74
健康診断、当日。女子の測定が終わった後、11時半より男子の測定が開始した。
体育館や校庭、校内に設置された会場を周り、視力・聴力や歯科・内科などを巡った後に、最後の、身長・体重の計測場所である体育館につく。身長の計測を終えて体重計測の最後尾に並んで少しの間待っていると。
「うー、あちーなー。」
あちーあちーと連呼しながら、俺の真後ろに隼人が来た。
「……お、冬樹じゃん。身長測ってきた?」
振り返って隼人を見ると、暑いのだろうか、ジャージの袖を捲り、手に持った紙で自身に向けて仰いでいた。そんなに暑くないと俺は思うのだが、そういえばさっき会った2人も袖を捲っていたので、もしかすると暑いのかもしれない。
「……ああ、そうだ。だから、今から体重だな。」
「俺もこれから体重。てか、お前最近ちょっと伸びてたよな?何センチだった?」
さっきもおんなじような2人が来たな、なんて思いながら、自身の記録を告げる。
「180センチジャストだったな。去年より5センチも伸びたらしい。」
もう成長期も終わり、身長も伸び切ったものとばかり思っていたが、まだ伸びるらしい。とは言っても、これ以上大きくなるのも勘弁だ。身長が高くなればなるほど、否が応でも目立つようになる。俺の家柄を見て擦り寄ってくる者を退けるのも面倒なのだ。まあ、今もさして目立っていないから、これまでと変わらないとは思うが。
「マジかよ。俺なんてたったの1センチだぞ?」
「伸びてるだけマシじゃないか?さっき堂島やら西園寺と会ったが、どうもほとんど伸びていなかったらしくてな。俺の記録を見て恨めしそうにしてたぞ。」
その2人が先程までおり、俺に記録を見せてくれと言ってきた。別に断る理由もないので紙を見せた後に、「僕、ほとんど伸びてないのに……」やら、「嘘だろ……」などと言い、自分の記録を抱えてそそくさと消えていった。ああいう反応や、彼らの記録用紙を俺に見せてくれなかったことから察するに、彼らはあまり伸びていなかったのだろうと、勝手に思っている。見たところでどうするのかといえば、別に何もしないのだが。
そんなふうにさっきの出来事を思い出していると、隼人が口を開く。
「ま、まあ。確かに、まだ1センチでも伸びてるだけマシだな……。」
「そうだな。まあ、身長が高かろうが低かろうが、関係ないだろ。」
「そうだけどさぁ。やっぱりあったほうがいいだろ。」
「そう思うのなら、もっと早く寝ることだな。」
「睡眠時間、たったの2時間のお前にだけは、絶対に言われたくねえよ。」
「まあ、それはそうかもしれないな。お前からしたら、短い部類なんだろう?」
「当たり前だ。俺だったら授業まともに受けられねえしな。」
そこまで話をした後に「次の方どうぞー」と声がしたので、話はそこで終わったのだった。
『ガチャッ』
私が「我慢できなかったらこれを食べていてもいいぞ」と言われて冷蔵庫に入れてもらっていたりんごを、結局我慢出来ずに食べていると、ドアが開いて食材の入った袋を抱えた冬樹くんの姿が見えました。
「……ただいま。やっぱり食べてたか。」
私の手元にある、丁寧に皮を剥かれて切り分けられ、塩水に漬けられた状態のりんごをつつく私をみて、どこか諦めたような冬樹くんの顔がそこにはありました。
「お腹、やっぱり空いてしまったので……。」
そこまで言ったところで、恥ずかしくなってしまいました。なんて食い意地を張っているのかと、思ったからです。
「……まあ、一時も過ぎたからな。仕方ないか。で、ご飯は普通にいつも通りの量を食べるのか?それとも少し減らすか?」
「いつも通りの量でお願いします。」
減らすなんて選択肢は私にはないので、いつも通り食べるのです。
「そういえば、今日身長体重の測定でしたよね?」
食後にお茶を飲みながらゆっくりと過ごしていると、朱莉がふいに話を振ってきた。
「記録、伸びてたりしましたか?」
「ん……身長ならな。」
体重は1キロ減っていたのがショックだったが。
「伸びてるんですか……。」
「180ピッタリだったな。去年の測定から5センチ伸びた。」
俺がそう言い、お茶を口に持っていくと。
「5センチも!?『ガタンッ』」
突然朱莉が立ち上がった。その勢いでお茶の入った湯呑みが揺れる。
「……危ないから、一旦落ち着け。」
「はい。……ん、んっ。」
俺はあくまで落ち着けと言っただけで、お茶を飲めなんて言っていないが、彼女が落ち着いたようなのでそれについては聞かなかった。
「それで、その。5センチも伸びていたとは一体、どういうことですか?」
「そのまま、俺の身長が五センチ伸びていたというだけだが。」
去年から約5センチ伸びた、それは紛れもない事実である。それがどうしたと言うのか。
「不公平だと思うんです、伸びて欲しいって思っている人がちっちゃいままで、身長に関して無関心な人が伸びるのは。」
「その言葉は、昨日『好きな人にお姫様抱っこをしてほしい』と言っていた口から出ているんだな?大きくなったらお姫様抱っこしてもらえないかもしれないのにか?」
昨日の話を引き合いに出してからかいながら、彼女の反応の全てを見逃さぬように見つめる。
「う、うぅ……!昨日の話を蒸し返すのは反則です!それはもう忘れてください!」
「どうだろうな?そんなに都合よく忘れられるか……。」
頬を赤らめて俺の言葉に一生懸命反論を述べる朱莉を見て、愛らしいと感じる。だからもう少しからかいたくなった。
「わ、笑いましたね!?もう許しませんからね!?忘れるまで……いやえっと……私のお腹が鳴るまで、口も聞きませんよ!?」
一生ではなく、自分の腹が鳴るまでとは。どうやら怒りに食欲が勝ったらしい。もっとからかってやろう。
「じゃあ、今から何か食べようか……。」
俺は立ち上がって何を持ってこようか考え始める。
「えっ!?なんですか?」
やっぱり乗ったか、と思って追撃を放つ。
「お腹鳴るまで話さないんじゃなかったか?」
「あっ。……はい。今、それやめました。」
予想外の返答にびっくりして、固まる。
「……ん?どういうことだ?」
「もう気にしてませんってことです。さあ、何が出るんですか?」
まさかこんなに早く切り返すとは。朱莉の食欲恐るべし。
結局、キッチンを漁ったらあった、せんべいを出してやった。さっきまで拗ねて「話なんてしません」と言っていた姿は、どこにも見えなくなっていた。
————後書き————
まずは謝辞からさせていただきます。なんとこの作品が、20000pvを突破しました。サボり癖が酷くて碌に投稿していない僕だというのに、離れていかずにじっと待ち、見続けていてくれたことに、感謝しかありません。本当に、ありがとうございます。
話は変わりまして、僕は先週の土曜日にコロナのワクチンを打ってきました。
熱出るかなー、なんて心配していましたが、結局は出ず。腕痛いなぁって思いながら天井を見上げ、気がつけば夜になる、なんて生活を送っていた、その後の2日間。それを友達に話したら「大丈夫?」と心配されました。いつも、出かけたりしない休日はこんなんですし、オールウェイズ平気ですが。
その後は休んだ皺寄せが一気に。この時間まで休みなく仕事ですよ。たった一日、月曜日に休んだだけで日曜まで仕事しに行くことになるとは、思ってもいませんでしたがね。そのせいでクリームヒルトは、第一再臨すら終わっておりません。今はそれどころじゃないので。
とにかく今は疲れたので、早く家で寝たいですね。週一ペースはギリギリ途切れてません……多分。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます