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試験当日、俺はよくペンが進んだ。
やめ、と試験監督者の試験終了後の合図の後、座席後ろから順々に解答用紙が回収されていき、半日がかりで行われた試験は終了した。
「北代君、やけに嬉しそうですね。」
「ん?ああ、新堂か。今回の試験は、自信があるんでな。」
朱莉との勝負に圧勝できる可能性があるからな、とはここでは言わないが。
「そうなんですね。」
彼女が俺に話しかけてくることに、周りの男子は俺に少し恨みがましい目を向けられていた。まあ、接点もない奴らが朱莉から話しかけられる筈がないし、俺も話しかけようとも思わない。
そして会話はすぐに終わり、俺が帰りの準備を再開すると、
「冬樹君!試験どうだった?」
どうやら帰り支度を済ませた状態の、堂島と海原がそこにいた。
「堂島と海原か。今回の試験は、少し自信がある。多分最高得点だと思うかな。今回の試験は、なぜか随分簡単に感じた。」
「え?すごくない?数学とか時間足りないんだけどって感じだったよ、僕。」
「光は一問に時間をかけすぎだと思うけど……。それと冬樹君、自信があるってどれくらい?」
海原は俺が言った自信があるという言葉に興味を示したようで、食い入るようにそう聞いてきた。
「筆記やらなんやらといったものの点数を除けば、それ以外のマーク問題は満点だと思うくらいだ。」
「ふぅん……。流石、稀代の天才と言われたことはあるって感じだね。」
稀代の天才?俺はそんなこと言われたことないが。というか初耳だが。
「おぅい、座れお前ら。ホームルームだぞ。」
「あ、ごめんまた後で。」
そして2人は自分の席に戻っていった。
そして諸連絡が始まると、
「ねえ、冬樹くん。」
すぐ隣に座る朱莉が、小さな声で俺に話しかけてきた。
「なんだ。」
「満点かもって、本当ですか?」
「本当だ。今回はいつもよりペンの進み具合が良かったんでな。」
「そ、そうですか……。」
「何かあったのか?」
「い、いえなんでも。」
しかしそれからも、彼女はボソボソと何かを呟いていたのだった。
「今日、一緒に帰ろー!」
「……光が勝手言ってごめん。ただ、俺もしっかり話してみたいしね。いいかな?」
「もちろんいいが、堂島たちの帰宅方面はどっちだ?」
方向によっては断らざるを得ない。昼食の準備に時間がかかればかかるほど、朱莉が不機嫌になってしまうからだ。
「駅のほうだよ。」「俺も同じ。」
「駅なら大丈夫だ。ちょうど買い物して行こうと思っていたからな。」
朱莉の昼ご飯の材料の、買い出しにだ。
「そっか、じゃあ良かった。」
にぱっと堂島は笑い、俺を待っているのか、準備を終えて机から立つまで待っていたのだった。
「連絡先、交換しないの?」
「え?」
誰とだろうか。
「なんだか、2人には仲良くなってほしいかな、って。」
「海原と、か?」
「僕とは交換してるでしょ?もう一回交換しようなんて言わないよ。」
「冬樹君がいいなら、是非交換させてほしい。聞きたいことは山ほどあるし、一ノ瀬君と一緒に、是非アドバイスさせてほしいしね。」
一体、なんのアドバイスなのか。それは、よく分からない。聞こうとも思わない。なぜなら、隼人が関わる案件はだいたいロクでもないものだからだ。
「まあ、一応言っておくと俺はスマホをあまり触らないからな。連絡はあまり出来ないぞ。急用があるなら学校で話してくれる方がありがたい。」
「分かった。ありがとう、教えてくれて。」
そうしてまたひとり、LINEに登録された名前が増えたのだった。
「はぁ……。人、多かったな……。」
昼時、本来なら人もそこまでいないと思っていたのだが、今日に限って人が多かった。そのせいもあってか、レジを抜けるのも結構な時間がかかってしまった。
食材を持ちながら走るなんて芸当は俺にできるはずもないので、歩いて帰る。
その道中、突然電話がかかってきた。
「冬樹くんのお祖父様とお祖母様、ですか?」
インターホン越しに聞こえるのは、老年ながら弱々しさを感じさせない男の人の声でした。確かに祖父と言われれば、どことなく冬樹くんに声色が似ている気もします。
『ああ。冬樹はいるかな?』
出るべきでしょうか。でも、今はいないので、もし違ったらと思うと……。
「すみません。冬樹くんは今いないので、連絡してきてもらうようにします。そこまで遠くには行っていないはずですので、すぐ戻ってくると思います。少しお待ちいただけますか?」
『ああ。構わない。すまないね、不在中に来てしまって。』
「いえ、そんなことはないですけど……。」
そうして一旦インターホンを切って、スマホを探しに行きました。
『もしもし?どうした。今帰ってる途中だから、飯は気にしなくていいぞ。』
歩いて帰っている途中でしたか……。
「私、いつでもご飯ばっかりじゃないですよ……。あのですね、冬樹くんのお祖父様とお祖母様と名乗る人が来ておりまして。」
『家にあげたか?』
冬樹くんは、声は優しいのに、どこか怒っているような気がしました。
「いいえ。会ったのも随分と昔のことですし、違ったら嫌ですからあげてませんよ。」
『そうか、それは良かった。じゃあ、すぐに帰るから少し待っていてくれ。本人たちなら俺がそのままあげる。』
「分かりました。」
電話はそのまま切られましたが、それから5分後には、冬樹くんが帰ってきていました。
————後書き————
どうも、しろいろ。です。同居人はなんとか全快し、謹慎状態もようやく解除されました。取り敢えずは大きな波は去った感じですので、投稿を頑張りたいと思っている所存です。では、また。
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