま、僕の話はいいとして。なんと今日、10月9日で、このお話の第一話投稿から一年が立つのです!……まあ、何かするわけでもなく、おめでとうありがとう以外特にないんですが、本当に一年間ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。ではまた。

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